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【第三部】黒瞳少女は帰りたい 〜独りぼっちになった私は、故郷を目指して奮闘します〜  作者: 笛乃 まつみ
第三章 ルッツィ孤児院

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39. 初報酬

 秋の終月の初め、私はブルーノさんに呼び出されてエルミーニ商会を訪れていた。勿論、モップの利益分の報酬を受け取るためである。

 モップが登録されたのは先々月の末だったけれど、実際に売上が発生したのは先月からになるので、今月が初めて受け取る報酬となる。

 いつもの応対室に通されて、ウキウキとした私が受け取った金額は大銀貨三枚と小銀貨七枚、そして銅貨などの小銭だった。


「あれ……、多くないですか?」


 私は首を傾げながら、今お金を渡してきたブルーノさんを見つめる。

 私への支払額から計算すると、モップを売り上げた利益が大金貨二枚近くあったことを意味していた。

 売り出し始めた初月にそんなに売り上げられるものなの?


「間違っていないぞ、売り込みのお陰で注文が入ったからな」


 ブルーノさんの話によると、どうやら小神殿に寄贈したモップが気に入ってもらえたみたいで、小神殿はもちろん、神殿の方からも納めて欲しいと依頼があったらしい。もし神殿の方で本格的に使用されるようになると、神殿関係の施設の分も含めてかなり大口になる可能性があるらしい。


「他の街や州からも問い合わせが来ているから、来月の売上はさらに伸びそうだ」

「他の街や州……? 商業ギルドに商品登録したとして、登録して一ヵ月しか経っていないのに、他の街や州から問い合わせが届くものなのですか?」

「登録簿は登録されれば翌日には更新されるからな。常に最新の情報を確認するような目敏い商人であれば、目をつけるだろうと思っていた」


 商業ギルドには、手紙を街から街へ、州から州へと転送して届ける郵便業が存在する。州同士は一度州都を経由する必要があるため少し時間はかかるけれど、簡単に手紙のやり取りが出来る便利な仕組みだ。

 ブルーノさんによると、神殿も独自の通信方法があるらしいので、メルクリオの街の神殿で本格的にモップが導入されることになれば、他の街や州の神殿にモップの情報が届くのは時間の問題らしい。

 郵送業の話はブルーノさんから聞いていたけれど、まさかここまで登録簿の更新や、街間や州間の情報伝達が早いとは、魔術具の有用性を甘く見ていた。

 ここ一年二年は水の州での商売くらいだろうと思っていたのに、まさか既に他の州にも及んでいるとは……。


(あれ、これってもしかして私の想像以上の大商売なのでは?)


 商業ギルドに商品登録すると、他の街にいても商品が確認できるだけでなく、物によっては商品の製造販売についての取引も可能となるらしい。

 この近隣の街では商品自体の商取引になるだろうけれど、他州ともなると間違いなく権利についての取引だろう。取引内容にもよるけれど、他州からの問い合わせが来ているということは、私がエルミーニ商会に雇われる時期が、もっと早まる可能性もあるってことだよね。

 そんな皮算用をしている最中に、ふとあることが浮かんだ。


「そういえば、一般市民も商業ギルドの郵送業を利用して手紙を送ったりできるのですか?」

「ああ、勿論可能だ。もしかして、故郷に手紙を送りたいのか?」

「はい、家族は私がメルクリオの街にいることを知らないので、手紙で知らせることができたらと考えたのです」


 家族は、私がこの街にいるどころか、生きていることさえ知らないから、もし手軽に知らせられるならと考えたのだ。


「故郷に商業ギルドか、ギルド支店はあるか?」

「小さな村ですから、ないですね」

「小さな村か……。基本的に手紙のやり取りは、転送装置がある商業ギルドやギルド支店間でのやり取りになる。アリーチェの故郷と、それらがある町までの距離にもよるが、届けるには時間と料金がかなりかかるぞ」


 どうやら、ギルド支店がない町や村へは最寄りのギルド支店から行商人などを介して届けることになるらしい。

 州と州のやり取りは州都を経由するとのことだから、メルクリオの街から水の州都、水の州都から火の州都を経て一番最寄りのギルド支店へ、そしてそこからは行商人に依頼してティート村へ届くということか……。

 最低でも三回転送を行うということはそれだけ料金が高くなる上、最後は行商人への依頼という不確定な要素も入ってくる。


(話を聞く限り、私が手紙を送るのは現実的ではないね……)


「故郷に手紙を送るのは諦めます……」

「手紙を転送するのではなく、文章のみ伝達して届ける方法もあるぞ?」


 それなら、手紙そのものを届けるよりは安くなるらしいけれど、ただの一報に高いお金を払うよりも、その分お金を貯めて旅の出立を早めた方が有益な気がするよ……。


「いえ、故郷へ伝えるのは諦めます。その方法でも故郷へ届けようと思ったらお金がかなりかかりそうなので、その分貯蓄に回したいと思います」

「そうか、もし送る必要がでたら言ってくれ。その時はうちの者に商業ギルドへ付き添わせよう」

「ありがとうございます。必要になった時は、お願いしますね」



 用事が終わった私は、ブルーノさんに別れを告げてエルミーニ商会を後にした。

 思った以上の報酬を貰い、懐が温かくなった私は、せっかくなので孤児院の皆へ手土産でも買おうかと考える。そして、常設の市の方へ歩き始めたその時、ふと視線を感じて足を止める。念の為周囲を見回すけれど、特に私を見ている人はいなかった。

 最近は、常に孤児院の誰かと行動しているけど、今日の目的地はエルミーニ商会ということで、私一人で行動していた。


(久しぶりの一人歩きだから、過敏になってるだけかな……?)


