第七章第二十四話 四天王の影、救いの門
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解放されたはずの夜は、長くは続かなかった。
闘技場を離れ、魔王領外縁の荒野を進む一行の足取りは重い。
傷だらけの拳闘士たち。骨に歪みが残った者、内臓を痛めた者、魔力の枯渇から意識が朦朧としている者もいる。
それでも、誰一人として立ち止まろうとはしなかった。
――生きて、ここにいる。
それだけが、彼らを前に進ませていた。
ネコルトは列の先頭で歩きながら、何度も後ろを振り返る。
クリフは、まだ無理をして歩いていた。
ミーニャは彼の隣に寄り添い、何度も回復符を貼り直している。
「……王国まで戻る」
ネコルトは静かに言った。
「一度、全員を休ませる。これ以上は無理だ」
拳闘士たちも頷いた。
彼らは強いが、今は“戦える状態”ではない。
――その時だった。
空気が、変わった。
荒野を吹き抜ける風が、ぴたりと止む。
重力が増したかのように、肺が重くなる。
ミーニャが瞬時に身構え、ネコルトの前に立つ。
「……来る」
次の瞬間。
空間が、裂けた。
紫黒の魔力が渦を巻き、巨大な影がゆっくりと姿を現す。
豪奢な装束。圧倒的な魔力。
立っているだけで、周囲の大地が軋む。
「――やはり、貴様か」
低く、愉悦を含んだ声。
大魔公爵。
魔王四天王の一角。
この地の“契約”と“所有”を司る存在。
「我が資産を、よくもここまで踏み荒らしてくれたな。金融商」
拳闘士たちの顔色が、一斉に変わる。
恐怖が、本能を揺さぶる。
クリフが一歩前に出た。
「……俺たちは、もうお前のものじゃない」
「ほう?」
大魔公爵は嗤った。
「確かに、契約は破られた。形式上はな」
次の瞬間、空気が爆ぜた。
見えない圧力が一行を押し潰す。
拳闘士の何人かが膝をつき、吐血する。
「――っ!!」
ミーニャが歯を食いしばる。
(勝てない……)
ネコルトも理解していた。
これは、戦う相手ではない。
彼は即座に叫んだ。
「撤退!」
「ネコルト!?」
クリフが振り向く。
「勝てません! 命を守るのが最優先です!」
躊躇はなかった。
ネコルトは箱を叩き、視界を遮断する煙幕を展開する。
「ミーニャ、経路確保を!」
「了解!」
忍具が炸裂し、地形が歪む。
拳闘士たちを中央に集め、必死の逃走が始まった。
背後から、余裕のある声が飛ぶ。
「逃げられると思うなよ」
だが――追撃はなかった。
大魔公爵は、ただ眺めていた。
まるで、逃げる獲物を品定めするかのように。
「……いい」
彼は呟く。
「その逃げ方。いずれ、回収してやろう」
***
命からがら辿り着いたのは、王国国境だった。
しかし、問題は山積みだった。
「……入れないな」
クリフが呟く。
拳闘士の多くは賞金首。
魔族との混血もいる。
ミーニャは元・魔王軍契約者。
正規ルートでは、確実に拘束される。
沈黙が、重く落ちる。
その時だった。
「……こちらへ」
柔らかな声。
森の影から、ローブ姿の司祭が現れた。
「教会、です」
ネコルトは即座に警戒する。
司祭は両手を上げ、敵意がないことを示した。
「ご安心ください。あなた方が来ることは……ある程度、予想していました」
「なぜ?」
ミーニャが問い詰める。
「“解放”が起きれば、必ず追撃がある」
「それを防げる場所は限られている」
司祭は静かに言った。
「教会は、中立です。――今は、まだ」
その言葉に、ネコルトは僅かに眉を動かす。
(……“今は”、か)
だが、選択肢はなかった。
「匿っていただけますか」
ネコルトは頭を下げた。
「ええ」
司祭は頷く。
「地下礼拝堂へ。回復も、身分の偽装も可能です」
拳闘士たちが、安堵の息を吐く。
こうして一行は、再び教会の庇護下に入った。
それが――
救いなのか。
それとも、新たな檻なのか。
その答えを、まだ誰も知らなかった。
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また、おかまバー〈ゴールデン戦国〉の夜話 ― 推し義龍様と転生ママ ―も連載中です。
そちらもよろしかったらご一読ください。




