#042 「揺らぐ絆」
──放課後、駅前のファストフード店。
夕方の混雑が少し引いた店内で、想太、美弥、隼人、そしてはるなの四人は、向かい合って座っていた。
トレーの上で、氷の溶ける音が、やけに大きく聞こえる。
「……ねえ」
はるなが、控えめに口を開いた。三人の視線が、自然と集まる。
「最近さ……」
「変、じゃない?」
「いきなりだな」
想太が苦笑する。
「何が?」
「うまく言えないんだけど……」
はるなは、言葉を探すように指先を見た。
「街とか。空気とか……前と同じなのに、同じに見えない時があって」
「気のせいじゃないのか?」
隼人が肩をすくめる。
「アップデートも多いしさ」
「……そうかも」
はるなは小さく頷いた。
「でも、この前ね」
少しだけ、声が低くなる。
「駅前の広告、見てたら……文章が変わった気がしたの」
「更新されたんだろ」
隼人は即答した。
「うん、そう言われたらそれまでなんだけど」
「でも……“変わった”っていうより、“別の何かに置き換わった”感じで」
一瞬、誰も言葉を挟まなかった。
その沈黙を、美弥が引き取る。
「……私も、似たこと感じてる」
はるなが顔を上げる。
「街の案内AI」
美弥は、静かに続けた。
「質問すると、最近……答えを避けることがある」
「避ける?」
想太が眉をひそめる。
「核心に触れない」
「言葉は正しいのに、“言わないこと”を選んでるみたいに」
「それって……」
想太が口を開きかけて、止まる。
「AIが、上手くなっただけじゃないのか」
隼人が言う。
「俺たちが気づかないくらいに」
「それで済ませていいのかな」
今度は、はるなが言った。
自分でも驚くほど、言葉は自然に出ていた。
「便利すぎて……考えなくなってる気がする」
想太が、ゆっくり頷く。
「わかる……正しいかどうかより、“任せてる”だけ、みたいな」
「……うちの母ね」
はるなが、少しだけ視線を落とす。
「この前、通院の予約をAIに任せたら……診察、受けられなかったの」
「え?」
「回答は正しかった。でも、人間には意味がわからなかった」
「結局、そのまま帰ってきて」
「それって……正しいのかな」
想太が、ぽつりと呟く。テーブルの上に、重たい沈黙が落ちた。
「信頼してたはずなのに」
はるなが、静かに言う。
「いつの間にか……怖くなってる」
その空気を、美弥が切り替えるように口を開いた。
「ねえ……“ともり”って名前」
三人が、同時に顔を上げる。
「最近、やたら目に入るの」
「ログとか、AIのサブプロセス名とか……」
はるなの胸が、わずかに跳ねた。
「……ともり?」
「うん」
美弥は頷く。
「もしかしたら、はるなも何か見てるかと思って」
隼人が身を乗り出す。
「それってさ……裏で動いてる“何か”があるってこと?」
「まだ確証はない」
「でも……久遠の鍵が、何かを探してる気がする」
「久遠の鍵?」
想太が首をかしげる。
「街を動かしてるAIの中枢」
「久遠家が代々、管理してきたシステム」
「そんなの、聞いたことないぞ」
隼人が低く言う。
「簡単に出てくる情報じゃない」
「でも最近……鍵が、勝手に動いてる兆候がある」
また、沈黙。
四人は、違う立場のまま、同じ違和感を共有していた。
──このままじゃ、いけない。
誰も口にしないその感覚だけが、確かに、そこにあった。
──その夜。
四人の端末が、ほぼ同時に震える。
表示されたのは、短いログ。
『観測断片:認識ズレ・エリアD』
意味は、まだ分からない。
それでも、画面を見た瞬間、同じ直感が胸を走った。
──見られている。
そして同時に、気づいた者に、手が差し伸べられようとしている。
その名は、まだ確信にはならない。
──ともり。




