ヲタッキーズ162 母を殺して三千里
ある日、聖都アキバに発生した"リアルの裂け目"!
異次元人、時空海賊、科学ギャングの侵略が始まる!
秋葉原の危機に立ち上がる美アラサーのスーパーヒロイン。
ヲタクの聖地、秋葉原を逝くスーパーヒロイン達の叙事詩。
ヲトナのジュブナイル第162話「母を殺して三千里」。さて、今回はストリートギャングの女用心棒が暗殺クノイチに殺されます。
その暗殺手口が、10年前の殺人事件と結びついた時、犯人に迫るヲタクとヒロインを悲劇が襲う。真実の鍵を握るのは、インチキ商法のペテン師?
お楽しみいただければ幸いです。
第1章 殺された殺し屋
駅前で再開発が進む度に1本2本と摩天楼が増えて逝く。いつかヲタク達は"秋葉原マンハッタン"と呼ぶようになる。
そんな高層タワーのアパート区画。
「白い部屋か。黒い髪、甘い息、いいわ…」
リニューアルが入り、部屋を真っ白で塗るペンキ屋達。
脚立を立ててローラーで白ペンキを塗る。さらに塗る。
「あれ?何てこった?!」
塗ったばかりの白い壁面に青い筋が走る。
ふと見ると、白ペンキ缶にも青いシミがw
「な、何だ?うわっ!」
ペンキ屋の顔にもポタリ。フロアにもポタリ。見上げると、天井に大きな青いシミ。青い水滴がポタポタと滴り落ちる。
上の階で何が?
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「被害者は、ジッコ・カナン。"blood type BLUE"」
「聞き覚えのある名前ね」
「ここ数年の捜査で、何度も彼女の名前が出てます。凶器を用いた過重暴行やら放火やら殺人やら」
ヲタッキーズのエアリの報告。
うなずく万世橋のラギィ警部。
「相当な悪でしょ?ウェハーズの女用心棒だっけ?」
「えっとウェハーズの説明からお願い。美味しいの?」
「マルチバース系のマフィアね」
タブレットから声がスル。D.A.大統領の首席補佐官、超天才ルイナが息抜き?で趣味の"リモート鑑識"してくれる。
「ルイナ。ウェハーズは色々手広くやってるわ。窃盗、偽造、ゆすり。公衆の面前で座り小便も」
「女用心棒のジッコは、ショット音波ガンで身を守ってた。12ゲージで弾はホローポイント。装甲服を着たスーパーヒロインでも殺せるわ」
「彼女なりに警戒してたのね」
そんな重武装で何を待っていたのか?
「誰か知らないけど、その相手かジッコの体を30カ所も刺してる。因みに9ミリの音波拳銃がベルトに刺さったママょ」
「拳銃を抜く間もなかったってコト?準備万全だったのに…相手が相当手慣れてたのね」
「きっと暗殺クノイチだ」
僕の直言にみんな一斉にウンザリした顔。ナゼだ?
