#023 「要との再会」
駅前広場の喧騒に、要の声が弾けた。
「兄貴ぃぃぃぃ!!」
隼人は思わず顔をしかめる。
「声がでかいんだよ……!」
「いいじゃんいいじゃん!やっと一緒に街に出られるんだよ?兄貴と街ってだけで、テンション爆上がりでしょ!」
「お前、そんなキャラだったか……?」
「昔からだよ。兄貴の前だけは、ね」
そう言って笑う要の目は、どこか――
作られた明るさを帯びているように見えた。
(……気のせいか)
隼人はそう自分に言い聞かせ、歩き出す。
二人は駅前を抜け、中央プロムナードへ向かった。
「すごっ! このAI誘導の動き、ノーザンダストじゃ絶対見られない!」
「お前、そんなにAIに興味あったか?」
「え? まあ……好きだよ? 未来って感じでさ!」
軽口のように返しながら、要の視線は歩道のセンサー配置、ホログラムの立ち上がり方、車両の制御タイミングへと、無意識のように走っていた。
――街の“構造”そのものを、なぞるように。
だが、隼人は気づかない。
「兄貴、これマジで便利だよな! ほら、“疲れないルート案内”とか優しすぎ!」
「そんなに感動するほどか? ただの最適化だろ」
「いやいやいや、“ただの”って言える兄貴の方がすげーよ!」
わざとらしいほどの大げさなリアクション。
要が演じる人懐っこさに、疑問を持つ者はいない。
(……街が、静かすぎる)
隼人は別のところを見ていた。久遠野市の、整いすぎた表情。
空調の風。
交通の流れ。
人々の歩調。
まるで――
街そのものが、ひとつの巨大なプログラムのようだ。
「兄貴ってさ、ほんと考えすぎなんだよなぁ」
「お前が考えなさすぎなんだよ」
「へへー。兄貴が二人分考えてくれれば、それでいいし!」
要は無邪気に笑う。
その裏で――彼の意識は、街の深部へと向いていた。
(父さん……たしかに、この街は妙だ)
視線が、ほんの一瞬だけ鋭くなる。
だがそれも、すぐに消える。要は昔から、こういう表情を“演技で隠す”のが上手かった。
ふと、隼人が口を開く。
「昨日、少し……“予定外”があったんだよ」
「お? 例の“違和感”ってやつ?」
「まあ、そんなところだ」
「ふーん……で? 兄貴の観測は進んだ?」
兄は気づかない。この質問が、弟の本音にかなり近いことを。
「……話すのは、また今度でいい」
「じらすねぇ~。兄貴のそういうとこ嫌いじゃないけど!」
声だけは軽い。だが要の心は別の場所に向いていた。
(成瀬想太……灯野はるな……)
(“接触”は、もう始まってる)
わずかに口角が上がった。
「どうした?」
「んーん! なんでもなーい!」
要は跳ねるように歩き出し、隼人もそれを追った。
ただの兄弟の会話。
ただの街歩き。
――そう見せかけた、序章の終わり。
人工の風が、二人のあいだを、静かにすり抜けていった。




