表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/25

第8話 平等で残酷なお約束

 入部初日の放課後、音楽室に1年生と31名と3年生幹部3名が集まっていた。これから、顧問の藤先生からの挨拶を含めたミーティングを行うということである。

 集まって間も無く、にこやかな藤先生が音楽室に入って来た。

「こんにちは。なかなかフレッシュな空間ですね。」

 初めての顧問からの話に、緊張感が走っていたが、そんな空気に構うことなく藤先生は話し始めた。


「改めまして、顧問の藤拓哉です。所属は1年生なので、顔は知ってるかな。君たち1年生が入部してうちの吹奏楽部は96名となりました。大所帯ですが、皆さんもいずれ慣れますので、一緒に頑張りましょう。」

 話を聞きながら、この人数の顔と名前を自分が覚えられるのか不安になった。一度も会話せずに卒業する部員もいるのだろうか。

「さて、入部早々申し訳ないのですが、明日明後日で皆さんの楽器を決めます。この後希望を調査するので提出してください。バランスや適正を見ながらですが、基本的には希望を通します。」

 大所帯となると人が足りないということも少なく、楽器選びもある程度自由にできるのは強みだ。中学時代に自分はトランペットを希望したが、クラリネットになってひどく落ち込んだのを思い出した。


「ここから大事な話をします。部員が96名、受験による3年生の休部者が3名いるので、実際には93名で活動をします。夏に行われる吹奏楽コンクールで私たちが出場をするのは、55名が出場できるAの部です。必然的にオーディションを行うことになります。オーディションに落ちた38名は、人数制限のないDの部に出場します。Dの部には上位大会がありません。」

『オーディション』という言葉を聞いて、全員の顔が引き締まった。

「オーディションは『学年関係なく、実力でメンバーを決める』という方針で行います。その年の山桜のベストを尽くすためです。例年、1年生でもAメンバーに選ばれる人もいます。残念ながら、Dの部に出場することとなる3年生もいます。」

 この方針は平等で、残酷だ。3年生の始めにオーディションに落ち、そこからDの部に向けてモチベーションを保てる人はすごい。性格や人柄を超越した人間力がなければ耐えられない。


「3年生でオーディションに落ちたとなると、悔しい思いをすることとなります。しかし、その悔しい気持ちをオーディションに受かった1年生への嫌がらせ行為で発散することを、私は決して許しません。もし、そのようなことがあれば私や3年生幹部に相談してください。責任を持って、その人を守ることを約束します。また、皆さんも2年後にこれを守ることを約束してください。」

 3年生の幹部も、藤先生の言葉に頷いている。彼女たちが参加しているのは、この話をするためだったようだ。


「オーディションは3週間後のゴールデンウィークに2日間かけて行い、2日目の最後に皆さんに発表します。意外と時間がなくてすみません。楽器が決まり次第、すぐに楽譜はお渡しします。」

 入部から3週間なんてあっという間に過ぎる。その早すぎるオーディション日程に、視界に入った青島あやめは案の定、顔をしかめていた。


「それでは皆さん、今日から3年間どうぞよろしくお願いします。」

 藤先生が話をにこやかに締め括った後、幹部の先輩方が楽器希望用紙を配布してくれた。


 私はそこに、一際丁寧な字で『クラリネット』と書いた。

ご覧いただきありがとうございます。

毎日22時までに3エピソードずつ更新しています。

感想・レビューなどが励みになります。お待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