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第1話 逃さない。再会と執着のはじまり

「どこへ行くつもりだ」


 逃げ道を塞がれた。


 テオドリックの熱を帯びた青い瞳が、絡みつくように私を捕らえる。

 背後には、冷たい壁。

 追い詰められた私の心臓は、激しく鼓動を打った。


(これは妃への寵愛じゃない。

 ……まさか私の正体に気づいた?)


「どうして僕から逃げる?」


 穏やかな口調で、彼は問いかける。

 けれど、その声の奥に滲む焦りと苛立ちが、私の不安を煽った。


 逃げ道を探して、わずかに身をよじる。

 だが、逃さないと言わんばかりに、すかさず彼の手が壁際へ伸びた。


(ついに捕まってしまった――)


 ごくりと唾を飲み込んだ。

 テオドリックの瞳が細められ、じっと私の顔を覗き込む。


「シャロン。君は、僕のものじゃないのか?」


 こんなに近くで彼に囁かれたのは、五年ぶり。


 でも――。


(……違う。私は……シャロンじゃない……!)


 テオドリックの手が、ゆっくり伸びてくる。

 見透かされるような視線に、射抜かれる。

 心の奥を覗き込まれているようで、息をするのが苦しい。


 逃げなきゃ。ここから離れなきゃ。

 彼に正体がバレたら――()()()()()()()

 なのに――もどかしいほど足が動かない。


 テオドリックの瞳が、微かに揺れる。

 まるで、哀願するかのように――。


「ここにいてくれ」


 指先がそっと、私の唇に触れた。


 彼の表情には、恐怖よりも重いものが滲んでいた。

 震える声に潜む、狂おしいほどの切実さ。


 唇をなぞる指は、ぞくりとするほど冷たい。

 彼の顔が――ゆっくりと近づいてくる。


(あなたは……いったい、どうして……)

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