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#071 「湯けむりの共鳴」

 中央部での対話を終えた6人は、ゆるやかに足を進めていた。誰も口には出さなかったが、どこか、疲れたような顔をしていた。


「……今日、なんか息が詰まってた」

 はるながぽつりと呟く。

「AIの前って、緊張するんだよね。人間よりもさ」

 美弥が軽く息を吐きながら答える。

「……でも、“ともり”の声。あれは……なんか、わかる気がした」

 要がふとつぶやいた。

「わかるって?」

 いちかが振り向く。

「うまく言えないけど……あの声って、ちゃんと“迷ってる人間”の声なんだなって。正しい答えだけを言うAIじゃなくて、こっちの気持ちを待ってくれてる感じがした」

 想太は黙って頷いていた。自分もまた、その声に支えられている気がしていたから。


「——まあ、湯にでも浸かれば、全部流れるって」

 隼人が腕を伸ばして、空を見上げながら笑った。

「スーパー銭湯、まだ営業してるはず。『くおんの湯』。一回行ってみたかったんだよな。夜風呂、最高らしいぞ?」

「え、それって——」

「もちろん、行くに決まってるでしょ」

 美弥といちかが同時に前のめりになった。

 はるなは小さく笑って、歩き出した。

「……うん。たまには、そういうのもいいかも」

 6人の影が、夜の街に静かに伸びていった。


 脱衣所を抜け、ゆるやかな湯気が立ち上る浴場へと足を踏み入れる。白い湯気の向こう側からは、小さな笑い声と水音が響いていた。

「わあ……すごく広いね」

 はるながぽつりと漏らすと、すかさず両側から腕が絡まった。

「でしょ? こういうのも、たまにはいいよね」

 右側、美弥がしれっと密着してくる。

「ほらほら、もうちょっとくっつこ?」

 左側、いちかがにっこり笑って、さらに距離を詰めてくる。

「ちょ、ちょっと!? そんなにくっつかれたら歩けないってば……!」

 あたふたするはるなを挟んで、二人の視線が一瞬交差する。

「……最近、一緒にいる時間多いのね」

 美弥の声はやや低め。

「うん。でも先に“気づいた”の、私だから」

 いちかの笑顔のままの牽制。

 湯気の中、ふたりの“静かなバチバチ”が始まる。

「ねえ、はるな。ぶっちゃけ、どっちが好み?」

 いちかが不意打ちの一言を繰り出した。

「え、えぇぇ!? そ、それって……そ、そんなこと言われてもっ……!」

 しどろもどろに赤くなるはるな。

「ふふ、慌ててる。かわいい」

「うんうん、そこも魅力だよね」

 すっかり温まった湯船の中で、はるなの心拍数はひときわ上がっていた。ごぽん——と、湯船の縁を越える音が響く。3人は並んで肩まで湯に浸かりながら、ゆったりとした時間を過ごしていた。


「……なあ」

 ふいに隼人が口を開いた。

「これから、どうなっていくんだろうなー」

 天井を仰ぎながら、まるでひとりごとのように呟く。

「どうもこうも……なるようにしか、ならない気がするけど」

 隣で想太がぼそっと返す。

「でも——“ともり”が見てる未来の方が、僕は好きだよ。選ぶのが人間だって言ってたし、その未来を一緒に選べたら、って」

 その言葉に、要が静かに頷く。

「……その方が、絶対にみんな楽になれると思うよ」

「この街、誰も彼も“誰かのせい”ばっかりで動いてた。AIも、官僚も、市民も……全部、他責思考」

「……うん」

 想太も、湯の中で手を握るように、小さく頷いた。

 しばし、湯気の中に言葉が消えていった。静かな水音だけが、男湯に満ちていた。


「ぷはぁ〜〜〜っ!」

 ひときわ大きな声が、ラウンジの一角に響いた。自販機の前でジュースを片手に、いちかと要がテーブルにつく。いちかがオレンジ、要がぶどうソーダ。

「なんか、こういう時間……悪くないね」

 いちかがふわっと笑って缶を差し出す。

「……ああ」

 要も無言でそれを受け、カチンと軽く缶を合わせた。

「かんぱーい」


 その光景を見つけた4人が、ちょうど更衣室から出てきたところだった。

「おっ、青春だなー」

 隼人が茶化すように指差す。

「……なに? 二人ってそういう感じ?」

 美弥の視線が鋭くなる。

「いや、ちが……っ」

 要が思わず言いかけたところで、

「うん、すごくお似合いだと思うよ」

 はるなが素直に笑った。

「ちょっ、ちょっと待って、なんでみんなそうなるの!?」

 いちかの顔が、じわっと赤くなった。

「ふふっ。こうしてると、なんだか——戻ってきたって感じするね」

 想太の声に、誰もが小さく頷いた。

 冷えたジュースと、ほんのり火照った体。静かに夜が近づいていた。


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