第三章 第十一話 失われた庇護
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冒険者ギルド・王都本部。
かつては人で溢れていたその大広間は、今や不気味なほど静まり返っていた。
掲示板に張り出された依頼書は少ない。
しかもそのほとんどが、市民からのものだった。
ギルド長代理――長年、商工会と貴族の顔色を窺いながら生きてきた男は、額に浮かぶ汗を拭いながら、机に積まれた報告書をめくっていた。
「……ありえん」
低く呟いた声が、誰にも拾われず床に落ちる。
昇級試験の結果報告。
そこには、これまで“使い潰す側”だった低級冒険者たちの名が、上位に並んでいた。
反対に、商工会の支援を受けていた冒険者たちの名は――落ちている。
「なぜだ……なぜ、スポンサー付きの連中が……」
理解できなかった。
彼らは良い装備を持っていた。
宣伝され、依頼も優先的に回されていた。
それなのに。
「ギルド長代理!」
扉が乱暴に開き、職員が駆け込んでくる。
「商工会から、抗議文です!」
「またか……」
書簡を受け取り、目を通した瞬間、男の顔色が変わった。
『スポンサー冒険者の広告効果が著しく低下している』
『商工会所属鍛冶屋の武具が売れない』
『なぜ、無名の個人商店の装備が市場を席巻しているのか』
責める言葉ばかりが並んでいる。
「……知らん」
思わず吐き捨てる。
ギルドは、今まで通りのことしかしていない。
商工会と組み、貴族の依頼を優先し、市民の仕事を後回しにしていただけだ。
それが、なぜ――。
次の瞬間、別の職員が青ざめた顔で飛び込んできた。
「貴族院からの通達です!」
「……今度は何だ」
「“冒険者ギルドが、貴族の依頼を軽視している”と……」
男は、書簡を奪い取るように読んだ。
そこには、はっきりと書かれていた。
『依頼を受ける冒険者が見つからない』
『予定していた私兵派遣が不可能になった』
『このままでは、支援の見直しも検討せざるを得ない』
「……見直し?」
喉が、ひくりと鳴る。
見直し――それはつまり。
補助金の停止。
法的な庇護の撤回。
そして、“好きにしろ”という宣告。
「ば、馬鹿な……」
ギルドは、貴族に守られていた。
商工会に支えられていた。
その二つが失われたら、どうなるか。
「寄付金……今月分は?」
震える声で尋ねると、職員は目を伏せた。
「……届いていません」
「次月分は?」
「……未定だそうです」
机を叩く音が、大広間に響いた。
「なぜだ! 我々は、彼らのために動いてきたはずだ!」
低級冒険者に無茶な依頼を押し付け、
市民の依頼を後回しにし、
貴族と商工会の顔色だけを見てきた。
それが、ギルドの“安定”だった。
だが――。
「ギルド長代理……」
別の職員が、恐る恐る口を開く。
「最近、昇級した冒険者たちですが……」
「なんだ」
「……貴族の依頼を、断っています」
「は?」
「市民の依頼を優先している、と」
男の口が、開いたまま閉じなくなった。
冒険者が、貴族の依頼を断る?
そんなことが、許されるはずがない。
「理由は……?」
「『条件が悪い』『命に見合わない』『契約内容が不公平』だそうで……」
その言葉に、男は背筋が冷たくなるのを感じた。
契約。
条件。
不公平。
――思い当たる名前が、頭をよぎる。
(……まさか)
だが、彼らには見えていなかった。
誰が、
どこで、
どんな条件を提示していたのか。
ただ結果だけが、ここにある。
スポンサー冒険者は、借金に縛られ動けなくなり。
低級だった冒険者は、力を付け、自分で選ぶようになった。
商工会は、広告塔を失い。
貴族は、使える私兵を失い。
ギルドは、その板挟みで――何もできなくなった。
「……運営費は?」
かすれた声で尋ねる。
「……三ヶ月も、もちません」
その瞬間、男は理解した。
冒険者ギルドは、
もう誰にも守られていない。
庇護は失われ、
寄付は止まり、
信用は崩れ落ちた。
気付かぬうちに、歯車は狂い、
そして今――完全に噛み合わなくなったのだ。
男は、椅子に深く沈み込み、天井を見上げた。
「……どこで、間違えた……」
答えは、誰も教えてくれない。
ただ一つ確かなのは――
この崩壊が、始まりに過ぎないということだけだった。
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また、おかまバー〈ゴールデン戦国〉の夜話 ― 推し義龍様と転生ママ ―も連載中です。
そちらもよろしかったらご一読ください。




