第一章・第三話 「王命、闇の遺跡へ」
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毒竜王討伐から三日。
勇者一行は、山を下り、王都へ向かう街道を進んでいた。
ネコルトは馬の背で、帳簿を閉じる。
(……消耗品、回復薬、予備武器。
討伐後の補充分まで含めて、なんとか帳尻は合ったか)
勇者一行は勝った。
だが、それは余裕の勝利ではなかった。
クリフの鎧は竜の爪で裂かれ、
ネリアの拳は鱗に砕かれ、
ミーニャは毒煙の中を三度も駆け抜け、
ダイアンの盾は半ば溶け落ちている。
回復役のライブとクエラがいなければ、
誰かが欠けていてもおかしくなかった。
「……それでも、生きて帰れた」
フォードが前を見据えたまま、静かに言った。
「帰って、報告して、休もう。
あとは国の仕事だ」
その言葉に、誰も異を唱えなかった。
――はずだった。
◆
王都の門が見えた、その時。
街道脇から、騎馬が現れた。
王国軍の伝令兵だ。
「勇者フォード殿!」
馬を止め、膝をつく。
「王命を預かっております。
毒竜王討伐の功、誠にご苦労。
――そのまま、次の任務に移っていただきたい」
空気が、凍った。
「……次?」
フォードが、低く問い返す。
「はい。
王国西部、闇の遺跡。
魔王軍の拠点が確認されました。
奇襲を敢行せよ、とのことです」
「ふざけるな」
クリフが即座に言った。
「俺たちは今、満身創痍だ。
補給も休養も――」
「承知しております」
伝令は、感情のない声で続ける。
「ですが、
勇者は国家の剣。
鈍れば研ぎ、折れれば替えればよい」
ネコルトの胸に、嫌な感触が走った。
(……今の、聞き間違いじゃない)
「待ってくれ」
ネコルトは、思わず前に出た。
「毒竜王討伐の正式報告も、
戦利品の精査も、
王都で行う手筈のはずだ」
「貴殿は後から合流せよ」
伝令は、あっさりと言い切る。
「報告は必要だ。
だが、勇者一行の即応性が優先される」
クエラが唇を噛む。
「……それは、
私たちに、休むなと言っているのですか?」
「勇者殿」
伝令は、ほんの一瞬だけ、視線を逸らした。
「王命です」
沈黙。
フォードは、ゆっくりと息を吐いた。
「……分かった」
「フォード!」
ネリアが声を上げる。
「無理だ! 今行けば――」
「分かってる」
フォードは、仲間たちを見渡した。
「でも、逆らえない。
俺たちは……そういう存在だ」
その言葉が、
ネコルトの胸に、深く突き刺さった。
◆
その場で、役割分担が決まった。
ネコルトは、王都へ向かう。
毒竜王討伐の正式報告、
戦利品の引き渡し、
補給要請。
勇者一行は、
先行して闇の遺跡へ。
「すぐ追いつく」
ネコルトは、必死に言った。
「王都で全力で手配する。
物資も、援軍も――」
ミーニャが、無理に笑った。
「師匠、
大丈夫ですよ。
私たち、今までだって――」
言葉が、途中で途切れた。
クリフが、ミーニャの肩に手を置く。
「生きて待ってる」
その一言が、
冗談に聞こえなかった。
フォードは、ネコルトに近づき、低く言う。
「ネコルト。
もし、何かおかしいと思ったら――」
「分かってる」
ネコルトは、拳を握った。
「絶対に、迎えに行く」
フォードは、微かに笑った。
「……頼んだ」
◆
王都は、賑わっていた。
毒竜王討伐の噂は、すでに広まり、
酒場では英雄譚が語られている。
だが、
城の空気は、冷たかった。
「ご苦労」
大臣バルザンは、書類から目も上げずに言った。
「毒竜王討伐、確認した。
報奨金については、後日通達する」
「……闇の遺跡への王命について」
ネコルトが切り出す。
「勇者一行は、消耗しています。
補給と援軍を――」
「不要だ」
即答だった。
「勇者であろう?」
その一言。
将軍バランドスも、腕を組んだまま言う。
「彼らは強い。
それで十分だ」
ネコルトは、何も言えなかった。
(……違う)
(それは信頼じゃない)
(使い捨てだ)
◆
王都を出る時、
胸の奥が、妙にざわついていた。
嫌な予感。
根拠のない、不安。
ネコルトは、馬を飛ばした。
(殺されなかった理由は、分からない)
(でも――)
(殺されずに、連れて行かれるなら)
(生きている可能性は、高い)
まだ、終わっていない。
そう、信じたかった。
闇の遺跡の影が、
遠くに見え始める。
その時、
ネコルトは、まだ知らなかった。
――この夜、
勇者一行が、
世界から切り捨てられることを。
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また、おかまバー〈ゴールデン戦国〉の夜話 ― 推し義龍様と転生ママ ―も連載中です。
そちらもよろしかったらご一読ください。




