第十章 第三十六話 王都バブルの正体
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王都の朝は、今日も平和だった。
市場には人が溢れ、果物の香りが漂い、子どもたちが走り回る。
だが――
ネコルトの目には、それが異様な光景に映っていた。
「……増えてますね」
彼は通りの両脇に貼られた紙を指差した。
『住居を持とう!』
『保証付き永住権付き物件!』
『未来価値固定型居住契約!』
『月々の支払いは銀貨三枚から!』
クリフが首を傾げる。
「……普通の売り文句じゃないか?」
「違います」
ネコルトは一枚を剥がし、裏を見る。
「残価設定型です」
「ざん……なに?」
「要するに」
ネコルトは歩きながら説明した。
「今は安く住める。でも契約満了時に“残価”を一括で払えなければ、家は没収。さらに差額は借金として残る」
ミーニャが眉をひそめる。
「えげつない」
「ええ」
ネコルトは静かに言った。
「低所得層向けに見せかけた、搾取構造です」
ダイアンが低く言う。
「……逃げられない罠だ」
「その通り」
ネコルトは、露店の前で立ち止まった。
そこでは、裕福そうな商人が貴族と話している。
「この物件は将来価値保証ですから!」
「王都拡張計画が控えておりますので、三年後には倍以上に!」
「保証は?」
「魔法契約書で!」
ネコルトの目が細くなった。
「……魔法担保」
ヘトルビースが耳を伏せる。
「嫌な匂いにゃ」
ネコルトは頷いた。
「価値の根拠が、すでに幻想です」
彼らは通りを進む。
すると――
別の広場で、演説台が設置されていた。
大臣派の貴族の一人が声を張り上げている。
「王都の発展を、すべての市民に!」
拍手。
「新たな住宅政策!」
歓声。
「将来価値保証型不動産!」
どよめき。
ミーニャが囁く。
「……やってるな」
「ええ」
ネコルトは静かに言った。
「私のやり方を、悪い意味で完璧にコピーしています」
彼は続けた。
「価値を作る → 保証する → 流通させる → 担保化する → 証券化する」
クリフが目を丸くする。
「……なに?」
「“家”を“投資商品”に変えているんです」
ダイアンが呟く。
「……住む場所が、賭けになる」
「ええ」
ネコルトの声は冷たかった。
「しかも今回は――」
彼は指を鳴らす。
「貴族同士が、互いに投資し合っています」
ヘトルビースが首を傾げる。
「……それ、ダメなのかにゃ?」
「最悪です」
ネコルトは即答した。
「これは、価値の空回りです」
彼は説明した。
「実体のない価値を、互いに担保にして膨らませている。誰かが転べば、全員が崩れる」
ミーニャが腕を組む。
「爆弾じゃん」
「ええ」
「しかも――」
ネコルトは足を止めた。
露店の片隅で、老婆が震える手で契約書を握りしめていた。
文字は細かく、難解で、魔法印が押されている。
「……この人たち」
彼は、その紙をじっと見つめた。
「“終わり”が用意されていません」
ミーニャが眉をひそめる。
「どういう意味?」
「搾り取る設計にはなっている」
「でも――」
ネコルトの目が、静かに細くなった。
「逃げ道が、条文の隅にだけ書いてある」
クリフが言う。
「……それ、偶然か?」
「いいえ」
ネコルトは、はっきりと言った。
「これは、“使わせない前提”で用意された逃げ道です」
彼は小さく息を吐いた。
「……市民は、これを知らない」
そして、低く呟いた。
「――なら、知らせるだけでいい」
ミーニャが一瞬、言葉を失う。
「……まさか」
「ええ」
「ええ」
ネコルトの声は、静かだった。
「このバブルは、“内側から”崩せます」
王都の空は、今日も青かった。
誰一人として、まだ気づいていない。
――この街が、もうすぐ“逆流”を始めることに。
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また、おかまバー〈ゴールデン戦国〉の夜話 ― 推し義龍様と転生ママ ―も連載中です。
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