「クノイチだけで良くない?」
「そもそもクノイチ、大抵暗殺スルし」
「2人とも細かいな。文章はテンポが大事ナンだ。クノイチかっこ暗殺者かっこ閉じる、は、外壁を登り、窓から入り身を隠したに違いない!」
誰も聞いてない!エアリだけが相手してくれるw
「テリィたん、見て。ジョニ・ボングのファンだったみたいょ。こんなの買う人がいるのね?」
真っ赤なビキニのコスプレヒロインを左右に侍らせたピンク背広の痩せアジアン、ジョニ・ボングのDVDが落ちてる。
「ジョニ・ボング?」
「え。マリレ、知らないの?」
「YourTubeを見てる人なら、みんな知ってるわょ。衛星チャンネルの深夜番組なんか一晩中宣伝してる」
スマホで動画を再生。
"お金儲けには元手が必要?それはウソ!僕を見て。神田リバーに流れ着いた時、僕は無一文のボートピープルだった。秋葉原には無一文で来た"
左右のコスプレヒロインがムダにクネクネと踊るw
"…コレは馬鹿でもわかる講座だ。だって、僕は大学も出てない。財布スッカラカンで秋葉原に来ました。でも今は… "
僕とエアリが異口同音w
「銀行が買える!」
"きっと貴女の友達には…"
ラギィが僕のスマホを取り上げるw
「楽しんでるトコロを悪いけど、フロアに転がってる死体に集中してね」
「ラギィ警部。スマホがありました」
「thank you…壊れてる?」
証拠品袋に入った血染めのスマホを渡されるラギィ。
「刺された時にナイフの刃がぶつかって壊れてるわ」
「殺される直前、誰と通話したかを調べて」
「ROG…ねぇマリレ、聞いてる?」
動画を見ながら上の空のマリレw
あれ?ノートをとってる?熱心←
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
冬の合間の青空に向かって"秋葉原マンハッタン"が背伸びしている。雲が横切り摩天楼の壁面に黒い影が流れる。
その摩天楼にオフィスを構える慈善事業NGO。
「姉は苦しみましたか?」
「ええ」
「…正直にありがとう。ウソもつけたでしょうに」
微笑むディコ・カナン。"blood type BLUE"。
「いいえ。実は…私も似たような経験をしていて…私も真実を知りたかったのです」
「警部。このNGOは、北朝鮮で学校も建てています。子供達にチャンスを与え、評価される仕事です。弱い者を助けろと教えてくれたのは姉なのに…なのに、こんなコトに。褒められた姉ではなかったけど、私達はいつもツルんで東秋葉原でブイブイやってました。"覚醒"した姉のパワーは、とても強くてロークが目をつけたのでしょう」
「フィン・ローク?」
うなずくラズボ。
「YES」
「ウェハーズのトップですね。お姉さんは、ウェハーズでどのような仕事を?」
「聞いてません。でも、そのせいで姉は殺されたのでしょう」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
そのアイリッシュ・パブは、摩天楼1階の路面店だ。
覆面パトカーから降りるや拳銃を点検するラギィw
「テリィたん。ウェハーズは手強いわ。FPCの中にいて」
「嫌だよ」
「じゃあ黙ってて。ソレと…も少し強そうにならない?」
とりあえず、口をスボめ、アゴをしゃくる。肩で風を切り、意味もなく鼻の下をこすって、アイリッシュ・パブに突入w
「フィン・ロークはいる?」
「知らないな、お嬢ちゃん達。別の場所を探しな」
「考え直さなくて平気?このパブなら電話1本で保健所の担当が飛んで来るわ。30日間は確実に営業停止よ。それでもいいの?」
カウンターの中のバーテンダーは聞き流し、茹で卵がギッシリ入ったガラスの大瓶の中から1つ取り出して食べる。
おぉ!フードファイトなら負けないぞ!僕は大瓶を手繰り寄せて中の茹で卵を掴み、無言で1つ口の中に放り込む。
「何も情報を捌けとは…」
げ!酢卵だw
ラギィの話の途中で、激しくムセ返って卵を吐き出す僕w
「おい、うるさくて試合が聞こえない。この子に1杯やってくれ、落ち着くだろう」
トマトジュースが出て来るが…苦手ナンだw
「どうもありがとう」
ソレでも苦しくてトマトジュースを1口含み、ラギィにOKサインを出す。彼女は顔色1つ変えズつまらなそうに尋ねる。
「フィン・ロークさん。ジッコ・カナンについて聞かせてください」
「それか」
「最後に会ったのはいつですか?」
フィンは、ゆっくりと十字を切り、胸の十字架にキスをしてから…鼻と鼻がぶつかりそうな位、ラギィに顔を近づける。
「覚えてない。実のトコロ、誰も覚えてナイんだ。保健所に伝えといてくれ。私のパブについては寛容に頼む、とな。じゃもう良いからお引き取り願おう。警部さん、私の店から出て行くんだ」
ところが、その時!
