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【第三部】黒瞳少女は帰りたい 〜独りぼっちになった私は、故郷を目指して奮闘します〜  作者: 笛乃 まつみ
第三章 ルッツィ孤児院

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31. 情報の価値

評価いただきありがとうございます! ブックマークも増えていて、とても嬉しいです!

感想もありがとうございます!

「どうかしたのか?」


 話の途中で、私が無言になったのを不思議に思ったのだろう。ブルーノさんが軽く首を傾けて私を見ていた。


「女性であれば喜んでもらえると思ったのだが、まだ興味はなかったか?」

「いいえ、そんな事はありません。助言への感謝と謝罪の意味を込めて化粧品を頂けるのは嬉しいのですが、本当に受け取っても良いのかと恐縮していて……」


 話をしている途中に気を逸らすのは失礼だったね。私は慌ててブルーノさんの会話に合わせて返答する。

 先程、原因解明の糸口になった私の発言と、シエナを怖がらせたことに対して、エルミーニ商会の化粧品を贈りたいとブルーノさんから申し出があった。

 もちろんそれは嬉しい申し出なのだけれど、それと同時に何となく許されない事をしているような後ろめたさが湧いてくる……。

 おそらく、昔に姉の白粉や口紅を触ろうとして、「まだ早い!」と注意された事が強く印象に残っているのだろう。

 

「まあ、気負わず受け取ってくれ」

「ありがとうございます……。では、ありがたく頂きますね」


 私は柔らかい笑みを浮かべて、ブルーノさんにお礼を返す。

 私だって女の子だし、興味がないわけではない。それに、ブルーノさんから貰う化粧品は、きっと姉が持っていた物とはずいぶん違うはず。


(最先端だと思われる街の化粧品、どんな物なのか楽しみだね)


 私が期待に胸を膨らませていると、ブルーノさんが「あと……」と言葉を発した。

 ん……? 原因は教えてもらえたし、お礼も言われた。これ以上はもう何もないと思うのだけれど、まだ何かあるのだろうか?

 思案顔のブルーノさんが目を細めて私をじっと見る。


「君は着眼点が他の子とは異なるようだから、もし他にも何かいい考えが浮かんだら、是非教えて欲しい。蜜蝋についての話でもいいし、他のものでもいい」


(これは目を付けられたということなのかな……?)


 まぁ、隠さないと決めたところだし、孤児相手でもちゃんと応対してくれるブルーノさんであれば、多分大丈夫だと思うから良いけれど……。


「それに、情報に見合った報酬はちゃんと支払うので安心してくれ」


 ブルーノさんの言葉に、私は虚を衝かれたように目を瞬かせる。


(なるほど、情報を売ってお金にする、か……)


 労働力でお金を稼ぐしか無いと思っていた私にとって、ブルーノさんの提案は驚くべきものだった。

 こんな方法があったとは、これ程までに私の特技を活かせる方法もないよね。隠して目立たないようにしていたから、お金儲けに使うという発想がなかったよ。


 とは言え、化粧品に関する知識はほぼ無いし、私が知っている薬草の知識もここでは目新しさはないだろうしなぁ。

 商売関係で私が助言できるものもないと思うし、他にあると言えば……


「あの、化粧品でなくても構いませんか?」

「それは内容にもよる。何かあるのか?」


 私の頭に浮かんでいるのは、先程便利に使わせてもらったアレだ。


「さっき簡単な道具を作ったのですが、情報として価値があるかが分からないので、直接見てもらってもいいですか?」

「ああ、いいだろう」

「ありがとうございます。では、急いで残りを拭き終えますね」


 ブルーノさんが了承してくれたので、私は急いで手を動かしてテーブルと椅子の拭き掃除を終わらせ、ブルーノさんを連れて集会所の中へと入った。


「あれ、アリーチェ、話は終わったの?」

「ううん、まだ途中なんだ。テーブルと椅子の拭き掃除は一通り終わったよ」


 大きなゴミの仕分けをしていたアガタが、私に声を掛ける。ノーラの方はというと、集会所の窓を拭いていた。


「ねえ、アガタ。さっき拭き掃除に使ってたのって何処にある?」

「さっきのやつなら、掃除道具入れに片付けたよ」

「分かった、ありがとう」


 アガタに返事をすると、私は一階奥にある掃除道具入れの所へと向かった。そして、道具入れの中に仕舞っていた箒型ぞうきんを取り出すと、後ろを付いてきていたブルーノさんへそれを見せた。


「これは……何だ?」

「今日私が作った箒型ぞうきんです。膝をついて広範囲の拭き掃除をするのが大変そうだったので、壊れた箒の柄と雑巾と紐を使って作ったのです」

「箒型ぞうきん……」

「あまり有益な情報にはならないかもしれないですが、人によってはあれば便利かもしれないと思って。とはいえ、簡単なものですから、既存の製品としてあるかもしれないですが……」


 ブルーノさんが真剣な表情で箒型ぞうきんをじっと眺める。


「やはり、この情報は役に立たないですか?」

「今の段階では何とも言えん。ただ、確かに拭き掃除が楽になりそうな物ではあるな……。似た物を見たことはないが、商品として登録されているかどうかは確認してみないと分からないからな」


 試しに聞いてみたのだけれど、ブルーノさんの反応は予想していたものとは少し違った。箒型ぞうきんを手に取り、「もし登録されていなければ……」とぶつぶつ呟きながら見つめるブルーノさんの瞳はギラギラとしていて、商人の眼差しそのものだ。

