第9話 はじめましての情報量
入部3日目までが終了し、1年生の楽器が決まった。私は無事、中学と同じクラリネットを吹くこととなった。いおりんはオーボエ、あやめちゃんはアルトサックスとそれぞれ自分の希望通りのパートとなっていた。サックスに関しては希望者が多く、選考会が行われていたが、あやめちゃんは涼しい顔で突破していた。彼女はそれなりの実力者のようだ。
所属するパートの発表があった後、そのままクラリネットパートの教室へと向かった。
「パートリーダーの3年松川です!趣味はホラーゲームの実況を見ることです!抜けてる部分があるので、助けてもらうことも多くなっちゃうかもだけど、みんな仲良くしてね!!」
「今の冗談じゃなく、マジなんです。パート練習の時間間違えたり、すぐメガネ失くしたりするんで。みんな手伝ってあげてね。」
「3年の南雲です。部長として話す時より、だいぶ砕けた感じになると思います!趣味は野球観戦です!よろしくね〜」
教室についてすぐ、パートの先輩たちによる自己紹介タイムが始まった。おばあちゃんか!とツッコみたくなるパートリーダーや、物語の主人公のような雰囲気がある部長の南雲先輩など、先輩だけで8人もいるようだ。覚えるのには少々時間がかかりそう。
先ほどから端にいる先輩が気になる。天然パーマと思われる髪を一つに束ねているその女性は、3年生特有の「怖そうな先輩」のオーラがあった。ワイワイ騒いでいる他の先輩を静かに見守っている。やがて、その先輩の順番が回ってきた。
「3年、木戸 心です。韓国アイドルが好きです。よろしくお願いします。」
今やポピュラーとなった韓国アイドル好きという趣味でさえも、木戸先輩が言うと怖いと感じてしまう。この人を怒らせずに卒業できることを強く願うことにする。
「よし、じゃあ1年生も自己紹介!名前と好きなことなんでも!」
松川先輩の声かけの後、私も合わせて4人の1年生の自己紹介が始まった。
「長瀬 絵梨香です!好きなことは猫動画を漁ることです!!皆さん、よろしくお願いします!」
猫が好きという彼女もまた、小動物のようだ。
「青木 栞奈です。たくさん食べることが好きです。」
その細い身体でたくさん食べると言われると、実は少食なのではないかと疑いたくなってしまう。本当にたくさん食べられる人もいるが、彼女はどちらだろう。
「小野寺 杏里です!高校から吹奏楽を始めるので、ご迷惑をおかけするかもしれませんがよろしくお願いします。」
吹奏楽初心者という彼女は、自信なさげに話していた。不安でいっぱいと顔に書いてある。ただ、経験者が多い吹奏楽部に飛び込む勇気はすごい。
「堺田芽衣です。趣味はお笑いを観ることです。お願いします。」
実際は有名な賞レースを観る程度だが、他に良い趣味が見当たらなかった。こういう時、自分という人間の中身の無さに驚く。
頭を抱えるほどの情報量があった自己紹介が終わり、個人やパート全体での基礎練習を行うことになった。
一方、隣の部屋ではフルート・オーボエパートの生徒たちが集まって自己紹介を行っていた。
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