第三章 第十二話 崩れる塔、引き渡される未来
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王都冒険者ギルド本部。
かつては「英雄の門」と呼ばれたその建物の前に、今は異様な沈黙が漂っていた。
掲示板は、空白だらけだった。
貴族依頼はゼロ。
商工会名義の大型討伐もない。
市民からの小さな依頼だけが、風に揺れて残っている。
受付嬢たちは俯き、
運営部の部屋では、怒号と焦燥が渦巻いていた。
「どういうことだ……!?
寄付が、止まった?」
「商工会からの振込が、今月分――来ていません!」
「貴族からの“便宜”も……法案が、通らなかった……!」
運営部長は、椅子を蹴り飛ばした。
「なぜだ!
スポンサー冒険者はどうした!
あいつらが広告塔になれば、商工会も――」
「……それが」
若い書記が、震える声で告げる。
「スポンサー冒険者の半数以上が、
借金不履行で……ギルド登録を抹消されています」
「な、に……?」
「残価設定ローン、リボ払い……
彼らは“低級冒険者が強くなった方法”を真似ましたが、
条件を理解していなかったようで……」
沈黙。
「……スキルを、取り立てられた者もいます」
部長の顔が、真っ青になる。
「誰が……
誰が、そんな契約を……」
その時だった。
――コン、コン。
運営部の扉が、静かに叩かれた。
「……失礼します」
入ってきたのは、
質素な外套を纏った、一人の男。
ネコルトだった。
「……貴様!!」
部長が立ち上がる。
「懸賞首は取り下げられたとはいえ、
ここは冒険者ギルドだ!
何の用で――」
「確認に来ました」
ネコルトは、淡々と告げた。
「このギルドが、
まだ“市民のための組織”であるかどうかを」
鼻で笑う運営部員。
「ふん……
商人風情が、何を言う」
「勇者一行を見捨てた男が、
正義を語るな」
その言葉に、
ネコルトの表情は、ほんの一瞬だけ揺れた。
だが、すぐに戻る。
「……では、質問します」
ネコルトは、羊皮紙を取り出した。
「これは、昇級規定です」
机の上に置かれたそれを、
運営部員たちは一斉に見る。
「依頼達成数、成功率、生存率、貢献度――
すべて、明文化されている」
「はい。
……ですが?」
「この規定を満たした低級冒険者が、
今月だけで、二十三人昇級しています」
ざわめき。
「一方で――」
次の紙が置かれる。
「スポンサー冒険者。
昇級要件、未達」
「な……!」
「割の良い依頼だけを回し、
危険な仕事は下に押し付けていた結果です」
ネコルトは、静かに言った。
「規定通りに運営しただけで、
“優遇”が瓦解する組織だった」
部長が叫ぶ。
「違う!
我々は、ギルドを守るために――」
「守っていたのは、
商工会と貴族の顔色だけです」
ネコルトの声は、低く、冷たい。
「市民の依頼は後回し。
危険な仕事は低級冒険者へ。
功績はスポンサーへ」
「……勇者一行が、
使い捨てにされたのも、その延長だ」
運営部員の一人が、唇を噛む。
「……結果論だ」
「いいえ」
ネコルトは、一歩前に出た。
「契約違反です」
「市民と冒険者の信頼を担保にした組織が、
その義務を放棄した」
「よって――」
ネコルトは、宣言した。
「この冒険者ギルドは、
信用を失いました」
沈黙。
「信用を失った組織は、
金融的には――破綻です」
その瞬間。
扉が、再び開く。
入ってきたのは、
かつて低級冒険者だった者たち。
そして――
「……久しぶりですね」
元・冒険者ギルド職員。
内部告発をした、あの人物だった。
「あなたたちが“信用できない”と判断した冒険者たち、
今は全員、
依頼を回しきれないほど忙しいですよ」
部長が、崩れ落ちる。
「……待て……
ギルドがなくなれば、王都は――」
「だからです」
ネコルトが、答えた。
「新しいギルドを作ります」
その言葉に、
部屋の空気が変わった。
「市民依頼を最優先。
昇級は規定通り。
スポンサーは存在しない」
「借金は、
返せる条件でのみ組む」
「命と尊厳を担保にしない」
元職員が、一枚の書類を差し出す。
「……こちらが、新冒険者ギルド設立申請です」
「王女殿下の後押しも、あります」
部長は、何も言えなかった。
ネコルトは、最後に一礼する。
「あなたたちは、
剣で敗れたわけではない」
「信頼を、使い潰した」
そう言い残し、
彼は部屋を出た。
数日後。
王都の一角に、
新しい看板が掲げられた。
《冒険者ギルド・リベルタス》
――自由と責任の名の下に。
ネコルトは、その前で立ち止まり、空を見上げる。
(……これで、ようやく一つ)
(みんなを、取り戻すための――最初の一歩だ)
その背中を、
新たな冒険者たちが見つめていた。
復讐は、終わらない。
だが――
世界は、少しだけ正しい方向へ動き始めていた。
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また、おかまバー〈ゴールデン戦国〉の夜話 ― 推し義龍様と転生ママ ―も連載中です。
そちらもよろしかったらご一読ください。




