第四章 第十四話 武具は巡り、意志は繋がる
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リースという仕組みは、言葉で説明するほど簡単なものではなかった。
だが、形にするのは――商人の仕事だ。
***
まずネコルトが行ったのは、「一ヶ所にまとめない」ことだった。
鍛冶屋。
武具商。
道具屋。
整備工房。
輸送業者。
すべてを分散させ、誰か一人が欠けても回る構造を作る。
「武具は売らない。貸す」
「壊れたら、直すのも契約内」
「使われなかった分は、次に回す」
所有権は、あくまで作り手に残る。
第十師団が持つのは、使用権だけ。
それを可能にするため、ネコルトは一つ一つ条件を詰めていった。
「補修頻度」
「使用上限」
「損耗時の責任分界」
「返却期限」
軍は、これまで曖昧にされてきた部分を嫌がった。
だが、ラグナは違った。
「明文化されているなら、従う」
「兵が守られるなら、手間はいくらでも引き受ける」
末席の師団長は、現場を知っていた。
***
実装は、静かに始まった。
第十師団に配備されたのは、最新鋭の武具ではない。
だが――。
剣は、折れない。
盾は、割れない。
鎧は、命を守る。
それだけで、兵士たちの顔は変わった。
「……軽い」
「振り抜ける」
「前より、動けるぞ」
何より違ったのは、「補給が止まらない」ことだった。
壊れた武具は回収され、修理され、別の部隊へ。
消耗品は、使った分だけ補充される。
帳簿は、常に更新されている。
ごまかしは、できない。
だが――誰も損をしない。
***
最初の実戦は、国境近くの小規模な魔族掃討だった。
本来なら、貴族の依頼が優先され、後回しにされる案件。
だが、今回は違った。
第十師団が、前に出た。
「行けるな?」
ラグナの問いに、兵たちは頷く。
「はい、師団長」
「今度は、足手まといじゃありません」
戦闘は、短時間で終わった。
盾役が前線を支え、
槍兵が隙を突き、
弓兵が後方を制する。
何より、撤退判断が早かった。
装備があるからこそ、無理をしない。
被害は軽微。
死者は――ゼロ。
報告書を見たラグナは、しばらく黙り込んでいた。
「……これが」
「“普通”なんだな」
ネコルトは、何も言わなかった。
それが、奪われていたことを知っているから。
***
夜。
王都の軍部。
第十師団専用の武具庫。
ネコルトは、一人で帳簿を確認していた。
入庫数。
出庫数。
損耗率。
次回補修予定。
数字は、嘘をつかない。
――順調だ。
その時だった。
「……やっぱり、ここにいましたか」
聞き覚えのある声。
ネコルトは、ゆっくり振り返る。
月明かりの差し込む通路に、黒装束の少女が立っていた。
「……ミーニャ」
一瞬、言葉が出なかった。
彼女は痩せていた。
だが、目は――生きている。
「無事で……」
その言葉を、ネコルトは飲み込んだ。
ミーニャは、少しだけ笑った。
「師匠」
「生きててくれて、よかった」
そして――。
震える声で、呟く。
「……助けて」
それだけで、十分だった。
噂。
強制。
手先。
すべてが、一本の線で繋がる。
ネコルトは、静かに立ち上がった。
「……待たせたな」
「今度こそ、取り戻す」
武具庫の灯が、二人の影を重ねていた。
ここから先は――
もう、逃げない。
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また、おかまバー〈ゴールデン戦国〉の夜話 ― 推し義龍様と転生ママ ―も連載中です。
そちらもよろしかったらご一読ください。




