表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第三部】黒瞳少女は帰りたい 〜独りぼっちになった私は、故郷を目指して奮闘します〜  作者: 笛乃 まつみ
第四章 州都への旅路

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

53/114

52. 闇の女神の加護

ブックマークいただきありがとうございます! 嬉しいです!

「…………」


 箱の中、先程まで鮮やかな黄色だった石が、澄んだ黄へと色を変えていた。


(見間違い、ではないよね?)


 部屋の光源は、テーブルに置かれたランプ。蝋燭に比べて明るいけれど、見間違える可能性だってゼロではない……。


「アリーチェ、触れたか?」


 部屋に沈黙が落ちる中、ロッコさんが私に尋ねる。ロッコさんからは距離があるから私の手元は見えなかったのだろう。私は頷きながら箱の中をロッコさんに向けた。


「これって私の気のせいですか?」

「……これだけはっきりと色が変わっていて、気のせいだと思うか?」

「ですよね……」


 私はため息をつきながら箱の中をランプの方に向け、もう一度石に視線を向ける。念の為に確認したけれど、やはり紛れもなく色は変化しているようだ。


(本当に、私に魔力が……?)


 自分のことなのに、全くと言っていいほど実感が湧かない。こうして目の前に明示されても、やっぱり何かの間違いなんじゃないかと疑ってしまう。


「そういえば、体調はどうだ? 目眩とかは?」

「色が変わった衝撃ですっかり忘れていました。触れた時に指先が少し冷たくなったような気がしましたけど、体調は問題なさそうです」

「それなら良かった。それにしても、やっぱりアリーチェが魔力持ちだったんだな」


 爆発の謎が解けてほっとしたのか、ロッコさんの身体から力が抜けるのが分かった。対照的に、むしろ私は何故という気持ちで頭は混乱気味だ。


「生まれて今まで無縁でしたから、魔力持ちと言われてもピンと来ませんし、なかなかすぐには受け入れられそうにないです。実感もないですし……」

「実感がないなら、他の魔術具でも確認するか? 他も同じ様に変化すれば、少しは実感が湧くだろう」


 そう言って再び立ち上がったロッコさんが荷物の中から出してきたのは、着火の魔術具とランプの魔術具の二つだった。

 着火の魔術具は、文字通り簡単に火をつけることが出来る便利な魔術具で、この旅で何度も使っているのを見ているから見慣れた物だ。

 ランプの魔術具の方は、普通のオイルランプと比べて明るさの調整ができる代物だ。ロッコさんはこの旅に普通のオイルランプと魔術具のランプを持ってきていた。

 何故わざわざ二つのランプを持っているかというと、オイルランプは普段使い、魔術具のランプは雨の中や風が強い時などオイルランプが使えない時、と使い分けているみたい。この前の濃霧で使用していたのも魔術具のランプの方だった。

 ロッコさんが両方の魔術具の石を剥き出しにしたので、私は先程と同様に魔力を流すことを想像してそれぞれの石に触れる。いずれも濃い色合いだった石があっという間に澄んだ色へと変わった。

 今度はロッコさんたちにも見えるように触れていたので、色が変わった瞬間に「おお!」とロッコさんが感嘆の声を上げる。


「やはり同様の結果だな。納得はいったか?」

「そうですね……、どうやら本当に間違いないみたいです」


 あれだけ魔力を流すように想像して触れても体調を崩す気配がないところを見ると、認めざるを得ない。今回、魔狼に襲われなければ、もしかしたら一生知らないままだったかもしれないのに、人生とは本当に分からないものだね……。


(まあ、私の何かが変わるわけではないか)


 心中でため息をつきつつ諦めにも似た気持ちで頭を切り替えていると、色の変わった石をまじまじと観察しているロッコさんが、私に視線を向けた。


「憶測だが、アリーチェは平民にしては魔力が多い方なんじゃないか」

「そんなことまで分かるんですか?」


 魔力があると言っても、今まで特に魔力を感じたことはないから、大したことはないと思っていたのだけれど、ロッコさんが言うにはそうでもないみたい。

 ロッコさんの説明によると、石の変化が早いとのことだった。魔術具の動力である魔石の魔力が少なくなった場合、魔術具屋に持っていって魔力の補充をしてもらうらしいのだけれど、ロッコさんが普段依頼している魔術具屋は、魔石の色が変わるまでにはそれなりに時間がかかるらしい。こんな風に少し触れたくらいでは、澄んだ色にはならないとのことだった。