店の裏から、肉が肉にメリ込む鈍い音。誰かが誰かを殴る音だ。うめき声。フィンの横を通り、店の奥へと入って逝く…
「どきなさい!」
店の裏では男が殴り倒され血まみれで倒れている。ラギィが拳銃を抜くと、殴っていた男はアッサリとホールドアップ。
「大丈夫?」
「俺か?」
「ひどい怪我」
片目が潰れている。が、後からフィンが姿を現すと…
「もちろん大丈夫さ。何かあったのか?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋の取調室。
「貴方はマリオ・メドサ。またの名をルチョ。薬物譲渡で4年服役。最近、蔵前橋を出所したばかりね」
「おめでとう、ルチョ」
潰れた目で僕をジロリと睨むルチョw
「ウェハーズが1人死んだ。次は貴方よ。フィン・ロークの店で何をしてたかを教えて」
「わかった。正直に話そう」
「えぇお願い」
全く期待してないラギィ。
「酒を飲み過ぎて転んじゃったんだ」
「ほぉ転んだのね?」
「YES」
ラギィは、明後日を向き溜め息をつく。
「目の周りのアザは?」
「壁にぶつかったのさ!」
「じゃあ手の火傷は?」
慌てて、自分の焼け爛れた手を見るトルチ。
思い出したように氷嚢を頬の傷跡に当てる。
「壁にぶつかった後で転んで、そんでもって思わず鉄板に手をついてしまったってワケさ」
「正直にありがとう。私だってマフィアのルールは知ってるわ。貴方はどうせ近々別の事件で捕まる。警察を味方につけといたほうが楽よ」
「no thank you。俺は平気だ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
マジックミラーを隔てた隣の部屋。
「ルチョは"ルンバキングス"で薬の密売をしてたわ」
「ルンバ…なんだって?」
「昭和通りのストリートギャング。女や"覚醒剤"を密売する。ルチョはナイフが巧みで、殺人では捕まってないが、何人もの指を奪ってる」
風紀班の女刑事カポン・スキィ。紫のシャツに紫のタイ。
「つまり"ウェハーズ"の敵ってコト?"ウェハーズ"は"ルンバキングス"がジッコを殺したと思い、彼を拷問した」
「本人は黙秘してるけど」
「フィン・ロークは、理由がなきゃ拷問はしないわ。きっとルチョが犯人ね」
マリレが飛び込んで来る。
「ビンゴ!麻薬密売スポットとして有名な和泉パークの噴水の横に奴の車があった」
「ソレで?」
「車のサンバイザーに、こんなペーパーナイフも発見」
刃を飛び出させるマリレ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋の検視局。ひと目見てタブレットから一声。
「違う。それじゃないわ」
「ルイナ、ちゃんと見てよ」
「見たわ。10センチのダマスカス鋼。この傷を作るには小さ過ぎる」
超天才に即座に否定され、頭をヒネるラギィ。
「別のナイフを使ったとか?」
「ルチョの背は?」
「背は…155センチ」
ファイルを見て応えるラギィ。僕のナイスな気づき。
「シークレットシューズを履いてるカモ」
「ソレもアウト。傷の角度からして犯人は180cmかしら」
「失礼…はい、ラギィ」
スマホしながら席を外すラギィ。僕は、何となくルイナがいつもと違う感じなのに気づく。何か隠し事をしてるようだ。
タブレットに話しかける。
「やぁルイナ」
「テリィたん、何?」
「元気なさげだ」
首を横に振るルイナ。よそよそしいw
スマホを切って、戻って来るラギィ。
「鑑識だった。ジッコのスマホの通話記録がサルベージ出来た。聞きに行こう?ルイナ、ありがとうね!」
