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【第三部】黒瞳少女は帰りたい 〜独りぼっちになった私は、故郷を目指して奮闘します〜  作者: 笛乃 まつみ
第三章 ルッツィ孤児院

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29. 発疹の原因

 私は慌てて立ち上がり、急いでアガタの所へと向かった。早く結果が知りたい私の願望で別の人を見間違えたのかと思ったけれど、近くで確認しても、そこにいたのはやっぱりブルーノさんだった。

 先日、孤児院に来た時は髪を後ろに撫で付けてピシッとした格好をしていたが、今日のブルーノさんは、前髪を下ろし普通の商人らしい格好をしていた。そのせいか、先日よりも一回りほど若く見える。


「こんにちは、ブルーノさん。どうしてここに?」

「突然すまないな、今話せるか?」


 ブルーノさんの言葉に、私とアガタが顔を見合わせる。わざわざブルーノさんが話に来た内容に興味はあるけれど、見ての通り私たちはまだ掃除の途中だ。

 報酬を受け取る以上、中途半端には出来ないし、私が抜けたらアガタとノーラの負担が増えるので、簡単に抜けるわけにもいかない。


「すみません、見ての通り依頼を受けての掃除中ですので、申し訳ないのですが、少し待っていただいてもいいですか? それか、私が後で商会の方に伺うのでも構わないのですが……」

「いや、急に来たのは私だ。このまま待つので構わない」


 おや、後で商会の方に顔を出してくれと言われるかと思ったのだけれど、ブルーノさんはそのまま待つことを選択した。

 スッキリとしたブルーノさんの表情を見る限り、きっと悪くない知らせだよね。


「アリーチェ、それなら外にあるテーブルと椅子を拭くのをお願いしてもいい? それだったら掃除しながら話しが出来るでしょう?」

「なるほど……、ありがとうノーラ。そうするね」


 私達の会話を聞いていたノーラが、横から別案を出す。掃除を抜けられないけど、待たせてしまうのも申し訳ないと思っていたから、それならどちらも両立できるね。

 私はノーラの提案に乗り、新しい雑巾と桶を持ってブルーノさんと共に建物の外へ出た。



 私は外に置いておいた椅子の一つを綺麗に拭くと、まずはブルーノさんに椅子を勧めた。流石に、立たせっぱなしというわけにもいかないだろう。

 ブルーノさんは私と椅子を見比べた後、「君はしっかりしているな……」と呟きながら椅子に座った。


「作業をしながらですみません。それで、わざわざ来てくださったということは、この前の原因が分かったのですか?」


 テーブルを拭きつつブルーノさんに尋ねると、ブルーノさんが私を見ながら頷いた。


「君が推測した通り、仕入れ先を変更した材料のうちの1つに原因があったよ」

「そうだったのですね……、原因が分かってほっとしました」

「先程、孤児院へ行って伝えてきた。シエナという子にも、怖がらせたことを謝罪しておいたよ」

「……お気遣いいただき、ありがとうございます」


 孤児院へ事の顛末を伝えるのはともかく、まさかシエナに謝罪するとは……。シエナの怯えた顔を思い出し、謝罪されたことでシエナの痛みが少しは和らぐといいなと思った。


「孤児院で、君が今日の清掃に参加していると聞いてね。お礼を言いに訪ねてきたんだ。ありがとう、原因を突き止められたのは君のお陰だ」

「そんな、私は孤児院の内職がなくなっては困ると、知恵を絞り出したまでです」

「そうは言っても、君の助言無しでは今回のことは解決しなかっただろう。本当に君には感謝している」


 シエナに謝った事といい、私にわざわざお礼を言いに来たことといい、ブルーノさんは相手が孤児院の子供だからと軽く見ることなく、ちゃんと道理を通す人なのだということを感じた。この前のイライラした様子から、話は聞いてくれるけど厳しい人かと思っていたから、考えを改めないといけないね……。


「感謝の言葉、ありがとうございます。こちらこそ、ブルーノさんには感謝しています」

「感謝……?」

「孤児院の子供はなかなか職を得ることが難しいので、内職を卸してくれるブルーノさんには、孤児院一同とても感謝しています。いつもありがとうございます」


 一方的に感謝されるのが照れくさくて、こちらからも感謝の言葉を伝える。孤児院に内職を依頼してくれる人は、そう多くはいないのだ……。

 あまり考えたくない話だけれど、孤児という立場の弱さを考えると、一方的に責任を押し付けられる可能性だって十分にあった。そうはせずにちゃんと耳を傾けてくれたブルーノさんには、本当に感謝しかない。


