第九章 第三十四話 分かっている、という言葉
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「……分かってるにゃ」
ヘトルビースは、そう言った。
焚き火の向こう側で、尻尾を揺らしながら。
「ダイアンには恋人がいるにゃ」
「それは、ちゃんと理解してる」
「……なら」
ダイアンは、言葉を探した。
「なら、なぜ……」
「好きなのと、行動は別にゃ」
即答だった。
「分かってるけど、好意は消えないにゃ」
「……」
ダイアンは、固まった。
「混乱してるにゃ?」
「……している」
「にゃはは」
悪びれもなく笑う。
「それでいいにゃ」
ダイアンは、頭を抱えた。
その日から。
「ダイアン、重そうにゃ、持つにゃ」
「寒いにゃ? 毛、貸すにゃ」
「ダイアンは強くて優しいにゃ」
何も変わらなかった。
ダイアンが、
「俺には恋人がいる」
と伝えるたびに、
「知ってるにゃ」
と返ってくる。
それ以上でも、それ以下でもない。
理解している。
受け入れている。
でも、行動は変えない。
ダイアンは、どう対応していいか分からなくなった。
***
「では、次の段階に移ります」
ネコルトの声で、全員が集まる。
簡易地図。
計算式。
表。
「……何をしているんだ?」
ダイアンが素直に聞いた。
「獣人独立の実装です」
「……分からん」
「普通は分かりません」
ネコルトは即答した。
「ミーニャ」
「はい」
「このルートの警戒と情報遮断」
「了解」
「クリフ」
「おう」
「護衛と労働補助」
「任せろ」
「ダイアン」
「……俺は?」
「獣人の防衛指導」
「理解した」
「ヘトルビース」
「何にゃ」
「“通貨を介さない交易”の実演」
「……にゃ?」
二人は揃って首を傾げた。
***
だが、三日後。
形になり始めた。
獣人の毛皮。
獣人の薬草知識。
獣人の嗅覚・追跡能力。
獣人の耐寒性。
それらを、
・貨幣ではなく
・契約ではなく
・交換価値として再定義
ネコルトは“市場”を作らなかった。
“連結点”を作った。
人間の村。
魔族の辺境。
中立地帯。
獣人の特性が「必須」になる場所を先に作り、
そこに獣人を接続した。
「……にゃ?」
「……何が起きている?」
ダイアンとヘトルビースは、理解できなかった。
だが。
獣人たちが、笑っていた。
誰かに借りる必要がない。
誰かに縛られない。
働いた分だけ、必要な物が返ってくる。
借金がない。
利子がない。
所有権が分かる。
初めて。
獣人たちは、「自分の生活」を手に入れた。
「……すごいにゃ」
ヘトルビースが、呟いた。
「理解してないけど、すごいにゃ」
「それでいいです」
ネコルトは微笑まなかった。
「理解できない人のために作った仕組みですから」
***
夜。
ヘトルビースが、ぽつりと言った。
「……大魔公爵は」
全員が、静まる。
「王国の大臣を唆したにゃ」
「勇者一行を潰したのも、あいつにゃ」
ダイアンの拳が、きしむ。
「……なぜ」
「魔王軍と王国を、同時に不安定にするためにゃ」
ネコルトは、すぐ理解した。
「戦争を拡大させるためですね」
「そうにゃ」
「……魔王は?」
「魔王様は、獣人を守ろうとしてる」
ヘトルビースの声は、真剣だった。
「だから、裏切れないにゃ」
沈黙。
「……だが」
ヘトルビースは、続けた。
「獣人のためなら」
「私は、ネコルト側につくにゃ」
全員が、彼女を見る。
「魔王様は裏切れない」
「でも、大魔公爵は許さない」
ネコルトは、頷いた。
「それで十分です」
***
「……問題があります」
ミーニャが言った。
「何ですか」
「大魔公爵、王国へ向かっています」
「……やはり」
ネコルトは即座に立ち上がった。
「戻ります」
ダイアンも、即座に頷く。
「……今度は、俺も支える」
ネコルトは、少しだけ笑った。
「期待しています」
ヘトルビースは、尻尾を振る。
「にゃ」
それは、覚悟の音だった。
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また、おかまバー〈ゴールデン戦国〉の夜話 ― 推し義龍様と転生ママ ―も連載中です。
そちらもよろしかったらご一読ください。