 ちなみに、澄んだ色に近いほど含まれる魔力の量が多く、魔力が減れば減るほど色は濃くなっていくみたい。最終的に、空っぽになると暗色になってしまうとのことだった。

 いずれの魔術具も、それなりに魔力が残っている状態の魔石だったけれど、それでも一瞬で色を変えるのは簡単ではないみたい。


「話でしか知らないが、選定の水晶であれば魔力の量や加護とかも分かるらしいぞ。まあ、アリーチェの容姿なら闇の女神の加護で間違いないだろうな」

「神話でよく聞く大神の加護ですね」


 大神の加護は、礼拝堂で聞いたり母親の寝物語で馴染みのある話だ。貴賎に関わらず、人は誰しも大神の加護――光闇水火風土の六柱のうち、いずれかの神の加護を得ているというもので、加護は時に髪や瞳の色、性格にも現れると言われている。

 魔力持ちの場合は自身の加護と扱う魔力の属性が関係しているらしく、闇の女神の色を纏う私は闇の女神の加護を持ち、結果的に闇属性になるんじゃないかとロッコさんは言っていた。


 ちなみに、魔力のない平民は自分の加護を知るすべはない。そのため、普段そこまで意識することはないけれど、人を貶める時に外見上の特徴から神の加護に例えて当てこするほどには浸透している。

 私の姉、ルフィナがいい例だ。情熱的で少しばかり奔放な性格の姉は、鮮やかな赤毛ということもあり、火の神になぞらえて陰口を叩かれていた。火の神は力強く情熱溢れる神話がある一方で、脳筋でちょっとばかり女性にだらしなく、女性関係で他の神と問題を起こすという神話もあったりするから、それを当てこすってのものだ。

 事実、駆け落ちするほどの情熱と行動力がある姉は、紛れもなく火の神の加護があったのだろう……。


 かく言う私も、暗めの灰髪に黒い瞳であることから闇の女神になぞらえて意地悪を言われた経験がある。闇の女神は知に富んだ女神と言われる反面、策謀や悪巧みという負の面の神話もあったりするから、ご機嫌取りが上手で、ずる賢いと言われたものだ。

 とはいえ、私の母が私の賢さを闇の女神に愛されているからだと褒めてくれていたから、外野の言葉は気にしていなかったけれど……。


「それで、アリーチェは今後どうするつもりなんだ?」

「どう……とは?」

「州都へ到着した後だ。火の州に戻ると言っていたが、方針は変えないのか? こう言ってはなんだが、無理に戻らなくてもこちらで庇護や後ろ盾を得てはどうだ?」

「それは……」

「誘拐の危険があると言ったが、しっかりとした庇護者や後ろ盾を得るとしたら話は別だ。魔力が多いことは確かだろうから、アリーチェが望むなら神殿はもちろん、魔術具を扱う商家や工房でも喜んで迎えてくれるだろう。せっかく魔力を持っているなら、故郷の村に戻るよりも州都で魔力を生かす道を探した方が、アリーチェにとって有益だと思うぞ」


 商人のロッコさんらしい言葉だ。確実性や有益性で見るなら、間違いなく州都で庇護者を得て魔力を生かす道を探した方が良いのは間違いないだろう。州都には、これから私がお世話になるフィオルテ照会のツテがあるから、好条件を選ぶことだってできるかもしれない。

 わざわざ長旅をしてまで故郷に戻らなくても、というロッコさんの気持ちは理解できる。それでも、州都で後ろ盾を探す気にはならなかった。

 庇護者や後ろ盾を得て魔力を生かす道を選んだら、間違いなく故郷に帰るのは難しくなるだろう。魔力の稀少性を考えたら、短期間だけにしたとしても結果は同じだと思う。そんな未来が予測できるから、最初から私の心は決まっていた。