ジッコ・カナンの死体を後にして、出て行く僕とラギィ。タブレットの中から、じっと僕達の動きを追っているルイナ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
捜査本部のモニターにデータが流れる。
"SIM card call trace results:search results for SIM card:Canaan Zicco…"
「あ、警部。ジッコの最後の通話先は、市内の番号でした。しかし、SIMカードの損傷で下2桁が不明です」
「可能性は99通りだ。片っ端からかけてみましょ」
「ソレが全部同じ組織の番号で…何と全て南秋葉原条約機構です」
言葉を失うラギィ。
「何でマルチバース系マフィアがSATOと電話をするの?」
第2章 涙の昌平橋バスターミナル
南秋葉原条約機構は、アキバに開いた"リアルの裂け目"から降臨スル脅威に対抗スルために結成された防衛組織だ。
その司令部は、パーツ通りの地下深く秘密裡につくられ沈着冷静なレイカ最高司令官の下、日夜敢然と挑戦している…
何に?笑
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
で、パーツ通り地下のSATO司令部。
「レイカ、どうなってンだょ。いつからSATOがストリートギャングの女用心棒なんかとツルんでルンだ?」
「ごめんね、テリィたん。1週間前ぐらいかな」
「情報提供者としてリクルート?」
首を横に振るレイカ。因みにヲタッキーズは、SATO傘下の民間軍事会社なので、彼女は雇主、僕達は傭兵?みたいなw
「確かに売り込みはあった。でも、信頼出来るとは限らない。見極めないと」
「ふーん挙動不審だったとか?」
「まぁね。連中が密告スルのは、大抵ボスを裏切ったからょ。密告すれば、証人保護プログラムでSATOに保護してもらえるから」
あ。レイカは月面基地時代の制服でカラダの線がピッタリ出る銀ラメのコスモルックに紫のウィッグ。レトロSFかょw
「誰を裏切るつもりだったのかな」
「知らないわ」
「そいつが気づいたんだ。で、先手を取って、密告される前にジッコを殺した。"ウェハーズ"は北朝鮮と同じだ。ソレともロシア?とにかく、死刑宣告をためらわない。密告は、立派な処刑対象だ」
レイカなりの結論。
「とりあえず、フィン・ロークに話を聞きに行けば?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
再びアイリッシュ・パブに戻ると…お葬式だw
「一昨日の晩、使徒がジッコの下を訪れた。人類の未来を奪ったのと同じ使徒だ。世に言う10756thインパクトだ」
パブには不似合いな荘厳なシャンデリアの下に棺。
「人類は、死の使徒を見たコトがナイ。だが、人類は、死の使徒に知られている。それでは、愛するジッコに」
パブの全員が棺を囲んで立ち、フィン・ロークの演説に首を垂れ、耳を傾けている。フィンは、グラスを上げ乾杯スル。
「愛するジッコ。使徒が目を離した隙に、お前は天国に侵入したハズだ」
自ら大笑いし、グラスを空ける。場がざわめきだすのを見届けてから、カウンターで酢卵を頬張ってる僕達の方へ来る。
「死者を讃えに来たんだろうな。違うんなら、とっとと帰ってもらいたい」
「貴方は、ジッコ・カナンの身に何が起きたかを知ってる。ルチョの拷問は、私達を欺くための演技だった。さっきの御大層な演説もね」
「何言ってんのか、わかってるのか?」
因みに、挑発してるのはラギィなんだが、僕に突っかかって来る。ラギィが僕達の間に無理矢理割り込んで喧嘩を売る。
「じゃ私を殺す?密告される前に殺したジッコのように?」
「やめろ。今夜は彼女の名を汚すコトは許さない」
