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【第三部】黒瞳少女は帰りたい 〜独りぼっちになった私は、故郷を目指して奮闘します〜  作者: 笛乃 まつみ
第三章 ルッツィ孤児院

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28. 後片付け

評価とブックマークありがとうございます!!

感想も2件いただき嬉しいです!

「アリーチェ、私達が割り振られたところはこっちよ」

「分かった」


 私はアガタについて歩きながら、噴水近くの大通りを南に下る。同じ方向に向かうのは、顔なじみの北区の子供たちだ。


 メルクリオの街ではよく(いち)が立つ。週に一度の市、月に一度の市、そして季節に一度の大市などがそれだ。数ある市の中で、今日は季節に一度の夏の大市、ではなくその翌日である。

 昨日は、通りや広場に数多くの屋台と人が溢れ、賑やかな大市だったのだけれど、その翌日の今日はというと、通りには食べかすやゴミ、壊れた木箱に捨てられた看板など、様々な物が散乱していた。


(季節で一番大きな市だけあって、その後の惨状も酷いね……)


 大きな市の翌日には、商業ギルドから大市の後片付けや清掃の依頼が出るため、北区の子供たちも森へは行かずに、大市の後片付けに参加するのが定番となっているみたい。普段の日雇いの仕事は、年齢に制限があったりすることもあるけれど、この日ばかりは人手が必要なため幅広く募集していた。

 先程、商業ギルドで依頼を受けた私達は、割り振られた場所へと今まさに向かっている最中である。孤児院からの参加者は何人もいるのだけれど、同じ場所に割り振られたのは、私とアガタと北区の女の子だけ。フレドたち男の子は力仕事の方へと割り振られていた。

 聞いた話では、力仕事は大型のゴミの片付けや、ゴミで詰まった排水溝の掃除などになるため、色々と大変らしい。

 今はまだ掃除する側だけれど、お金が貯まって余裕ができたら、参加する側にまわってみたいものだね。


 今日の清掃に参加しているのは、年中組の四人と年長組の男の子二人だけ。シエナは孤児院で留守番だ。アガタや私と一緒だよと、シエナも誘ってみたのだけれど、浮かない顔で人が多いからと断られた。

 でも、正直なところシエナは来なくて正解だったと思う。人が多いというのもあるけど、私たち孤児に差別的な視線を向けてくる人もいたから、今のシエナでは余計に萎縮してしまった可能性が高い。


 この前、エルミーニ商会の人が孤児院に来てからもう四日が経った。今のところ何の音沙汰もないけれど、昨日は大市もあったし、商会も忙しくしているのだろうね。

 結果が分かるまではと、シエナは木工細工を作るのを止めている。その為、普段内職をしている時間は、代わりに勉強の時間に当てているみたいだけれど、やっぱり少しだけ寂しそうに見えた。


(早く結果が分かれば良いのだけれど……)



 考えながら歩いていると、アガタが足を止める。「ここだよ」と言ってアガタが指し示したのは、私達が割り振られた共同集会所だった。それは二階建ての建物で、大きく開かれた扉からは、様々なものが散乱した室内が見えていた。

 集会所は、屋台で買った食べ物や飲み物を飲食できる場所の一つとして、大市で開放されていた場所だ。その為、建物の中は食べかすやゴミ、ビアマグまでが転がっている。これを三人だけで……?

 貰える賃金に対して過重労働すぎないかと一瞬思ったけれど、普段依頼を受けられない私達からしたら、仕事を受けられるだけありがたいと思うべきなのかな。


「これは骨が折れそうだね……」

「去年もこんな感じだったよね〜」

「皆で頑張って綺麗にしようか」


 私の言葉に、アガタともう一人の女の子、ノーラが返事をする。ノーラは近所の幼馴染と一緒に、罠講習会や勉強会に最初に参加表明をしてくれた女の子だ。人懐っこい性格で、私ともすぐに仲良くなった。

 今朝、商業ギルドに到着した時に同じタイミングで受付をしたので、そのまま同じ場所に割り振られた感じだ。知っている子と一緒だと協力もしやすいし、作業も捗るよね。


「それじゃあ、まずは大きなゴミを集めつつ、テーブルと椅子を外に出そうか」


 集会所の掃除をしたことがあるノーラとアガタの指示の元、私達は掃除を始めた。散乱する大きなゴミを一箇所に集めた後は、汚れたテーブルと椅子を協力して一旦外に出す。


(椅子はともかく、私達だけでテーブルを運ぶのはかなりの重労働だよね……)


