第四章 第十三話 リベルタスの広がりと、末席の師団長
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新冒険者ギルド〈リベルタス〉の名は、王都の裏通りから静かに、しかし確実に広がっていた。
依頼は公平。
報酬は明確。
そして――装備が、行き渡る。
それだけのことのはずなのに、街は目に見えて変わり始めていた。
***
王都南区。
かつては商工会の流通網に押し潰され、廃業寸前だった鍛冶屋の炉に、再び火が入る。
「……久しぶりだな。この匂い」
年老いた鍛冶師が、赤く染まる鉄を見つめながら呟く。
隣では、若い弟子が汗を流しながら槌を振るっていた。
「リベルタスからの注文だ」
「数は多いが、無茶は言わねえ」
「値段も、納期も……ちゃんと話が通る」
武具商も同じだった。
これまでは商工会指定の品しか扱えず、仕入れ値も販売価格も縛られていた。
だが今は違う。
「安物を押し付けられない」
「品質を見て、選ばれる」
それだけで、商売は息を吹き返す。
道具屋も、薬師も、修理工房も。
〈リベルタス〉は、彼らに“居場所”を返していた。
***
その日の昼下がり。
新ギルドの応接室に、一人の軍人が訪れた。
質素な軍服。
装飾は最小限。
だが、その立ち姿には、現場で積み重ねた年月が滲んでいる。
「第十師団長、ラグナだ」
名乗ると同時に、彼は深く頭を下げた。
ネコルトは、一瞬言葉を失った。
「……お礼と、謝罪をしに来た」
ラグナはそう言って、顔を上げる。
「勇者一行を支える任務を負いながら」
「俺たちは、最後まで守り切れなかった」
「装備が足りなかった」
「予算が降りなかった」
「理由はいくらでも言える」
「だが――それでも、結果は同じだ」
ネコルトは、ゆっくりと首を振った。
「いいえ」
「師団長は、できることをすべてやっていました」
ラグナの目が、わずかに揺れる。
「物資の融通」
「情報の中継」
「砦の構築」
「私が管理していた記録には、はっきり残っています」
「第十師団は、勇者一行を“支え続けていた”」
「足手まといになるから同行するなと言われても」
「それでも、できる限りの支援をしてくれた」
ネコルトは、はっきりと告げた。
「……感謝しています」
「私だけでなく、皆も」
ラグナは、しばらく俯いてから、小さく息を吐いた。
「……ありがとう」
「その言葉だけで、報われる」
そして、本題に入る。
「今日は、お願いがある」
「武具の調達だ」
「商工会経由では、もう限界だ」
「高い」
「数が揃わない」
「現場に回ってこない」
「次に戦があれば、第十師団は耐えられない」
ネコルトは、少し考えてから口を開いた。
「――では、“買う”のをやめましょう」
「……何?」
「購入ではなく、リースです」
ネコルトは、紙に簡単な図を描く。
「武具の所有権は、鍛冶屋や武具商に残す」
「軍は、使用権だけを持つ」
「使った分だけ支払う」
「破損や消耗は契約で明確化する」
「管理と回収、再配分は、私が引き受けます」
ラグナは、目を見開いた。
「それは……」
「前例がない」
「前例がないから、利権になっていない」
ネコルトは静かに言う。
「第十師団は、勇者一行のための部隊でした」
「なら、その役目を取り戻しましょう」
「今度は、装備不足で諦めることがないように」
ラグナは、深く頷いた。
「……頼む」
「正式に、君にリースの手配を依頼したい」
「承りました」
その瞬間、師団長の顔に、久しぶりに“希望”が宿った。
***
立ち去り際、ラグナはふと思い出したように言った。
「……そういえば」
「最近、妙な噂がある」
「勇者一行の“一部”が」
「魔王軍の手先になっている、という話だ」
ネコルトの胸が、ざわりと鳴る。
「……本当だと思いますか?」
「わからない」
「だが、強制されている可能性もある」
「自分の意思で裏切るような連中じゃない」
ネコルトは、静かに拳を握った。
(……生きている)
その可能性が、はっきりと形を持った瞬間だった。
リベルタスの灯は、街に広がり。
同時に、闇の奥から、仲間を縛る影が見え始めていた。
――次は、必ず辿り着く。
そう誓いながら、ネコルトは次の準備へと向かう。
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また、おかまバー〈ゴールデン戦国〉の夜話 ― 推し義龍様と転生ママ ―も連載中です。
そちらもよろしかったらご一読ください。