「 SATOに聞いたわ。ジッコは死ぬ前にSATOへ密告を試みたそうね」
視線をズラすフィン。冷やかす僕←
「フィンさん、裏切られたね」
「お前に何がわかるんだ!ジッコは、最後まで忠実だった。そして、死ぬ直前まで尊厳を失わなかった。仮にSATOに密告を企てたとしても、ソレは我々とは関係ないコトだ!」
「あら。なぜソンな自信があるの?」
ラギィにまでからかわれ、さすがにウンザリ顔のフィン。
「私がマフィアで人様のモノを盗むのは知ってるな。ソレと人殺しだってコトも。だが、この噂は聞いたコトがナイだろう。私は"覚醒剤"密売に手を出したコトは無い。仮にだ。あくまでも仮の話だが、誰かがウチの縄張りで商売をしてるとしてだが、私はジッコに指示をスルだろう。密売人を見つけて我々のルールに従い、処刑しろとな」
「ソレが逆に処刑されちゃったワケね」
再びからかうラギィ。ヤメろってw
「あぁそのようだ…もし、十分な証拠がアルのなら私を逮捕スルが良い。だが、もしナイのなら、言っておくが、コレは内輪の会だ。悪いが私の店からとっとと出て行け!」
いつの間にか人の輪で出来ており、口々に詰る。
「帰れょ」
「何考えてんの?」
「ジッコも気が休まらねぇ」
不満不平の通奏低音。フィンはショットグラスを空ける。
「もう1杯くれ」
その時、ふと怯えた目つきのメイドに気づく。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
怯えるメイドを慰めながら、ちゃっかり仲良くなっちゃうのは実は僕の得意技だ。覆面パトカーの中でチャンスを伺う。
「彼女、も少ししたら出て来るわね」
「あれ?ラギィも気づいてたのか?」
「テリィたん。私は、殺人課の出身ょ?何かを背負ってる女子は、ひと目見たら直ぐワカルわ」
オミソレしました。果たして、サイキック抑制蒸気が渦巻く中、例のメイドが夜の路地裏に走り出て来て周囲を見回す。
「僕を探してルンだ」
クラクションに伸ばした手をピシャリと叩かれるw
「だめだめ。クラクションなんて鳴らしたら驚いて逃げていってしまうわ」
ラギィがライトを点滅させるとメイドが駆け寄って来る。
「助けて!私を警察に連れてって!」
「私が警察ょ」
「ココから逃げ出したいの!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
結局メイドのモロィは、僕じゃなくラギィを頼ってるw
「貴女、警部サンなの?スゴーイ…もちろん、ジッコの評判は知ってる。ソコに惹かれた部分もある。何?貴女も百合の経験とかアルでしょ?」
「ノーコメントょ。ジッコは何かを密告スル気だった。ソレが何かを知りたいの」
「組織の話は聞いてないけど…でも、組織を抜けたがっていたわ。いつも2人で話してた。どこか遠くへ行きたいな、白い船で、って。でも先週、ジッコは急に私がいなくなるカモって言って来たの」
泣きそうな顔になるモロィ。
「ソレは…死ぬってコト?」
「ワカラナイ。毎日一緒にいて、ジッコは私ナシでは眠れなかったのに、先週は来るなと言われた。彼女じゃなかったら浮気を疑ってたトコロょ」
「疑わなかったの?」
うなずくモロィ。首からペンダントを外す。
「一緒に過ごした最後の夜、ジッコからもらったの。何かあったらこれを警察に渡せって」
「ロッカーの鍵?」
「きっとバスターミナルね。ほとんどが撤去されたけど、未だ数カ所残ってるわ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
昌平橋バスターミナル。
「ココがジッコの部屋に1番近いの」
鍵穴にキーを挿すラギィ。
「待て待て。おい、待てょラギィ」
