第17話 早く楽にしてほしい
オーディション2日目。すなわち、Aメンバーが発表される日。今更祈ったところで結果は変わらないが、祈らずにはいられない。早く楽にしてくれという声も聞こえた。部員はみんな、そんな様子だった。
パート練習をしている間も、緊張感があった。それに、今練習している楽譜の練習が数時間後には必要無くなってしまう可能性がある。Aメンバーに入ることができなければ、DメンバーはDの部の曲に専念することになるからだ。ここまで積み上げてきたのに、それは嫌だと思う。練習期間の長い先輩たちはもっとだろう。
お昼休みは落ち着かなかった。1年生でまとまって食べている輪を早めに抜けて、早めに練習に戻ってきた。1番早く帰ってきたのだと思っていたが、先客がいた。
同じクラリネットパートの小野寺杏里ちゃんだ。この子は高校から吹奏楽を始めた。彼女は私が戻る前に、練習を再開していた。
「芽衣ちゃん、おかえり。早いね。」
「杏里ちゃんこそ。」
「私はなんだか落ち着かなくて。みんなと温度感もまだ違うからね。」
温度感、というのはオーディションに対して感じていることだろう。
「私、まだ下手だから。Aになれるわけもないからドキドキもしないの。でも来年はドキドキしたい。そう考えたら時間が足りない。みんなの中学生からの経験に、少しでも追いつかなきゃ。」
ここで、そんなことないよ!十分上手だよ!というのは優しさではない。かと言って、何を言ったら良いのかわからず私はただ彼女の頭を撫でた。
「なに、芽衣ちゃん。くすぐったいよ。」
「なんでもないよ。」
彼女は今まさに、他の人との実力差を痛感しているのだろう。思ったように音が出ないことや自分のできることの少なさにモヤモヤするのは当たり前だ。そこで、「3年間、Aメンバーになれないんじゃないか」と半ば諦め状態になるのは簡単だが、彼女はそうではない。杏里ちゃんは未来の自分のため、足掻こうと前に進んでいる。頭を撫でたのは、彼女に対する最大限の敬意を表すためだ。彼女と一緒に出られる日を楽しみに、私も同じ舞台にいられるように頑張ることを決めた。
15時。部員が音楽室に集められた。Aメンバーが発表される。こういう時、静かに待っている必要はないのだが今日は静まり返っていた。流石に、会話の内容に困る。静寂の中、遠くから1人の足音が近づいてきた。扉が開いた。足音の主は藤先生だった。
「お待たせしました。静かだな、さすがに。それもそうか。」
どうやら藤先生も緊張しているようだ。結果を告げる側にしかわからない重みがあるのだろうか。
「これから、Aメンバーを発表します。改めて伝えます。山桜はAの部、Dの部それぞれ出場します。そのため、予選と県大会でのメンバーの入れ替えができません。規定なので。色んな気持ちがあると思いますが、再オーディションは行いません。」
例年生徒から抗議の声が止まないのか、念を押すように藤先生が話していた。
「みんなドキドキしてる中、あまり引っ張るのは良くないね。それでは、吹奏楽コンクールAの部に出場する55名を発表します。」
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