第三章 第十話 逆転の歯車
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冒険者ギルドの掲示板が、ざわつき始めたのは――
ほんの些細な異変からだった。
「……あれ? この依頼、達成報告もう出てるのか?」
「しかも受けたの、あの低ランクの連中だぞ?」
依頼内容は、街道沿いの魔獣駆除。
これまでなら、スポンサー付きの中堅冒険者に優先的に回されていた仕事だ。
だが今回は違った。
報告書に並ぶ名前は、
ギルドでも“底辺”と呼ばれていた冒険者たちだった。
数日後。
ギルドの昇級審査室に、前代未聞の光景が広がる。
「……規定達成。
こちらも……達成。
え、君も?」
受付職員の声が、だんだんと困惑を帯びていく。
✔ 討伐数
✔ 生存率
✔ 貢献度
✔ 市民依頼の完遂数
すべて――
昇級規定を満たしている。
それも一人や二人ではない。
「下級冒険者が……こんな短期間で……?」
彼らの装備は、派手ではない。
だが――堅実だった。
無理のない性能。
適切な修繕。
身の丈に合った武具。
そして何より、
無茶をしない戦い方。
市民の依頼を着実にこなし、
生きて帰ってくる。
その積み重ねが、
ついに“数字”として結果を出し始めていた。
一方。
ギルドの奥の談話室では、
商工会スポンサー付きの冒険者たちが苛立っていた。
「おい、最近あいつら調子に乗ってないか?」
「低級のくせに、いい依頼ばっか受けやがって」
彼らは、豪華な装備を身につけていた。
商工会製の最新武具。
高性能だが――高額。
「……あいつら、どうやって金を回してる?」
そこで誰かが言った。
「聞いたぞ。
“残価設定”ってやつらしい」
「……残価?」
「とりあえず安く使えて、
強くなったら返すとか、買い取るとか……」
ざわり、と空気が揺れる。
「それ、俺たちもできるのか?」
「できるなら、もっといい装備に替えられるだろ」
彼らは、ネコルトのもとを訪れた。
――正確には、
ネコルトが用意した“窓口”を通じて。
条件は、同じ。
✔ 初期負担は軽い
✔ 強化された装備
✔ 実績次第で継続可能
だが――
一つだけ、違っていた。
低級冒険者向けの契約は、
「借り手有利」。
一方、彼らに提示されたのは――
返済前提の契約だった。
「問題ない。
俺たちは稼げる」
そう言って、彼らは署名した。
結果は、早かった。
無理な依頼。
過剰な前線投入。
装備性能に頼った戦い。
――そして、失敗。
「返済期限を超過しています」
淡々と告げられる言葉。
「は? まだ次の依頼が――」
「規約第七条。
返済不能時、担保を回収します」
「担保……?」
次の瞬間。
胸の奥が、すうっと冷える。
「スキル使用権の一部を回収します」
――魔法が、使えない。
――身体強化が、発動しない。
「な……何をした……?」
「契約通りです」
彼らは、冒険者でありながら、
“冒険者である理由”を失った。
スポンサー冒険者が沈み、
ギルドは慌てて穴埋めを探す。
だが、もう遅い。
実力をつけた元・低級冒険者たちが、
次々と昇級し、前線を担い始めていた。
彼らは言う。
「この武器、町の鍛冶屋で買ったんだ」
「修理も早いし、融通が利く」
商工会製の武具は、売れなくなった。
✔ 高い
✔ 融通が利かない
✔ 修理が遅い
結果――
商工会にも、確実なダメージ。
そして何より。
市民依頼が、
ちゃんと消化され始めた。
「畑の魔獣、すぐ来てくれたよ」
「報酬も、ちゃんと適正だった」
街に、久しぶりの活気が戻る。
冒険者は、
貴族の私兵ではなく――
市民を守る存在へと、戻り始めていた。
ギルド上層部は、まだ気づいていない。
この変化の中心に、
一人の商人がいることを。
力を振るわず。
血を流さず。
ただ――
契約だけで、世界を変えていることを。
その名を。
ネコルトという。
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また、おかまバー〈ゴールデン戦国〉の夜話 ― 推し義龍様と転生ママ ―も連載中です。
そちらもよろしかったらご一読ください。