 これで重労働ではないのだから、男の子たちの方は本当に大変なのだろうな……。テーブルと椅子を全て出し終えた後は、各自箒を持って掃き掃除を始めた。

 時間を掛けて床を掃き清めた後、次にノーラが持ってきたのはブラシと水の入った桶だった。


「次は……ブラシ?」

「そう、ブラシで床の汚れを擦り落とすの」

「普段は床をブラシで磨き掃除なんてしないから、驚くよね」


 私の驚きをアガタが代弁してくれた。村で家を掃除していた時も、孤児院の掃除をする時も、大抵は床の掃き掃除で済ませる。たまに雑巾でしつこい汚れを拭い取ることはあったけれど、ブラシで磨くまでの掃除はしたことがなかった。

 

(ここまで徹底的に掃除をするということは、季節ごとの大掃除も兼ねているのかな? まさに商人らしい考えだね)


 私は、アガタやノーラの真似をしながらブラシを使って床の汚れをこすり落とす。水で濡らしつつ膝をつきながらの掃除なので、見た目以上に重労働だ。


「森の採集より大変だよね……」

「屈む作業は同じだけど、やっぱり慣れている森の方が楽に感じるね」


 アガタの呟きに、私が言葉を返す。それを聞いたノーラが、「ブラシでそんなこと言ってたら、この後はもっと大変よ」と言った。


「この後は、やっぱり拭き掃除?」

「そうだよ」

「あれもずっと屈むから大変なんだよね……」


 何度も経験している二人が、小さくため息をついた。


「もしかして、二階も同じような感じで掃除するの……?」

「大丈夫、二階は鍵がかかってる部屋ばっかりだから、廊下を掃き掃除するだけで終わりだよ」


 私はノーラの言葉に、ほっと胸を撫で下ろす。もしそうなら、どう考えても手が足りないと心配したけれど、どうやらそれは杞憂だったみたい。

 お喋りしながら手を動かし、ブラシでの磨き掃除があらかた終わったので、私は雑巾を取りに一階奥にある掃除道具入れの所へと向かった。掃除道具入れを開け、中の物を確認したところで、ふとある考えが私の頭に閃いた。


(同じ掃除するなら、効率的なのが一番だよね……)


 私はニンマリ微笑むと、掃除道具入れの中をごそごそと探り始めた。



「アリーチェ、それなーに?」

「取りに行ったのって雑巾だよね?」

「ふふっ、もちろん雑巾だよ。ただ、ちょっと工夫してみたの」


 満面の笑みで持っていた物を二人の前に出すと、アガタとノーラが不思議そうな顔をしてそれを見つめる。

 私が持ってきたのは掃除道具入れの中に入っていた雑巾だ。ただし、雑巾そのままではなく、壊れていた箒の柄に何枚もの雑巾を紐で縛り付けた、箒のような雑巾である。


「これなら、立ったまま拭き掃除が出来るから、少しは楽になるんじゃないかな?」

「これ良いー!!」

「アリーチェ凄いよ! 私もこれ使いたいっ!」


 二人の反応は上々である。私も、我ながら良い閃きだと思ったよ。


「ただし、余っている柄が一本しかなかったから、出来たのはこれ一つだけなの。皆で交代交代で順番に使っていこうか」

「うん、賛成!」

「はーい」


 持っていたブラシを投げ出さんばかりに、二人は元気よく手を上げた。



 話し合った結果、制作者ということで私が一番に箒型ぞうきんを使わせてもらうことになった。残りの二人は、普段通り雑巾を使って手で拭き掃除を始める。

 ひととおり使ってみたけれど、箒型ぞうきんの使い勝手は思った以上に悪くなさそうだ。


(有り合わせの物で作ったにしては、なかなか便利だね……)


 決めた枚数分の床板を拭き上げた後、私はノーラに箒型ぞうきんを渡す。ちなみに、年齢順ということで私の次はノーラと決まっていた。

 箒型ぞうきんを使ったノーラは、「何これっ、すごい楽!!」と驚愕の表情を浮かべていた。「これが去年にもあれば……」とぶつぶつ呟いているところを見ると、去年の掃除の大変さが伺えるね。

 それにしても、改めて手で拭き掃除をしていると、箒型ぞうきんの便利さがよく分かる。普段の掃除で使うことはないけれど、もし拭き掃除をする機会があれば使えそうだね。



 しばらくしてノーラからアガタに順番が変わり、アガタも同じ様な反応を見せつつ、三人で順番に交代しながら床掃除を進める。後もう少しで全ての床の掃除が終わりそうになった時、アガタが私の名前を呼んだ。

 床を拭いていた私が視線を上げると、入口近くに立つアガタが手を挙げて私を呼んでいた。その隣には、一人の男性。


(あれは……、ブルーノさん?)


市で楽しむには先立つものが必要です。

アリーチェが行けるようになるのはしばらく先の事ですね。

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