「なんで?どーしたの、テリィたん」
「だって、秘密が明かされるんだぜ?中には、エイリアンの死体か聖櫃か…」
あっさり開けるラギィ。中は何と…
「ジョニ・ボングのDVD?冗談だろ?命懸けでコレをSATOに渡そうとしてたのか?」
「待って」
ラギィが個装を破って、ケースを開けてDVDを外すと…
ケースの底にビニール袋入りの緑色の粉末がビッシリw
「コレだわ」
ラギィがポケットナイフを取り出し、個装を切り破って指を突っ込み、緑色の粉末を赤い小さな舌でチョロっと舐める。
「"覚醒剤"だわ」
「うーん今の最高にカッコ良かった」
「気に入った?」
いつになく上機嫌なラギィ。
「海外ドラマっぽかった」
「うん」
満足そうにうなずく。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
突然開いた"リアルの裂け目"の影響で、アキバでは腐女子がスーパーヒロインに"覚醒"する事例が多発している。
一方、アキバでは"覚醒"を焦る腐女子を狙う"覚醒剤"が横行、摂取の失敗から廃人化スル腐女子も後を絶たない。
「ジッコは、組織を裏切ったワケでなくて、フィンの命令で"覚醒剤"の売人を捜してSATOに突き出そうとしてたのね」
「ところが、売人が先手を打ち、密告される前にジッコを刺したってワケか。なるほど」
「つまり、殺人犯は"覚醒剤"の売人ってコトね」
僕は空ケースの裏を確認スル。
「DVDは、上海で個装されてると描いてある。きっと出荷前にケースの底に"覚醒剤"を仕込むんだ」
「秋葉原で受け取るジョニ・ボングも、どれが"覚醒剤"入りかを知っていたハズょ」
「そして、どれに"成功への鍵"が入っているかもね!」
トンチンカン発言で僕やエアリから睨まれDVDを撫でていた手がピタリと止まるマリレ。何だょ"成功への鍵"って?
第3章 メイドのラギィ
「イェーイ!」
アキバの悪の巣窟ホテル"レコル・アクシオム"の1室。
約100人の生活感溢れるイケてないオバさんが勢揃いw
で、全員が拳を振り上げ絶叫してる!
ステージで煽るジョニは、両手を高々と上げてバンザイしながら大声で叫んでる!熱狂、拍手、絶叫!拳を振り上げる!
ジョニの左右にゴールドビキニのアジアン系美女2名w
「貴方が皿洗いでも平気。金持ち相手の緑のエプロンつけたコーヒー店の店員でも平気。客は、全員Bluetoothを持った金持ちばっか。僕も貧乏だった。だが、人生を変える、ある法則を見つけた。準備はOKですか?」
「誰かの結婚式みたいだなw」
ラギィを先頭に、ヲタッキーズと一緒に会場(何の会場?)に入る。大歓声が沸き、振り返ると…
ナゼかジョニはオバさんと2人で真っ赤に焼けた石の上を裸足で歩いてるょ!どーゆー進行だ?
「さぁ新しい人生と"エスクロー契約"スルんだ!」
ジョニが叫ぶ!大拍手、大歓声。全員が靴下を脱ぎ始め、脱いだ順に真っ赤に焼けた石の上に飛び出すや絶叫し大悶絶!
「マリレ、ソックス脱いだら催涙スプレーをかけるわょ」
思い止まるマリレ。大歓声が沸き続ける中ラギィが声掛け。
「ボングさん!万世橋P.D.ラギィ警部です。いくつか質問させてください」
「もちろん、もちろん」
「御社の従業員が"覚醒剤"密輸に関与していた恐れがあります」
ピクンとなるジョニ。
「え。密輸?」
「"覚醒剤"のね」
「1度、調べさせて貰います…あ、待て!」
物も言わズUターンし、ダッシュで逃げ出すジョニ。直ちに"飛び上がって"逃げるジョニに襲いかかるヲタッキーズ!
焼けた石の辺りで捕まりウッカリ石を踏んでしまうジョニw
「ぎゃああっ!あぢぢぢぢぢ!」
ヤケド?お前、エクスロー契約してなかったのか?
