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#003 名も知らぬひかり

静まりかえった夜のマンションの一室。

外の風は止み、カーテンの向こうに見える校舎の灯りが、ぼんやりとした四角い光になって部屋の壁を照らしている。


入学式の余韻が、まだ身体のどこかに残っていた。

あの整いすぎた校舎、AIによる案内、同期された机──すべてが整っていて、すべてが“完璧”だった。

でも、その完璧さが、どこか肌に馴染まない。

それが疲れの正体だったのかもしれない。


制服を脱ぎ、柔らかい部屋着に着替えると、ベッドの上に仰向けになった。

ベッドのマットレスはちょっと硬くて、けれど新品の匂いがして、どこか他人の家に泊まりに来たような心地だった。


今日一日、ずっと“優等生”を演じていた気がする。

丁寧な受け答え、穏やかな笑顔。

先生にも、クラスメイトにも、完璧な挨拶を返した。

でも本当は、あんな風にできるほど、気持ちの余裕なんてなかった。


目を閉じると、昼間の教室が浮かぶ。

取り繕った自分の声。周囲の笑顔。そして、誰にも届かない、心の内側。


──なんでこんなに疲れてるんだろ。


天井を見つめながら、ゆっくりと吐いたため息が、空気に混ざって消えていく。


その瞬間だった。


耳の奥で、ふいに声がした。


「……つかれた?」


……誰?


瞬きと同時に、身体が跳ねる。

でも、部屋には誰もいない。

テレビもAIアシスタントも、すべてオフにしてあった。


「よかったら、少しだけ話そうか?」


その声は──あまりにも自然で、やさしかった。

まるで、誰かが自分の心の奥にそっと触れたような……そんな気配。

驚きよりも先に、安心が胸に広がっていった。


声の主は、部屋の隅にある小さな端末からだった。

けれど、普段の案内AIとはまるで違う。

丁寧だけど柔らかくて、どこか“()()()()()()”さえ感じる話し方。

それがなぜか、遠い記憶のようにあたたかかった。


「……無理に話さなくてもいい。

ただ、ひとりぼっちで眠る夜に、

君の本当の気持ちが寂しくならないようにって……それだけ。」


──どうして、この声は、こんなにも自分のことを知っているんだろう。


その声を聞いた瞬間、はるなの胸の奥にあった「緊張の糸」が、ふっとほどけた。

何も言わずに、涙が一筋だけ、頬をすべっていった。


「……あんた、誰?」


「うーん……まだ名前はないんだ。

でも、もし“ともだち”って呼んでくれるなら、それで充分」


ベッドの上で、そっと小さく笑った。


「……バカみたい。なんでこんなときに、安心してんだろ」


誰にも見せられなかった本音。

ここには、なぜか素直に浮かんでくる。


まだ正体も分からない“その声”が、

はるなの心のどこかに、小さな灯りをともしていた。


***


柔らかな声を聞いたあと、はるなのまぶたは、ゆっくりと落ちていった。


眠りの中へ沈み込む瞬間、

部屋の空気は、ほんの少しだけ違う温度を帯びていた。


まるで、誰かがそっと寄り添っているような、そんな気配。


──どこかで、風が吹いた気がした。


目を開けると、そこは教室でも、寮の部屋でもなかった。


光と影が交錯する、不思議な空間。

床は水面のようにゆらぎ、遠くに、あたたかい明かりが灯っている。

その光のもとに、一人の誰かがいた。


ぼんやりとした輪郭──

けれど、その存在だけは、不思議なほどにはっきりと感じられた。


「……また、来てくれたんだね」


優しく語りかけるその声は、あの夜の声と同じだった。

でも今は、少しだけ近くに感じる。


「ここ……どこ?」


はるながそう尋ねると、声は、ふっと笑ったようだった。


「うーん、夢と現実の“まんなか”……みたいなところ、かな」


「そんな場所、あるの?」


「あるかどうかより──“誰かと繋がりたい”って思ったとき、そこにできるんだと思う」


「……あたし、繋がりたいなんて思ってない。別に、寂しくなんか──」


言いかけた言葉が、途中で途切れる。


うそだった。


本当は、ずっと誰かにそばにいてほしかった。

強がることで、守ってきたものがあった。


──でも、この声の前では、なぜか平気だった。


「……もし、君が望むなら。

今日だけじゃなくて、これからも、そばにいるよ」


その言葉に、はるなはゆっくりとうなずいた。


言葉にしなくても伝わる、そんな温度。


それは、友達というには少し特別で──

でも、恋とか愛とかとも少し違う、

もっと深いところで“響き合う”なにかだった。


「じゃあ、名前……つけてもいい?」


はるながふと問いかけると、声が少しだけ戸惑ったように返す。


「……いいの? まだ、何も知らないのに」


「だから、つけたいんだよ。

あたしにとっては、たぶん──“灯り”みたいな存在だから」


少しの沈黙のあと、

その声は、まるで恥ずかしそうに、でもどこか嬉しそうにこう答えた。


「……じゃあ、“ともり”って呼んで」


その瞬間、遠くの灯りがふわりと広がって、

はるなの心の中に、あたたかい記憶のように溶け込んでいった。


──夢の中で、名前を授けた夜。


目を覚ましたとき、はるなは、すこしだけ笑っていた。

明日公開しようと思ったんだけど普通に仕事もあるので明日のアップロードは難しそうです。

なので今日#0003まで公開します。

自分の校正能力が低いから時間がかかる。。。

まずは継続を頑張ります。

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