第十章 第三十五話 王都に吹く、不穏の風
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王都の門が見えたとき、ネコルトは小さく息を吐いた。
「……戻ってきましたね」
見慣れた城壁。行き交う商人の列。賑わい。
だが、空気が違う。
ミーニャが目を細める。
「静かすぎる。人の数は多いのに、視線が多い」
クリフも頷いた。
「敵意混じりだな。歓迎じゃない」
ダイアンは無言で盾を背負い直す。
ヘトルビースは耳を伏せ、尻尾を揺らした。
――そして。
路地の影から、揃った足音が響いた。
「……来ます」
ネコルトが言った瞬間、通りの両側から武装した兵が現れた。
数、二十。
揃いの鎧。
貴族家の紋章。
正規軍ではない。
「私兵だな」
クリフが吐き捨てる。
中央に立った男が一歩前に出た。
「商人ネコルト。王国秩序攪乱の疑いにより、貴様を拘束する」
ミーニャが笑った。
「早いな」
ネコルトはため息をついた。
「話し合いの余地は?」
「ない」
「でしょうね」
次の瞬間――
クリフが地面を蹴った。
「――来いよ!」
槍が閃く。
一人、二人、三人。
鎧ごと吹き飛ぶ。
同時にミーニャが消えた。
視界の外から、喉元に刃。
背後から拘束。
「静かにしろ」
兵が倒れる。
ダイアンは前に出た。
盾を構え、敵の攻撃を一身に受け止める。
――鈍い音。
斧が叩きつけられる。
剣が滑る。
魔法が炸裂する。
それでも、動かない。
ヘトルビースが吠えた。
「――下がれ、にゃ!」
地面から岩の獣が生まれ、敵陣に突っ込む。
混乱。
悲鳴。
逃走。
数分後。
路地には、倒れた私兵だけが残った。
ネコルトは服の埃を払う。
「……なるほど」
彼は王城の方角を見た。
「これはもう、表の喧嘩じゃない」
クリフが息を整えながら言う。
「政治か?」
「ええ」
ネコルトは目を細めた。
「“権力”のフェーズです」
ミーニャが不機嫌そうに腕を組む。
「面倒なのに来たな」
ネコルトは苦笑した。
「ええ。でも――」
彼は歩き出す。
「逃げる気はありません」
ダイアンが一歩後ろから続いた。
――前線に立つのは、いつもこの男だ。
変わらない。
ヘトルビースが小さく呟いた。
「……怖い商人にゃ」
ネコルトは王都の大通りに出る。
そこには、いつもと変わらぬ市民の姿。
だが――
貼り紙が増えている。
『不動産契約者募集』
『低所得者向け永住権契約』
『将来価値保証付き』
ネコルトの足が止まった。
「……ああ」
ミーニャが横を見る。
「なに?」
「始まっています」
ネコルトは呟いた。
「私の手法の――模倣が」
クリフが眉をひそめた。
「それ、まずいのか?」
「非常に」
ネコルトは、貼り紙を一枚剥がした。
「これは……」
彼は目を細めた。
「典型的なバブルの匂いです」
ダイアンが聞く。
「……何が起きる」
ネコルトは答えた。
「都市が、壊れます」
王都の空に、見えない歪みが走り始めていた。
それは――
剣でも魔法でも止められない種類の崩壊だった。
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また、おかまバー〈ゴールデン戦国〉の夜話 ― 推し義龍様と転生ママ ―も連載中です。
そちらもよろしかったらご一読ください。




