第5話 惹かれる存在
吹奏楽部の説明が終わり、私はクラリネットの体験に来ていた。経験者は手順を教える必要が無いため基本的には放っておかれる。
自分の横には、先ほど顧問の紹介で険しい顔をしていた女子が座っていた。ボーイッシュな髪に猫のような目。女の子にモテそうな人だ。
「青島さん!音出た??」
クラリネットの先輩曰く、彼女は青島というらしい。それにしても、マウスピースを持っているが、上手く音が出ないらしい。顔を少し赤くしながら苦戦している。
「全然出ないです、サックスと似たようなもんだと思ってたんですけど」
どうやら彼女はサックス吹きらしい。少し形は違うがマウスピースであることは変わらないため、音が出るものだと思っていたが、そうではないのか。そんなことを考えながらクラリネットを吹いた。
体験を終え、クラリネットパート部屋を出るタイミングで青島さんに声を掛けられた。
「堺田さん、だっけ。クラ上手だね〜」
「はい、青島さんはなかなか、その」
「気遣わなくて良いよ〜下手っぴだったわ。あと、敬語はなしで頼むよ」
顧問紹介での険しい顔とは打って変わって、ヘラヘラした笑顔である。いや、これが本来の彼女なのか。青島さんはフランクではあるが、相手の距離感を察しながら話してくれているように感じる。某いおりんとはまた違うタイプだ。
「青島さんは、サックス吹いてたの?」
「そうそう、今日もアルト吹こうかな〜と思ったんだけど、体験希望多かったからクラリネットに逃げにきた。」
アルトというのはアルトサックスのこと。花形のサックスの中でも比較的目立つパートだ。
「アルト、カッコいいですね。」
「そりゃどーも。みんなそれ言ってくれる」
青島さんには、探りながら会話をしているのを見透かされていそうな気がする。笑顔が意味深だからだ。コミュニケーションにおいては、一枚上手だろう。
「青島さんは、もう入部は決めてるの?」
「うーん、どうかな。顧問が担任で、元吹奏楽部ってことで勧誘されたから来てみたんだけど。」
どうやら青島さんは顧問の藤先生が担任らしい。自己紹介で吹奏楽部経験者がバレて、誘われたということか。
「私は多分入るから、青島さんも入部してくれたら嬉しい。」
この人のことなどよく知らないが、なんとなくそんなことを言ってみた。ほとんど社交辞令のようなものだ。
青島さんは少し驚いた表情をした。私は、深く考えず変なことを言ってしまったのか。青島さんはすぐにまたヘラヘラした顔に戻った。
「はは、一緒になったらよろしく。」
彼女は精神が大人だが、表情に出やすいタイプらしい。何故私の言葉に驚いたのか、藤先生の紹介で険しい顔をしていたのはどうしてなのか。いつかその答えを彼女から聞けるだろうか。
また、会えたらいいな。らしくもないことを考えさせる彼女は不思議な人だ。
その後、青島さんとは別々の教室に分かれ、そのまま1日を終えた。
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