卒業パーティーは出来ません
クラーツ国立貴族学院の掲示板にこんな貼り紙があり生徒達をザワつかせていた。
『卒業記念パーティー中止のお知らせ』
『毎年恒例で行われている卒業記念パーティーですが今年は開催出来なくなりました。 理由は予算及び会場が取れなかったからです。 ですので今年は卒業式が終了後はご家庭、もしくはご友人同士でささやかなパーティーを開催する事をオススメ致します、尚主催である生徒会一同は今回の責任を取り解散、既に卒業の手続きをしておりますのでご了承の事よろしくお願いします』
「大変でしたわね、エリーサ様」
「お互い様ですわ、スーニャ様」
貴族学院の生徒会室で2人の令嬢がお互い苦笑いしながらお茶を飲んでいた。
エリーサ・ハイルド公爵令嬢は王太子の婚約者、スーニャ・ハイサイト公爵令嬢は騎士団長子息の婚約者だった。
しかし、2人の婚約は既に相手有責で解消されている。
「まさか王太子様がまんまとハニートラップに引っかかるとは……」
「私の婚約者もですわ、真面目で実直だと思っていたのに……、逆に免疫が無かったからコロッと堕ちてしまったんですわね」
「そのせいで生徒会としての仕事をしなくなって『婚約者だから』という理由で私達に仕事を押し付ける様になって……」
「えぇ、生徒会の仕事が最終試験みたいな物とは思っていなかった、なんて信じられませんわね」
「いくら『身分関係なく』と言っても限度がありますしちゃんと監視されている事に気付かないのはどうか、と思いますわ」
「まぁ王様が早めに見切りをつけてくれて助かりましたわ」
2人はこの数ヶ月間の事を思い出していた。
貴族学院に入学した頃は婚約者との関係は良かった、しかしとある男爵令嬢が現れた頃から様子がおかしくなっていった。
彼女、ルノール・カニーシャ男爵令嬢はその正体は隣国の諜報員だった。
流石は諜報員らしく可愛らしくしおらしい男爵令嬢を演じいつの間にか王太子やその側近達をおとしてしまった。
エリーサ達も勿論黙っている事はなくルノールに対して苦言を呈したり婚約者達にも注意をしていたが聞く耳を持たれなかった。
王太子達は生徒会の役員であったがその仕事もおろそかになり仕方無くエリーサ達が手伝う事になった。
しかし、このままではいけないと感じたエリーサは現状を父親に報告した。
エリーサの父親である公爵から報告を受けた国王はすぐに調査を開始し貴族学院の現状を把握した。
そして、エリーサ達を呼び出しこんな指示を出した。
『今後必要以上の生徒会の仕事を手伝わなくても良い、支障が出たのならそれは全て王太子達の責任でありこちらで処分をする、迷惑をかけられないから婚約は王命により解消とする』
国王として当然の決断だった。
そして、エリーサ達は生徒会の仕事を手伝わなくなった結果、王太子達は転がり落ちてしまった。
生徒会の顧問から『卒業記念パーティーの予算が出てないがどういう事だ?』と言う叱責がきっかけだった。
卒業記念パーティーは生徒会主催の最大にして最後のイベントでありこのパーティーの成功が今後の人生に多いに影響を与える。
成功すれば将来の道が開かれるし失敗すれば無能の烙印が押される。
更に言えば事前に会場も押さえなければならない。
本来は貴族学院内の大ホールが会場になるのだが今年に至っては老朽化により改修工事が入っているので使用出来ない。
だから、代わりの会場、例えば城内のホールとかを押さえなければいけないのだが全く王太子達が動いた時点では既に手遅れ。
会場が決まらないと予算を立てられず王太子達は頭を抱えるようになった。
エリーサ達にも手伝う様に言われたが勿論断った。
ここに来て漸く王太子達は自分達がやらかした事に気付いたのだが時既に遅し。
散々サボり続けていた結果、頭が回らなくなり結局親である国王に泣きつく事になったのだが国王はここで現実を突きつけた。
厳しいお説教とルノール男爵令嬢の正体を明かし、王太子の身分を剥奪し幽閉処分とした。
他の取り巻き達も各家から勘当を言い渡され学園を去っていく事になった。
事の元凶であるルノール男爵令嬢はバレている事に気づき学園から姿を消したが国境沿いで身柄を確保、厳しい取り調べの末、人知れず処分された。
エリーサ達が全てを知ったのは事が終わった後、父親から知らされた。
「国王様はあんなに立派な方なのにどうして王太子様はあんな風になってしまったんでしょうか……」
「元々の性格でしょうね、人を見る目を養う事の大事さが身に沁みて分かりましたわ」
さて、エリーサ達は流石にこのままでは卒業生が可哀想と思い学園と交渉して記念品を贈呈する事にした。
卒業式の時に渡す予定になっている。
因みにだが2人は生徒会の手伝いの腕を買われ卒業後は文官として採用する事が決まっている。
本来は新たなる婚約者を見つけなければいけないが2人は『恋愛とか暫くは良いや』と思っており職業婦人の道を歩む事になった。
後にエリーサ達は国に無くてはならない存在となりその手腕を振るわせた。