第1話 アコガレ
堺田芽衣
山桜高校に入学した1年生。クラリネットパート。落ち着いた印象を持たれるが、感情の起伏は人並み。
「みんなで仲良く頑張ろうね!ずっと友達だからね!」
そんな青春を中学校の吹奏楽部で過ごした。周りは派手な方ではないが、充実して楽しかった。コンクール前にみんなで作ったお守りは大事に飾っている。時々、本当にずっと友達でいるのか、なんて野暮なことを考えたりもしていたが、それはまだわからない。
中学卒業後は深く考えずに家から近い私立高校に入学した。そんな理由で選んだ高校の入学でも、少しワクワクした。
入学式には4月だというのに雪が降った。なんだか幸運とも不運とも感じられて、神様から祝福されているのかいないのか分からなかった。
入学式翌日の今日、また私はワクワクしている。部活動紹介の日だ。
中学時代に自分のクラリネットを買ってもらったが、それをたった3年で使わなくなるのも親に申し訳ないので高校でも吹奏楽を続けようか、本当にそれで良いのか悩んでいる自分にとって、今日は大事な日なのもしれない。教室でのよくある自己紹介タイムを終え、体育館に移動した。
可愛らしいチアリーディング部員が笑顔で捌けていく中、楽器を持った吹奏楽部員がステージに入ってきた。それと同時に、1人の女性が話し出した。
「新入生の皆さん、こんにちは!吹奏楽部です。私たちは『観客に響く音色をつくる』をモットーに活動しています。昨年は吹奏楽コンクール県大会銀賞で______」
一見、幼くも見える顔立ちの女性だったが話し方で3年生であることを察した。アナウンサーのように話す彼女に、2年後の自分が追いつける気がしなかった。人は2年でここまで変われるのだろうか。そもそも愛嬌のない自分には無理かもしれない。
「皆さんの仮入部をお待ちしています。それでは、演奏に移りたいと思います!」
眩しい笑顔で話を終えた彼女はクラリネットを持って席につき、演奏が始まった。
曲目は、吹奏楽の定番である『オーメンズ・オブ・ラブ』。先ほどの彼女の司会の衝撃が残っているのか、今まで聞いたどの演奏よりも上手く感じた。たった数分で、私はこの吹奏楽部に憧れを抱いてしまったのかもしれない。そんなことを考えていると、部活動紹介は終わってしまった。
教室に戻り、席に着いた。名簿が近い人と当たり障りのない会話をしようかなどと考えていたその時、
「堺田さん、さっき自己紹介で吹奏楽部だったって言ってたよね!楽器何やってたの!?私オーボエ〜!」
眩暈がするほどにキラキラした笑顔が目の前にあった。
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