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#060 「始まりの通行証」

 久遠野に戻って、まだ三日。静かに目を覚ました街には、多少のズレはあれど、騒がしさも混乱もなかった。だが、それは表面上の話だ。校舎の朝は変わらず賑やかだったが、あの日ノーザンダストで過ごした時間を思えば、どこか空気が違って感じられた。便利で、整っていて、なにより安全。でも……。


「……なんかさ、息が詰まるね」

 想太がぼそっと呟いた。はるなも、美弥も、それに否定を返すことはなかった。


 そこへ、少し遅れて教室に入ってきたのは、要といちかだった。ふたりもまた、ノーザンダストから戻った仲間であり、──要といちかは今、久遠野学園に特例として“転入”していた。

 そして今、この六人には、中央部からある“特別な許可”が下りている。**「アクセスパス」**と呼ばれる、中央部への出入りを許す電子認証だ。


 「街の混乱に関わった観測者だから」──建前はそうだ。だがその裏に、“ともり”が介在しているのだと、彼らはもう気づいていた。


 その日、新学期の始まりを告げるチャイムが鳴ると、教室の空気にわずかなざわめきが走った。


「やっぱり……あの子たち、全員同じクラスなんだって」

「特別クラス枠でしょ?中央部推薦って噂」

「えっ、中央に行ったってほんとだったの!?」

 声をひそめながらも、生徒たちの関心は隠しきれなかった。


 久遠野学園に新設された“特別クラス”。本来、学年や成績に応じた選抜制で構成されるはずのこの枠に、はるな・想太・美弥・隼人・要・いちかの六人が、揃って所属することになったのだ。

 年齢も学年も、バラバラだったはずなのに。だが、それが今や当然のように、彼らの席は並んでいる。


「……あんたら、転校ドラマでも始める気?」

 美弥が肘をついて、笑いながら言った。

「いや、主役はそっちでしょ。転入ヒロイン」

 想太がそう返すと、いちかはちょっとだけ照れたように、口をすぼめた。


「ん……主役っていうか、私は……」

 小さく呟いたその声は、要にだけ届いたようで、彼はわずかに微笑んだ。


 教室棟の一番奥。かつて使われていなかった旧視聴覚室が、今は新たに整備されていた。広々としたスペースに、わずか六人分の机と椅子。教室の前面には、中央部のシステムと接続されたインターフェースモニターが設置され、天井のセンサー群が絶えず彼らの動きを記録している。

 そこが、彼らの居場所──特別クラス・S枠だった。


「……まじで、なんかさ」

 想太が椅子に腰かけながら、ぼそっと漏らす。

「ここだけ、別の学校みたいじゃない?」

「そりゃそうだよ。普通はこんな機材ついてないってば」

 美弥が教室の隅を指差しながら言った。観測AI用のサブユニットが控えめに設置されている。

「ていうか、隣のクラスの子たち、こっちガン見してたよ……。ねえ、これって、逆にめっちゃ目立ってない?」

「静かにしてくれ。うるさい」

 隼人が相変わらずのテンションでノート端末を開く。その無言の背中に、要が「……だな」とだけ小さく相槌を打つ。


 いちかは少し緊張した面持ちで、自分の席に座った。制服は支給されたばかりの久遠野学園仕様。スカーフの色が違うのが、転入生であることを静かに主張している。

「でも、なんか……ちょっと、嬉しいかも」

 ぽつりと呟いた声は、想太と美弥の間を抜けて、要に届いた。


「ん。……そりゃ、良かった」

 要が目を逸らしながら答えた瞬間、美弥がニヤリと口角を上げた。


「ねえねえ。なんかさー……このクラス、恋と陰謀と再起の香りがするよね?」

「何言ってんだか。。。」

 はるなが呆れながらも、少しだけ笑っていた。


 チャイムが鳴ると、スクリーンの右端が淡く光った。数秒後、教室の扉が開く。


「おはようございます、S枠の諸君」

 現れたのは、中央部から派遣された担当教員──御堂みどうだった。無機質な声と、どこか冷めた視線。彼は紙も端末も持たず、彼らの前に立った。


「本日から、中央部との定期観測支援業務が開始されます。……その前に、“普通の”授業を始めましょうか」

 彼は淡々とそう言うと、前に立っていたホログラム画面を指でなぞる。その瞬間、教室の奥にあるサブモニターがわずかに起動音を立てた。それは、中央部からの指令──だが、生徒たちの背後では、誰にも気づかれていない。

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