「まあ、この街で昔から手広く商売をしている商会だからな。慈善事業も富んでいる者の役目だ。今回は、ある意味その行いのお陰で助けられたわけだが」


 ブルーノさんもまんざらでもない様子で頷く。日頃から感謝していることを伝えておけば、今後も内職を卸してくれるだろうという打算もちょっとあったのは内緒だ。


「そういえば、原因となった物は何だったのですか?」


 私の質問に、ブルーノさんがニヤリと笑いながら「蜂蜜と蜜蝋だ」と答えた。

 私は驚きで目を丸くする。あくまで推測として話したことがピタッと当たっていて、自分でも驚いた。


「私も、原因がそれだと分かった時は驚いたものだ。だが、正確には花の種類ではなく、花の育つ環境が他よりも魔素が僅かに強いことが原因だった」

「魔素……ですか?」

「調べた結果、件のご婦人は魔素過敏症だったようだ。ご婦人自身も知らず、今回のことで初めて知ったらしい」


 私は今度こそ言葉を失った。何かの過敏症だとは予想していたけれど、まさかそんな症状があったとは……。世界は、面白いね。

 私はほとんど動いていなかった手を完全に止め、ブルーノさんに興味津々の眼差しを向けた。


「どうやってこんな短い期間でそんな事を調べられたのですか?」

「仕事柄、懇意にしている魔術具士がいるからね。そこへ急ぎで依頼したんだ」


(魔術具士……)


 私の今までの人生で関わりの薄い部類だ。なるほど、孤児院で話を聞いた際に、ご婦人のクリームと他のクリームに差異がない事をどうやって調べたのだろうと疑問に思ったのだけれど、それも魔術具士に依頼して調べたのだろうね。

 私は思わず、感嘆のため息をついた。


「魔術具士って凄いですね……」

「今回調べたことで、更にもう一つ面白いことが分かったんだ。どうやら魔素の含量が増えたことで、蜜蝋クリームの効能自体が向上していたらしい」

「それも興味深いですね。魔素が毒にも薬にもなるなんて、初めて知りました」


 魔素は強い魔獣を生み出すもの、という認識しかしていなかったよ。ということは、魔素の濃い場所では、それだけ効能の高い薬草が自生しているということにもつながるのかな。

 当然、私が昔食べた角ウサギも魔獣だから、普通のウサギよりは魔素が濃いということになる。もしかして、角ウサギのお肉が味わい深く感じたのは、魔素が多かったからなのだろうか。

 お裾分けした中に、魔素過敏症の人がいなくて良かったよ……。


「それにしても、今回は大変な出来事でしたけど、結果的に大きな益を得られたのですね」

「ほう、君は今回の事を大きな利益と言うんだな」


 ブルーノさんは興味深いと言わんばかりに、顎に手を当てて私を眺めた。先を促すような視線に、私は頭の中で言葉を整理する。


「ええ、ご婦人は自身も知らなかった症状を知ることができました。おそらく、ご婦人は今まで気付かないうちに、魔素の含有量が多い食材を口にして、時折体調を崩すようなことがあったのではないかと思います。今回、自分の体質を知ったことで、誤って口にする可能性を減らせるようになりました」

「なるほど、その可能性は考えていなかった。ご婦人へ助言しておこう」


 私はご婦人の件で指を一本、そして更にもう一本指を立てる。


「後は、効能が向上したということは、新しい商品開発の好機ですよね。蜜蝋はクリーム以外の化粧品にも使われていますから、高性能な美容品として売り出すことも出来ますよね」

「蜜蝋クリームの材料は元に戻すつもりだったが、別のクリームを商品化したとして、ご婦人と同じ様に魔素過敏症の女性から苦情が来るのでは?」

「魔素過敏症の人がどれほどいるかは未知数ですが、売る前に試用してもらえば問題解決です。高性能なため、肌に合わない人もいると先に説明し、試してもらった上で購入してもらえば、苦情は防げます。それに人の心理としては、エルミーニ商会はお客様に真摯に対応していると感じて、商会への信頼度も上がりますし、安心して買い物も出来るのではないでしょうか?」


 私の言い募る発言に、ブルーノさんが呆気にとられた様子で私を見返していた。


「君は、元々は商家の娘か? 考えが的確過ぎる」


(しまった……、少し興奮して喋りすぎた)


 私は人差し指で頬を掻きながら、照れた笑みを作る。


「違いますよ、普通の農家の娘です。そんな風に見えましたか?」

「ああ、先日の会話といい、先程の考察といい、子供と話しているようには思えなかった。君は年齢不詳だな……」


 ブルーノさんの不思議がる眼差しに、私の心臓がどくりと大きく音を立てた。

 首を傾けて「歳はいくつなんだ?」と聞いてくるブルーノさんに返事をしながら、私の思考は古い記憶へと深く沈んでいった。


未知の知識に少し興奮して、口がなめらかになったアリーチェでした。


次回は、アリーチェの秘密についての話です。

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