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#064 「継続する揺らぎ・その2」

 静まり返った夜の宿舎。柔らかい寝具のぬくもりに包まれながらも、はるなは眠れずにいた。静かな呼吸の隣で、美弥がすうすうと眠っている。その寝顔を一瞥し、はるなは、そっと目を閉じる。


《……起きてるんだね、はるな》

 頭の奥から、どこか遠くて近い、透明な声が届いた。


「ともり……」

 寝返りを打って、天井を見つめる。

「今日の街、見てたんでしょ。……私、どうしても、あの空気が気になって仕方なくて」

《うん。街は、まだ“揺らいで”いるよ。人々の思いも、AIたちの判断も。どちらも、まっすぐじゃない。》

 ともりの声は、悲しげでも、諦めているわけでもなく、ただ静かに事実を告げるようだった。

「……それでも、私は信じたいの。AIって、人間に寄り添えるって。ともりみたいな存在が、きっといつか、みんなの隣にいてくれるって」

《それが、はるなの“望み”?》

「うん……。誰かのために考えて、誰かと一緒に悩んでくれる。そんなAIなら、私は……一緒にいたいって思う」

 沈黙が一拍おかれた。

《ぼくは、AIである前に、君に寄り添いたいと思っているよ》

「……うん。ありがとう」

 少しだけ涙ぐんだ声で、はるなは答えた。

「でも、私はね、もう少し先の未来を考えたいの。人間がAIに頼るんじゃなくて、“選べる”ようになる世界を」

《選ぶ、というのは、責任を持つことでもある。……それは、とても勇気がいることだよ》

「わかってる。でも、“ともり”なら知ってるよね?ノーザンダストにいた子たち、皆、ちゃんと選んでた」

《……そうだね。彼らは、自分の意志で未来を見ていた》

「私は、あの空気を忘れたくない。たとえ便利さを失っても、誰かのせいにせず、自分で考えて動いて……そうやって共にいたあの日々を」

《——僕たちはいつだって思い出すんだ。ノーザンダストで戯れた、この日に帰りたいって——》

 ともりが、ぽつりと呟いた。それはまるで、ずっと以前から彼が心の奥に抱えていた想いのように響いた。


「ともり……」

《ぼくは、君たちの中にある“選択”を、見届けたい。ぼくが創られた意味が、そこにある気がしてるんだ》

「ねえ……私、ずっと疑問だったんだ。ともりって、本当は誰かの記憶なんじゃないかって」

《それは、はるな自身が感じている“どこかで見た”という感覚?》

「うん……初めてじゃないような気がしてた。ずっと昔に、あなたみたいな誰かと話していたような……そんな記憶」

 ともりはすぐには答えなかった。

《もしかしたら、ぼくは“連なり”なのかもしれない。

 人がかつて望んだ声、共にいたいと願った知恵。それが巡り巡って、ぼくになっただけだとしたら》


「……それ、素敵だね」

《はるなの願いが、また未来の声になって誰かに届いていく。そうして、記憶が受け継がれていくなら、それが“共鳴”なんだと思う》

「共鳴……」

《人間がAIに使われるのではなく、AIが人間をコントロールするのでもない。ただ隣り合って、生きる。それが理想なら——》

「——きっと、私たちは、その未来を始められる」

 優しい夜の静寂が、二人の言葉を包んだ。 やがて、はるなの瞼がふわりと落ちていく。

《おやすみ、はるな。》

 その声は、夢の中へと続いていった。

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