 何となく違和感を感じつつ、私は早足で市へと向かったのだった。




「アリーチェ、今いいか?」


 いつものように森での採取を終え、皆で小川の側で石に座って休憩していると、難しい顔をしたグラートに声を掛けられた。「勿論、いいよ」と私が答えると、グラートは空いている場所に腰を下ろし、私達の輪に加わった。

 そして、少しばかり周囲を気にする様子を見せた後、小さな声で言った。


「チビたちから聞いたんだが、アリーチェの事を聞いて回っている奴が何人かいるらしい」

「――!」


 アガタとチーロが驚いた表情を浮かべる中、私とフレドが視線を交わす。互いの頭に浮かぶのは、この前北区で絡まれた出来事。


「それって、昔に森に通ってた奴? それとも柄の悪い大人?」

「聞いた話からして、北区の奴じゃなさそうだ。北区では見たことがない大人で、身なりが小綺麗だったって言ってたから」

「え……」


 フレドがグラートに質問するけれど、返答は思っていたものとは違っていた。てっきりこの前のように、人伝に私の噂話を聞いているのかと思ったけれど、どうやらこの感じだと違うみたい。


「どういう人間なのか分からんが、アリーチェは一人で出歩かない方がいいって伝えに来たんだ」

「まさに、この前フレドに禁止されたところだよ」


 私は苦笑いを浮かべながら、グラートにこの前絡まれた話を簡単に説明する。もともと難しい顔つきをしていたけれど、話を聞いたグラートの顔が更に険しくなる。


「そんな事があったのか……。だが、聞き回っていた相手はそういう類とは違うと思うぞ」

「うん、私も聞いていてそう思ったよ」


 北区の人間が、私の噂をするのはそこまで大きな問題ではない。けれど、北区以外の人間となると話は別だ。誰がどういう目的で聞き回っていたのか……。


「それで、話を聞かれたチビがおだてられて色々とアリーチェの事を話してしまったらしい。後になって、まずいかもしれないことに気が付いて、俺に相談してきたんだ」

「なるほどな、それでグラートが話に来たのか」


 色々と話してしまった手前、直接話に来る事が出来ずに、間にグラートを挟んだのだろう。


「本人も反省してたし、悪気はなかったみたいなんだ。余所の人間に聞かれてもそういう話はしないように注意しておいたから、許してやってくれ」

「特に口止めもしていなかったから仕方がないよ。大丈夫だよって伝えておいて」

「ああ、ありがとな。後で本人にも謝りにこさせるから」


 こんな風に聞き回る人が出てくるなんて、誰も想定していなかったから、話してしまったとしても仕方がないと思う。口止めの必要性を考えなかったこちらの落ち度でもあるし……。

 私としては、話してしまった事よりも、その人との会話の内容の方が気になる。


「具体的にどんな事を聞かれたの?」

「孤児院のアリーチェはどんな子なのかと聞かれて、罠や勉強会の話、手作りの薬湯の話もしたらしい。後は、それ以外にも何かないかと聞いてきたと言っていた」

「そっか……」


 北区以外の人がわざわざ聞いて回る目的となると、罠や勉強会とは考えられないから、薬湯かモップか……。とはいえ、探りを入れられるほど大々的に薬湯を配っているわけではないから、考えられるのはモップの方だよね。

 商業ギルドの登録簿には、発案者として私の名前も記載されているとブルーノさんが言っていた。登録簿は商業ギルドに所属している人なら誰でも見ることができると言っていたから、そこから情報を辿られたのだろうか?

 ノーラに口止めしていたこともあり、商品を開発した事は孤児院の子しか知らない。北区の子供達に聞き込みしたとしても、商会関連の話は得られなかったはずだ。

 でも、モップが目的だったとしても、わざわざ私の事を聞き回るほどのことだろうか? 私にはお金を受け取るくらいの権利しか……


(もしかして、私とブルーノさんが交わした誓約書の内容を知らないから、発案者である私に何かしらの権利があると思っている?)


 その考えが浮かんだ瞬間、冷水を浴びたように背中がゾクリと震えた。


「どういう目的で聞き回っているのか、さっぱり分からないね」


 のんびりとしたアガタの声に他の皆も同調しつつ、孤児院でも警戒したほうがいいと会話は続いていく。その話に相槌を打ちながら、私の背筋の冷えは一向に引く気配がなかった。


初報酬に浮かれたアリーチェでしたが、ほんの少しばかり暗雲の気配が……。


次回、ブルーノさんへの相談です。

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