#058 「朝の余韻」
──翌朝。
朝の光が、薄いカーテン越しに静かに差し込んでいた。小さな鳥のさえずりが、遠くから微かに響いている。
はるなは、夢の中で何かを感じていた。何か──重い。とても、重い。
「……んー……んー……お、重い……」
寝言のような声で顔をしかめる。それでも目は閉じたまま。布団の上に、何かが──確実にある。
まるで猫でも乗っているような、いや、それにしては大きい。温度が高い。そして、鼻息が近い。
はるなは、ゆっくりと目を開けた。
──視界いっぱいに、美弥の顔があった。
「ふんふん……はるなさんの寝顔、尊い……ほっぺ触っても怒らないかな……この距離感、尊すぎて……私、幸せで息が詰まりそう……」
「なにしとるか!!」
パコーン!!
布団の上に軽快な音が響く。見事なチョップが美弥の額に炸裂し、美弥は仰け反った。
「えええぇぇ……っ!? 朝のスキンシップなのに……っ!!」
「人類には、目覚めの尊さって概念があるでしょうが!」
「それを暴力で終わらせるなんて、非文明的! 退化! 縄文時代!」
「縄文に失礼」
はるなは静かに言い放った。
美弥は両手で額を押さえながらも、ふへへ……と笑っていた。その笑顔は、どこか晴れやかで、心の底から楽しそうだった。
「……でもさ」
布団に転がったまま、美弥が呟く。
「昨日のこと、夢じゃなかったんだね」
はるなは一瞬だけ言葉に詰まり、窓の外を見る。朝の光は穏やかで、世界は何事もなかったかのように続いている。
「……うん」
短く答えながら、胸の奥に残る感覚を確かめる。夜の静けさ。あの声。“応えたい”と思った、自分の気持ち。
それは消えていなかった。夢のようで、でも確かに“ここ”に残っている。
「じゃあさ」
美弥がにやりと笑う。
「今日もちゃんと、現実やろっか」
「……うるさい」
そう言いながらも、はるなは布団から起き上がった。足元の床は少し冷たくて、それが逆に心地よかった。
朝は、ちゃんと来る。問いを抱えたままでも、世界は進む。
けれど──昨日までとは、少しだけ違う。
はるなは、胸の奥に残る“余韻”を抱えたまま、静かに一日を迎えようとしていた。




