第八章 第二十九話 強硬策という名の焦り
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数字が落ちる時、人は理屈より先に恐怖で動く。
商工会が選んだのは――
正面衝突だった。
***
最初に起きたのは、事故だった。
非加盟の鍛冶工房が、深夜に炎に包まれた。
原因は「保管ミスによる失火」。
翌日には、別の商店で強盗事件。
護衛が不在の時間帯を、正確に狙った犯行。
そして三件目。
街道での輸送馬車襲撃。
いずれも、犯人は捕まらない。
だが――手口は揃っていた。
「……雑ですね」
報告書を読んだネコルトは、静かに言った。
「冒険者ギルド残党」
将軍バランドスが腕を組む。
「しかも、スポンサー付きだ」
親衛兵団の巡回は即座に強化された。
だが、それは商工会の思惑通りでもあった。
「ほら見ろ」
「やはり治安が悪化している」
「親衛兵団があるからだ」
商工会系の貴族が、貴族会議で声を上げる。
「王女殿下」
肥えた体躯の男――大臣派閥の貴族、ガルン侯が言った。
「これは明白です。私兵組織の存在が、秩序を乱している」
王女シレッタは、表情を変えない。
「根拠は?」
「被害件数が増えている」
「民が怯えている」
「原因は?」
王女の声は、淡々としていた。
「……それは」
ガルン侯は、言葉に詰まる。
被害を出しているのは、親衛兵団ではない。
だが、それを認めれば――
商工会が雇った者たちの存在に触れざるを得なくなる。
「秩序とは」
王女は静かに続けた。
「暴力を隠すことではなく、止めることです」
議場が、ざわめいた。
***
同じ頃。
別の場所で、別の火種が燃え上がっていた。
国王の執務室。
「軍の補給再編についてだが」
国王が言う。
「前線優先だ。例外は認めん」
それに即座に反論したのは、第二王子だった。
「父上、それでは南部が空白になります」
「大臣派の案では――」
「大臣派の案?」
皇太子が、冷たく遮る。
「いつから軍事判断を、大臣がするようになった?」
空気が凍る。
将軍バランドスは、沈黙したまま立っていた。
どちらに転んでも、国が割れる。
「……議論は後日だ」
国王が、重く言った。
だが、遅かった。
すでに――
派閥は、公然と牙を剥き始めていた。
***
回廊の影で、その一部始終を王女シレッタは見ていた。
(始まってしまった……)
ネコルトが契約で揺らしているのは、経済。
だが、今揺れているのは――王国そのものだ。
親衛兵団。
商工会。
冒険者ギルド残党。
それらは、ただの引き金。
本当の亀裂は、
王権と大臣権力の二重構造にある。
(このままでは)
(誰かが、利用する)
王女は、静かに拳を握った。
***
その夜。
ネコルトの元に、ミーニャから短い報告が届く。
「商工会、金をばら撒き始めた」
「貴族と冒険者、両方に」
「……予想通りです」
ネコルトは息を吐いた。
「強硬策は、長く続かない」
「金が減れば、声は荒くなる」
クリフが、低く言う。
「殴ってきたな」
「ええ」
ネコルトは、苦笑した。
「だから次は――殴り返しません」
彼は、帳簿を閉じる。
「“助ける”準備をします」
商工会が選んだ強硬策は、
自分たちの首にかける――
最初の縄だった。
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また、おかまバー〈ゴールデン戦国〉の夜話 ― 推し義龍様と転生ママ ―も連載中です。
そちらもよろしかったらご一読ください。




