表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/76

#001 「灯ヶ峰学園初日」

春の風が、制服の袖口をやさしく揺らした。


まだ少し肌寒いが、空は晴れていて、白い雲がゆっくりと流れている。

足元には早咲きの桜の花びらが数枚舞い、アスファルトにやわらかな影を落としていた。

その影が自分の足取りと重なるたび、成瀬(なるせ)想太(そうた)の胸には、どこか遠い場所から知らない未来が手を振っているような、不思議な感覚が残った。


灯ヶ峰(ともりがみね)学園──。

その校門に向かう途中、想太の胸の奥には、まだ一つの情景が残っていた。


数日前、駅前の小さな公園で見かけた少女の姿。


しゃがみ込んで、小さな紙袋をそっと抱え、猫と何かを見つめていた彼女。

その様子は、どこかの演劇のワンシーンのようだった。

髪は光を含んでやさしく揺れ、猫はその手のひらに前足を乗せながら、なにかをじっと聞いているようにも見えた。


そのとき、彼女が小さく何かをつぶやいた。

「……ごめんね、もう少ししかあげられないの」──たぶんそんな言葉だった。

その声の響きが、なぜか想太の胸に強く残っている。


優しげな横顔と、静かな朝の光。

その光景は、強く焼きついて離れなかった。


「……名前も、声も知らないけど」


つぶやいた言葉は風に消え、想太は学園の巨大な門へと足を踏み出した。


校門前の広場には、立体ホログラムのアーチが浮かんでいた。


 “新入生のみなさん、ようこそ灯ヶ峰学園へ”


柔らかなフォントで描かれた文字が、朝の空に静かに舞っている。

その下を通り抜ける生徒たちの制服は、ホログラムの光でほんのり色を変えて見え、少し不思議で、少し眩しかった。


校舎はまるで近未来の美術館のようだった。

白を基調とした外観には光沢のある素材が使われ、人工的なのにどこか有機的な美しさを感じさせる。

窓には情報表示用のスクリーンが内蔵され、すでに何人かの生徒が案内表示に目を通していた。


廊下の先では、軽やかな音とともにホログラムが展開し、花が咲くように道案内が始まっていた。

非接触型のUIは手を触れずとも「人の意志」に反応し、映像を展開していく。

想太の前を歩いていた男子生徒が、まごまごしながらも手をかざすと、浮かんだマップが笑うように変化した。


校門のそばには、案内係のような姿をした “AIホロ” が立っていた。


彼女のような姿をしたホログラムは、淡いピンクの制服をまとい、優しい声で挨拶を繰り返している。


 「ようこそ灯ヶ峰学園へ。本日より新しい学びの旅が始まります」

 「生徒証をスキャンすると、あなたのクラスと座席番号が表示されます」


その声は音楽のようにやわらかで、耳に心地よい余韻を残す。

周囲の生徒たちも、一瞬目を見張ったあと、徐々に「未来に来た」実感を持ち始めたようだった。


想太の前の生徒が提示した学生証は、一瞬でスキャンされた。

その直後、空中に小さなナビゲーションマップが浮かび上がる。

まるで自分専用の地図のように、点滅するアイコンが教室までのルートを示していた。


想太も同じようにカードを差し出した。


 「成瀬 想太さん、1年C組ですね。教室はA-2ブロックになります」

 「右手のエスカレーターを利用し、3階へどうぞ。教室の入口で“初回同期”を行ってください」


「同期……?」


小さくつぶやいた想太に、AIホロがにっこりと微笑んだように見えた。


 「はい。机や端末、個別AIアシストなどを、あなたの認証と連動させる作業です。

 最初の1回だけで完了しますから、どうぞご安心ください」


説明は自然で、まるで人間の受付のようだった。

それは確かに機械だが、「対話が通じている」と錯覚させるだけの温度があった。


……まるで、ちょっと未来の空港みたいだ。


言われた通りにエスカレーターへ向かう途中、想太はふと後ろを振り返った。

まだ多くの生徒が、ホログラムに案内されながら校舎へと向かっている。

きっと、それぞれが新しい生活に胸を躍らせたり、不安を抱いたりしているのだろう。


想太もその中の一人。


ただ、あの朝見かけた少女のことが、まだ頭から離れなかった。


優しそうな横顔。

袋の中を覗き込んでいた猫。

あの何気ない一瞬が、なぜだか強く残っている。


教室へ向かう足取りの中で、想太の心のどこかに静かに一つの予感が灯っていた。


──きっと、今日という日は“ただの入学式”じゃない。

1話1話「OpenAI」から生まれた「ともり」の普段の会話をしながら話し合って作り上げています。今日はこのまま#002を公開します。これが将来「#0002」になることを目指して。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