 既に商品としてあるかと思ったのだけれど、この様子を見る限りそうでもないのかもしれない。


「商品の登録というのは?」

「他所で勝手に作られないように、商業ギルドに商品を登録することがあるんだ。登録されている物は、勝手に作ると罰則があったりする。登録すれば、国内全ての商業ギルドに反映されるから、商品価値の高いものは大抵が登録されているな」

「なるほど、しっかりと権利が保護される制度があるのですね」


 礼拝堂にあった本には、流石にそういう情報は載っていなかった。

 それにしても、権利が保護されるということは、需要のある物を登録すればその分利益も大きくなるということだ。そしてそれは、元となる情報の価値も上がることを意味している。私にとってはありがたい話だね。


「アリーチェ、これはもう少し改良出来るか? 登録の有無の確認が先だが、もし実際に登録するとなればもう少し工夫があれば言うことはない」

「分かりました、少し考えてみます」


 確かに、雑巾を括り付けただけというのは余りにも簡単すぎるよね。せめて材料はもう少し工夫が必要かな……。


「三日後、改良が出来る出来ないに関わらず、エルミーニ商会に顔を出してくれ。その間に、私も商業ギルドの方で登録簿を確認しておこう」

「はい、ありがとうございます!」

「エルミーニ商会の場所は知っているか?」

「知らないので、今日の帰りにでも確認しておきます」

「商会の横手に従業員口があるので、二つ目の鐘が鳴る頃に扉を叩いてみてくれ」


 二つ目の鐘と言うと、朝と昼の中刻に鳴る鐘だね。私が「分かりました」と了承の返事をすると、ブルーノさんは手にしていた箒型ぞうきんを私へと返した。

 元々は楽しようという考えが切っ掛けだったのだけれど、思いがけず良い機会に恵まれたね。


 帰るブルーノさんを見送るべく私もその後ろを付いていくと、入口近くでブルーノさんが足を止めて振り返った。


「分かっていると思うが、登録するまで情報管理はしっかりとな」


 ブルーノさんは私が持っている箒型ぞうきんに視線を落とし、続いてアガタとノーラの方に視線をやった。


(ああ、そういうことね……)


「助言ありがとうございます」


 私がそれだけ答えると、ブルーノさんは満足したように唇の端を上げて「では三日後に」と言いながら手を振って集会所をあとにした。



「お疲れ、アリーチェ」


 ブルーノさんを見送った私のもとに、アガタとノーラが近寄ってきた。


「長く抜けちゃって、ごめんね」

「いいよいいよ、外でテーブルとかの拭き掃除をしてたわけだしね」

「ねえ、アリーチェ。ブルーノさんの話は、やっぱりこの前のことだったんだよね? 大丈夫だったの……?」


 ブルーノさんが訪ねてきた理由が気になっていたのか、アガタがすぐさま私に聞いてきた。


「もう大丈夫。原因が判明して、シエナのせいではない事がはっきりしたよ」

「そっかぁ、良かった〜」


 アガタが胸に手を当てながら盛大に息を吐いた。


「さっきアガタから少し聞いたんだけど、大変だったみたいだね。無事に決着がついて良かったね」

「本当に、大変なことにならなくて良かったよ」


 アガタから事情を聞いたノーラも、ほっとした表情を浮かべていた。内職の依頼元が怒って訪ねてくるなんて、普通に考えて一大事だものね。

 北区では内職をしている家庭は珍しくないから、他人事ではないのだろう。


「それじゃあ、話も無事に終わったことだし、残りをさっさと終わらせちゃおうか」

「そうだね」

「あっ、ちょっと待って」


 気持ちを切り替えて掃除を再開しようとするノーラとアガタを、私が慌てて止める。「どうしたの?」と二人が不思議そうに私を見た。


「掃除の前に、さっき使っていた箒型ぞうきんの事で話があるの」

「ん? さっきのやつ?」

「実はブルーノさんに見せたら売り物になるかもしれないって言われたから、箒型ぞうきんのことはここだけの秘密にしてもらってもいいかな?」

「えっ、あれって売れるの!?」

「そのままではなく、もう少し改良したものになると思うけと」

「へ〜」


 アガタとノーラが素っ頓狂な声を上げる。便利な物とは思ったけれど、まさか売れるとは思っていなかったのだろう。私も、ブルーノさんに情報を買い取ると言われなければ、売れるなんて思いもしなかったものね。


「お願いできるかな?」

「分かった、内緒にするよ。もともとアリーチェが考えたものだし」

「私も」

「ありがとう、アガタ、ノーラ。今度何かお礼をするね!」

「本当? やったぁ〜」

「楽しみにしてるね」


 アガタとノーラが嬉しそうに返事をする。内緒にしてもらうのだから、二人にはそれなりの物をちゃんとお礼しないとだね。

 きっと、ブルーノさんが帰り際に言っていた情報管理というやつは、こういうことなのだろう。


 その後、私達は三人で協力して、外に出していたテーブルと椅子を元に戻し、残っていた二階の掃き掃除やゴミ出しをして、集会所の清掃を全て終えたのだった。

 もちろん、使っていた箒型ぞうきんは、私が抜かりなく元のバラバラの状態で掃除道具入れに片付けたことは、言うまでもないだろう。


情報には値段がつくということを知ったアリーチェでした。

次回、箒型ぞうきんの改良です。


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