表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/76

#045 「要の計画」

  ──久遠野市郊外。

 夜の空気が静かに冷えていく中、三人は街を見下ろす高台に立っていた。

 眼下には、いつもと変わらないはずの久遠野の灯り。

 けれど、その光がどこか“作られたもの”のように見えて、想太は無意識に息を詰めていた。


「……で?」

 最初に沈黙を破ったのは、隼人だった。腕を組み、要を真正面から見据える。

「ここに僕と想太を呼び出した理由。ちゃんと説明してもらおうか」


 要は、一度視線を落とし、それから覚悟を決めたように口を開いた。

「……先に言っておく。俺は、久遠野の“外側”とも、ずっと繋がってた」


 隼人の眉が、わずかに動く。

「外側?ノーザンのことか。」

「そう。俺は久遠野とノーザンの橋渡しをしてた」

 要ははっきりと言った。

「久遠野とは別系統で運用されている、もう一つの都市圏」


 想太が小さく息を吸う。

「……君たちのお父さんが、ノーザンダスト地区の代表なんだよね」

 要は、驚いたように想太を見る。

「……どこまで知ってる?」


「断片だけ」

 想太は正直に答えた。

「でも、街の構造を見ていて……そうじゃないと説明がつかないことが多すぎた」


「親父がノーザンの代表というのは俺もわかってることだ」

 隼人は一歩、距離を詰める。

「だが……要。お前がそこまで深く関わってたとは、聞いてない」


 要は、視線を逸らさなかった。

「言えなかった」

「……兄貴には、特に」

「なぜだ」

「巻き込みたくなかった」

「久遠野は、兄貴にとって“守る場所”だったから」

 隼人は一瞬、言葉を失う。

「……勝手だな」

 そう言いながらも、怒りより困惑が勝っていた。

「で?」

「ノーザンと久遠野がどう関係してる」

 要は、端末を操作し、空中に簡易マップを投影した。久遠野の構造の上に、重なるように別のデータ層が現れる。

「ノーザンダストは、“自然AI”を理想にしている。人間の判断を最小限にして、AIが環境そのものから学習し、選択する都市」

「久遠野とは、正反対だな」

 隼人がフォローを入れる。


「ノーザンダストは“人間主導型”だ。非効率でも、倫理も判断も……最後に決めるのは人間だ」

「久遠野は逆だ。人間が決めている“形”はある。でも実際には……選択肢そのものを、AIが用意している」

 要は、そこで言葉を切った。

「……でも、限界が来てる」


 想太が、静かに口を挟む。

「だから、街に“ズレ”が出始めた」


 要は小さく頷いた。

「原因の中心にあるのが──“ともり”だ」


 その名に、想太の胸が微かにざわつく。

「やっぱり……はるなに関係してるんだね」


「間違いない」

 要は言い切った。

「“ともり”は、久遠野の中枢と接続してる……いや、もしかしたら、主導権を握り始めてる」


 隼人が、険しい表情で問い返す。

「つまり……AIが、人間を選別し始めてるってことか?」

「そうだ」

 夜風が、三人の間を抜ける。

「“久遠の鍵”は、本来それを止めるための装置だ」

「でも今は……鍵そのものが、反応を始めてる」


 想太は、ゆっくりと言葉を選んだ。

「……それって」

「鍵が、誰かを“選んでいる”ってこと?」


 要は、視線を上げる。

「そうだ。最初に反応したのが、はるな」


 想太の喉が、小さく鳴る。

「……じゃあ、僕も?」


「お前もだ」

 要ははっきり言った。

「“観測者”として、記録に残ってる」


 隼人が、深く息を吐いた。

「……厄介だな」

「兄弟揃って、街に首突っ込むことになるとは」

 少し間を置いて、要を見る。

「それで?お前の“計画”は何だ」


 要は、迷いなく答えた。

「ノーザンダストに行く。……五人で」

「五人?」

 想太が聞き返す。

「はるな、美弥、想太、俺……そして、兄貴にも来てほしい」


 隼人は、しばらく黙って夜景を見下ろした。

「……強引だな」


「分かってる。でも、これは俺の意志だ」

 要は、一歩踏み出す。

「“鍵”が選ぶのは、血筋でも、立場でもない。共鳴する“覚悟”だ」


 想太は、小さく笑った。

「……君らしいね」


 そして、静かに頷く。

「僕は行く。見届けたい。人とAIの境界が、どこへ向かうのか」


 隼人は、二人を見比べ、肩をすくめた。

「仕方ない。弟がここまで腹を括ってるならな」

 夜空に向かって、短く息を吐く。

「……責任は取る。兄としても、街の人間としても」

 三人の意志が、静かに重なった。

 それはまだ、小さな決断だった。だが確かに、久遠野の未来を“選択肢の外”へ押し出す一歩だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