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『勇者一行を捨てた王国を、金融商が契約で追い詰める 〜残価設定ローンで復讐しながら、魔王から勇者も救い出します〜』  作者: ほまれ


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第九章 第三十三話 変わらぬ背と、変えねばならぬ未来

――あの頃も、そうだった。

 ダイアンは、目の前に立つ男の背を見ながら、遠い記憶を辿っていた。

 勇者一行として旅をしていた頃。

 前に立つのは、いつも自分だった。

 盾を構え、敵の攻撃を引き受け、仲間を守る。

 それが自分の役割だと、疑ったことはなかった。

 だが――

「ダイアン、左肩、血が出てますよ」

 戦闘が終わった直後。

 真っ先に駆け寄ってきたのは、剣も魔法も使えない商人だった。

「……問題ない」

「問題あります。次に響きます」

 そう言って、回復薬を惜しげもなく使い、包帯を巻き、鎧の歪みを直し、

 ついでのように水と乾パンを押し付けてくる。

 野営でも同じだった。

 焚き火の配置。

 寝床の位置。

 夜番の割り振り。

 ダイアンが無理をしないよう、自然と調整されていた。

「前に立つ人ほど、後ろの支えが必要なんですよ」

 あの男は、いつもそう言っていた。

 ――そして今。

 目の前にいるその背中は、少し痩せたが、

 立ち方も、空気も、何も変わっていなかった。

(……変わらないな)

 ダイアンは、静かにそう思った。

 だからこそ。

 だからこそ、頼ってしまう。

 ***

 ネコルトは、周囲を見渡しながら、頭の中で状況を整理していた。

 獣人たちの置かれた立場は、単純ではない。

・貨幣文化を持たない

・物々交換と共有を基盤とした社会

・「所有」「利子」「債務」という概念が曖昧

 そこへ、魔族の貨幣経済が流れ込んだ。

 結果――

 価値の基準が違う。

 契約の意味が分からない。

 数字の重みが分からない。

 そして。

 気づいた時には、借金を背負わされ、

 働いても働いても返せず、

 契約によって縛られ、

 奴隷として扱われる。

(……構造的搾取)

 悪意がなくても成立する。

 だからこそ、厄介だ。

「獣人の独立が必要です」

 ネコルトは、淡々と言った。

 焚き火の前に集まる、ダイアン、ヘトルビース、数人の獣人兵。

「独立……?」

 ヘトルビースの耳がぴくりと動いた。

「魔王の庇護からも?」

「私からも」

 ネコルトは即答した。

「依存しない形で」

 その言葉に、場がざわつく。

「それは……危険にゃ」

 ヘトルビースは、はっきりと否定した。

「今の獣人は、戦力も、経済も、外交も弱いにゃ」

「独立は、ただの切り捨てにゃ」

「そう見えますね」

 ネコルトは否定しなかった。

「初期負担は、間違いなく重い」

 インフラ。

 流通。

 自衛。

 教育。

 契約概念の再構築。

「だから、今のままの方が楽です」

 その言葉に、ヘトルビースの瞳が細くなる。

「……貴様」

 殺気が、立ち上った。

「獣人を、見捨てる気かにゃ」

「いいえ」

 ネコルトは、動じなかった。

「“支配されない”というのは、楽ではありません」

「だからこそ、価値がある」

 瞬間。

 ヘトルビースが跳んだ。

 鋭い爪が、ネコルトの喉元へ――

「やめろ」

 低い声。

 ダイアンが、間に入った。

 盾も構えず、ただ、立った。

「……下がれ、ヘトルビース」

「ダイアン、どきにゃ!」

「どかない」

 静かだが、揺るぎのない声。

「彼は、獣人を“物”として扱っていない」

 ヘトルビースの動きが止まる。

「……彼は、俺たちと同じだ」

 ダイアンは、真っ直ぐに見た。

「自由の重さを、知っている」

 しばらくの沈黙。

 やがて、ヘトルビースは爪を引いた。

「……話を、聞くにゃ」

 ネコルトは、静かに息を吐いた。

 ***

 独立準備は、少しずつ進んでいた。

 獣人たちの得意分野の整理。

 交易に向いた品目の選定。

 自衛の訓練。

 簡易的な契約概念の説明。

 その中で。

 ダイアンは、気づいてしまった。

 ヘトルビースの視線。

 距離感。

 言葉の選び方。

(……好意だ)

 はっきりと。

 だから、彼は逃げなかった。

 ある夜、見張りの時間。

「ヘトルビース」

「何にゃ?」

「話がある」

 焚き火の音だけが、響く。

 ダイアンは、真っ直ぐ言った。

「俺には、恋人がいる」

 ヘトルビースの耳が、ぴたりと止まる。

「……誰にゃ」

「ライブだ」

 名を出すことに、迷いはなかった。

「賢者の……?」

「ああ」

 ダイアンは、目を逸らさなかった。

「俺は、彼女を想っている」

 沈黙。

 焚き火が、ぱちりと弾けた。

 ヘトルビースの表情は、見えない。

「……そう、かにゃ」

 その声が、どんな感情を含んでいるのか。

 ダイアンには、まだ分からなかった。

 答えは――

 次の夜に、持ち越された。

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