 川に落ちて、流れ着いた先の川辺からこの旅は始まった。その時最初に決めたことは『故郷に帰る』だった。

 死んでいると思っている家族に無事を知らせたい、年季が明けたら故郷に戻ると言っていた言葉を実現させたい、ニンファの遺品をイェルト村に届けたい。結果的に奉公に行くことを選んだけど、やはり故郷が好きという気持ちもある……。

 自分を奮い立たせるために立てた目標だったけれど、今では妄執に近い感情になっているような気がする。もしかしたら、あの時に発した言葉が、故郷への執着を強めているのかもしれないね……。


「ありがとうございます、ロッコさん。それでも私は、やっぱり一度故郷に帰ります。魔力を生かす道はその後に考えたいと思います」

「そうか……。まあ、アリーチェの歳なら、故郷に帰った後に道を選ぶのでも遅くはないだろう」

「はい」


 ロッコさんは少し残念そうだけれど、私は迷いのない晴れやかな笑顔をロッコさんとジルダさんに向けた。

 確かにそうだ、せっかく魔力があるなら、ティート村に戻った後に神官を目指すのも悪くない。魔力がないときはそんなこと考えもしなかったけれど、今ならそれを目指すことが出来る。ただの一般信徒と違って、神官であればティート村への配属を希望することもできるだろう。

 ティート村やここポーリ村のような小さな村では、神官様という存在はとても大きな意味を持つ。洗礼式や冠婚葬祭などの祭事はもちろん、怪我の治療をしてくれたり、魔術で村を守る手助けをしてくれたりととてもありがたい存在だ。

 ティート村にそんな形で貢献できるのであれば、これほど嬉しいことはない。


(そう考えると、魔力があるというのも案外悪い話ではないね)


 それに、魔力があるなら、今後もし私の身に危険が迫るようなことがあった場合に、神殿に保護してもらうという手段も取れるということだ。そんなことが早々あっては困るけれど、切り札を持っているに越したことはない。

 未来への展望が広がったからか、私はティート村への帰還がいっそう楽しみになった。


「少しもったいない気もするが、アリーチェがしたいようにするのが一番だからな。アリーチェがそのつもりなら、魔力については一切口外しないと約束しよう」

「色々と気を使ってもらって、ありがとうございます」

「バレないようにだけは気をつけろよ」

「はい、肝に銘じます」


 とはいえ、魔術具を触る時に気をつけておけば簡単にバレることはないだろう。普段、全くと言っていいほど何の気配も感じないものね。闇属性の魔力を持っていても、周りの闇が深くなるような経験はないし、今のところ魔石で確認する以外で認識する手立てはない。


(もしかして、魔石の色を変えた時のように、意識して集中することが重要だったりするのかな……?)


 私は両手を閉じたり開いたりした後、じっと両の手のひらを見つめる。


(手のひらに魔力を集めるように意識して、集中……集中……)


 全身にぶわっと鳥肌が広がるのを感じて、私は慌てて両手をぎゅっと握り込む。


(今の感覚は何……)


 ちょっとした確認のつもりだったのに、自分の魔力を意識したとたん、手のひらにいつもとは違う感覚を感じた。


「どうした、アリーチェ?」

「いえ……、何もないです」


 魔術具を片付けていたロッコさんが、黙り込んだ私の様子に気付いて声をかけてきた。私は背中に冷や汗をかきながら、平静を装って答える。

 私の頭に浮かぶのは、えぐれた地面と土埃。魔力を持っていても、その扱いを知らない私は、一歩間違えばあれを引き起こしてしまうかもしれないんだ……。


(ちゃんと知識を得るまでは、闇雲に試さないようにしよう……)


 魔力はあったとしても事はそう簡単ではないと、私は両手をさすりながら今の現状を冷静に考える。

 こうして、私の魔力については故郷に戻るまで宝の持ち腐れが決定したのだった。


魔力についてはアリーチェらしい結論でした。

次回、四章最後の話になります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