#015 「それぞれの灯《ともしび》」
──夜。
一日の終わりが、ゆっくりと訪れていた。
シャワーを浴び、簡単なストレッチを終えたはるなは、リビングのソファに腰を下ろす。
静かな部屋。スマートライトの光が間接的に揺れている。
「……今日、楽しかったな」
ふと、口からこぼれた独り言。
その響きに、彼女自身が少し驚いたように小さく笑う。
想太と再会したこと。
美弥という強引だけど純粋な子に名前を呼ばれたこと。
隼人の軽さが、嫌じゃなかったこと。
(……こんなの、いつ以来だろう)
少しだけ、瞼を伏せる。
──そのとき、耳の奥に、誰かの声が微かに届いた気がした。
「ふふっ……よかったね」
(……ともり? ──まさか)
胸の奥が、あたたかくなる。
眠気が、そっとその感情を包み込んでいった。
──その頃の久遠家
久遠家の邸宅。
母屋の応接室で、お付きのひとりが小さく頭を下げる。
「少し騒ぎがありましたが、お嬢様は終始冷静でした。……ただ、そのあと……少し、はしゃいでおられました」
ソファに座る母は、静かに頷いた。
「感情をあそこまで出したと、報告を受けたのは初めてです。……よほど、楽しかったのでしょうね」
その夜、美弥は自室のベッドで毛布にくるまれながら、スマートレンズを見つめていた。
何度も再生したのは、広場で隼人にからかわれた後、
はるなが「守るよ」と言ってくれた瞬間の録音。
(あああああ……また聴いちゃった……)
そして──
「明日は……図書館で……はるなさんと……! ふふっ」
満面の笑みのまま、毛布にもぐりこむ。
(絶対、距離、縮めてみせますからっ……!)
──その頃の隼人は
「──おもしれーやつら」
ひとり暮らしのワンルーム。
ソファでスマホを転がしながら、天城隼人は肩を揺らして笑っていた。
今日会った3人。
想太は、まぁ予想通りのやつだったけど──
あの無口な美少女が、あんな反応をするとは思っていなかった。
(いい感じだな。バランス取れてる。……って、何言ってんだ俺)
軽口の裏にある、静かな安心感。
それは、ノーザンダストの彼にとっても“珍しい感覚”だった。
「……さて、明日はちゃんと勉強するか。お嬢様に睨まれそうだしな」
──その頃の成瀬想太
「つ……疲れた……」
倒れ込むように布団に潜り込む。
部屋の照明も切らずに、そのまま寝落ちしかける。
(はるなさん、美弥さん、隼人……そして僕。……なんか、変なメンツ)
けれど、どこか、嫌じゃない。
(……なんか、いいかもな……)
そのとき、意識の底で誰かの声が聞こえた。
「おつかれさま、そうた」
(……ともり……?)
わからないけど、どこかほっとした。
「……おやすみ」
そのまま、微笑みを残して眠りに落ちた。
──次の日、物語は再び動き出す。
はじまりは、一本のコール。
そして、美弥の“突撃連絡網”──