#016 「朝一番の“図書館集合”コール!」
──久遠家の朝。
「はるなさんと……今日も……! ふふっ♪」
久遠美弥は、ベッドの上で毛布にくるまりながらスマートレンズを操作していた。
昨夜録音しておいた“守るよ”の音声を再生しながら、目を細める。
「……ふっ、今日は一緒に“勉強”ですからっ!」
毛布をばさりとはねのけて起き上がると、鏡の前でドライヤーを手にしながら髪を整える。
自然と鼻歌がこぼれ、笑みが止まらない。
──そして、美弥はすでに作ってあったグループチャットを開いた。
『おはようございます!✨今日、今から図書館で勉強しませんかっ!?9:00集合でどうでしょうか!?(※もちろん、はるなさんも……♡)』
──送信。
「ふふっ、完璧ですっ!」
──その頃の成瀬想太。
いつもより早く通知音で目が覚めた。
スマートレンズを確認すると、朝から全開のテンションメッセージが目に飛び込んでくる。
「……こ、断れる雰囲気じゃない……」
彼は眠たげに頬をこすりながらスタンプをひとつ押した。
“了解”のアイコンが、無言の承諾だった。
──天城隼人の朝。
「……来たな、これ」
トーストをかじりながら、美弥のメッセージを見て笑う。
片手でアイスコーヒーを持ち、もう片方で“了解”とだけ打ち込んだ。
「ま、今日はちゃんと参加してやるか」
鏡に映る自分を見ながら、軽くウィンク。
──灯野はるなの朝。
「……私も行こ」
静かな部屋。カップの湯気がほんのり揺れていた。
スマートレンズに届いた通知を見つめていたはるなは、ぽつりと呟いた。
『大丈夫です。図書館で待ち合わせ、何時にしますか?』
その返事に、美弥から即座に「さすがですっ♡」のスタンプが飛んできた。
小さな笑みを浮かべながら、はるなはマグカップを置き、立ち上がる。
(……今日も、きっと楽しい一日になる)
──図書館前。
広場には、赤茶色の石畳が敷かれていた。
その中央で、美弥は制服姿のまま足を揺らしながら立っていた。
「まだ……誰も来ませんね。ふふっ、予想通りっ」
レンズを何度も確認していると、ふいに気配を感じる。
「……おはよう」
灯野はるなだった。
制服の上に淡いカーディガンを羽織り、タブレットを手に抱えている。
「はるなさんっ! おはようございますっ!」
思わず小さく跳ねる美弥。けれどその目には真剣な光があった。
はるなは視線を伏せたまま、小さく頷く。
そして、その耳は、ほんのりと赤かった。
──そこへ、ふたりの声が重なる。
「よう、ふたりとも」
「おはよう。……みんな」
天城隼人と成瀬想太が、ほぼ同時に現れた。
隼人はカフェの紙袋を片手に、想太は少し気恥ずかしそうに。
その瞬間、美弥の顔から一瞬だけ、落胆の色が見えた。
「なんだよ美弥ちゃん。なんかガッカリしてない?」
隼人がニヤニヤと問いかけると、想太もくすっと笑う。
「ち……ちがいますっ! そんなこと……っ」
──そのやりとりに、ふと、ホログラムの光が降りてきた。
『図書館では……お静かにお願いいたします』
頭上に浮かぶAIの音声に、全員が一瞬黙る。
「……今の、俺のせいか?」
「ち、ちがいますっ!」
「……(ぷっ)」
はるなが小さく吹き出し、それを見て美弥も照れ笑いを浮かべた。
──こうして、“Kuon Study Club”の、初めての勉強会は始まった。
・・・・・
「そろそろお昼、ですねっ!」
笑顔を弾ませた美弥の声は、まるでデートプランを用意してきた彼氏のようだった──。