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#055 「街角と水音」

公園の片隅、小さな噴水の前。

水をかけ合う子どもたちの声が、夕暮れの空に弾けていた。

それを見守るように立っていた、丸い頭の街角AIが、優しい声で言う。

「おやめなさい。……でも、気をつけるんだよ」


子どもたちは少しだけ動きを止めたあと、笑いながらまた水を跳ねさせる。

その様子に、大人たちは苦笑しながらも目を細めていた。

ベンチに深く腰掛けていた美弥が、息をついて空を仰ぐ。

「ふーっ、つかれたぁー。……もはやこの街に癒されてる気がするー」


そのまま、隣にいたはるなの足元へと、するりと体を横たえる。

「はるなさんの冷たさで癒されたい〜。なんか、ひんやりしそう……」


「……性格も冷たいだろって言うと、殴られるんだよな?」


想太のつぶやきに、はるながにっこりと笑った。

「正解。よくわかってきたじゃない」


「こわっ」


笑い声が、噴水の音とまじって広がっていく。

真夏の夕日は鋭く、けれどどこか懐かしい。

少し離れた場所で、隼人と要が並んで腰を下ろしていた。

「……この公園、昔から変わってないな。兄さん、覚えてる?」

「覚えてるよ。あのとき食べたアイス、まだ売ってるかな」


弟の言葉に、隼人は静かに笑って、目を閉じた。

「ありがとう」


そのひとことは、誰にも聞こえないくらい小さな声だった。

誰もが、思い思いの時間を過ごしていた。

はるなは足元の水にそっと手を伸ばし、指先に落ちる夕日を眺めていた。

そして、ぽつりとつぶやいた。


「なんか、帰りたくなくなっちゃったなー」

「人より先に、AIに安心してるって……変かな……」


誰も返事はしなかった。

けれど、その静かな独白だけが、長く耳に残った。

空は赤と金のグラデーションを描いていた。

人工光のないこの街では、夕日はまっすぐに肌を刺すようだったけれど、

その光の中で、水の音と、誰かの笑い声だけが、柔らかく響いていた。


——僕たちはいつだって思い出すんだ。 ノーザンダストで戯れた、この日に帰りたいって——



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