第一章 第一話 ――毒竜王、墜つ
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毒の霧が、森を殺していた。
枯れた樹皮は黒く爛れ、草は灰のように崩れ落ち、地面そのものが腐臭を放っている。
ここが、毒竜王の縄張り――人の踏み入ることを拒む死地である証だった。
「……やっぱり、空気からしてヤバいな」
勇者フォードが、剣を肩に担いだまま呟く。
軽口のように聞こえるが、その視線は一切の油断を許していない。
「吸い込むと一分で肺が溶ける毒気です。防毒結界、再展開します」
聖女クエラが静かに詠唱を始め、淡い光が一行を包む。
同時に賢者ライブが補助術式を重ね、結界の耐久を底上げした。
「前方三十歩。大型反応、動きあり」
木の枝の影から、ミーニャの低い声が届く。
忍者装束に身を包んだ彼女は、すでに毒霧の中を自在に駆け回り、敵の位置を完全に把握していた。
「了解。ダイアン、前だ」
「承知」
守護騎士ダイアンが、巨大な盾を地面に叩きつける。
それだけで空気が震えた。
その後方で、ネコルトは荷車の陰に身を寄せ、静かに指を動かしていた。
(解毒ポーション、残り七。防毒マスクは全員分……いや、予備が一つ足りない)
戦えない自分にできるのは、物資を切らさないことだけだ。
この毒霧の中で、一本の包帯、一本の矢が命を分ける。
「来るぞ!」
フォードの声と同時に、森が――爆ぜた。
巨木をなぎ倒し、地面を砕きながら現れたのは、
漆黒の鱗に覆われた巨大な竜。
毒竜王。
口から垂れる紫黒の涎が地面に落ちるだけで、土が泡立って溶ける。
「――っ、でかい……!」
クリフが歯を食いしばる。
武星の名を持つその肉体でも、正面から受ければ即死は免れない。
「役割通りに行くぞ!」
フォードの号令が飛ぶ。
「ダイアン、受け止めろ!」
毒竜王が咆哮し、前脚を振り下ろす。
それを、ダイアンは真正面から盾で受けた。
――ゴンッ!!
衝撃波が森を揺らす。
だが盾は砕けない。ダイアンの足も、退かない。
「今だ!」
「はいっ!」
ミーニャが煙玉を投げ、毒竜王の視界を奪う。
その隙を縫って、ネリアとクリフが左右から飛び込んだ。
「うおおおおっ!!」
ネリアの拳が、竜の関節部に叩き込まれる。
龍族の血を引く彼女の一撃は、鱗の隙間を正確に捉えた。
「――ッ!」
毒竜王が身をよじる、その瞬間。
クリフの槍が、喉元を貫いた。
「効いてる!」
だが、倒れない。
毒竜王は怒り狂い、口を大きく開く。
「ブレス来る! 全員伏せろ!!」
ライブとクエラが同時に防護魔法を展開する。
次の瞬間、紫の毒炎が森を焼き尽くした。
結界が軋み、ひび割れる。
「……っ、結界、限界です!」
クエラの声が震える。
「フォード!」
「分かってる!」
勇者フォードが、一歩前に出た。
剣を両手で握り、静かに息を整える。
「――俺が、終わらせる」
その剣に、仲間全員の補助が集束する。
ライブの強化、クエラの祝福、ミーニャの弱体、ネリアとクリフが作った隙。
毒竜王が、最後の咆哮を上げた瞬間。
「――勇者剣技・終章!」
一閃。
光が走り、毒竜王の首が宙を舞った。
巨体が崩れ落ち、森が――静まる。
「……討伐、完了」
フォードが剣を下ろす。
一行の誰もが、その場に膝をついた。
勝った。だが、限界だった。
ネコルトは、すぐに動いた。
「ポーション回します! 重症者優先で!」
誰よりも早く、誰よりも必死に。
それが、彼の戦場だった。
遠くで、王国軍の使者がこの光景を冷めた目で見ていることを、
この時のネコルトは、まだ知らなかった。
――勇者は、役目を終えれば消耗品。
その兆しは、すでにここにあった。
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また、おかまバー〈ゴールデン戦国〉の夜話 ― 推し義龍様と転生ママ ―も連載中です。
そちらもよろしかったらご一読ください。