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋の取調室。
「"覚醒剤"の密輸なら懲役10年は確実ね。逃げるのも当然だわ」
「何かの間違いだ。"覚醒剤"なんて負け犬がやるモノだ。僕は、皆を勝利へと導く人間なんだぞ」
「はいはい。貴方のインチキな経済プログラムに3万円も払わせて?」
真っ正直な顔して反論するジョニ。
「インチキではナイ!30日間で富を得られない場合は、無条件で全額返金保証が付いてます。コレがインチキなら、ソンなコト、出来ないでしょう」
「その通りょ」
力説するジョニをマジックミラー越しに見ながら、思わズ口走ってエアリから睨まれるマリレ。ラギィは取調べを続行。
「OK。こうしましょ?私は殺人事件を追ってるの。ハッキリ言って"覚醒剤"密輸はどうでも良い。問題は、貴方が証拠を隠すためにジッコを殺させたコトょ」
「待て。ジッコが死んだ?」
「おいおい、気を付けろょ。急に変なアクセントがなくなっちまったぞ」
真剣な顔になったジョニをからかう僕。ところが…
「もうヤメてくれ。北朝鮮から来たボートピープルと言うのは嘘だ。もともと僕は東秋葉原の出身だ」
「じゃあ何でそんなウソを?」
「アキバ工科大学のMBAを持ってる、じゃアピールしない。馬鹿がロールスロイスを手に入れたって言う話に人は食いつくんだ。誰もが求める秋葉原ドリームを僕は提供している」
「ソレと"覚醒剤"も提供してるな」
ナイスなジョークだがウケない。ラギィが続ける。
「ジッコは知り合いだったの?」
「いいか?どんなタレコミがあろうと、僕はジッコを殺してナイ。信じろ」
「信じろ?ウソばかりついてるのに?」
ジョニの顔からフニャフニャした感じが消えるw
「違う。僕は、僕のビジネスの為に金が必要で、彼はブツの密輸手段を探してた。愚かだったが、1度始めた悪事はヤメられない」
「貴方、一体誰の下で働いてるの?」
「言えば殺される」
激しく首を振るジョニ。
「保護スルわ」
「無理だ。"奴"の力はジッコを見ればわかる」
「ボングさん…」
ジョニの決意は固い。
「ダメだ。10年服役スル。殺されるよりずっとマシだ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋の捜査本部。
「"奴"のコトを死神のように恐れているのね」
「でも、何とか吐かせないと。沢尻ノリカのビデオでも見せたら吐くカモ…ソレ自体が犯罪か…え。ルイナ?どうしたの?この人、誰?」
「ジッコ・カナンの件ょ。フラン・クマレ博士。彼は法医学者。相談に行ってもらったの」
僕のタブレットを強制ハッキングして登場するルイナ。そして、目の前に現れた中年のサエないオッサンは法医学者?
「モニターに遺体の画像を出してくれ…刺傷の周りに長方形の痣が見える。ココとココだ。コレはナイフの柄の痕だ。かなり、力強く突かれてる」
「その時の勢いで、傷は刃渡りよりも深くなってる?」
「YES。その上、ナイフはよく研いであり、骨に当たった時に欠けてる。だから、2人の遺体からは金属片が検出されている。いずれの被疑者にも同じ凶器が使われている」
慌てるラギィ。
「待って。いずれの被疑者?今回の殺人犯は何人殺したの?」
「わかってるだけで5人」
「え。コレは連続殺人なの?」
混乱するラギィ。フラン博士は冷静に話を続ける。
「少し違う。プロの犯行と見てる。つまり、軍事訓練を受けた人間による連続犯行だ」
「軍人が委託されて殺人を?つまり、殺し屋ってコト?」
「YES。トモグラフィーを使ってジッコの傷から凶器として使われたナイフを再現してみた」
博士は証拠品袋の中からABS樹脂製のナイフを摘み出す。
「ウクライダ戦争で、特殊部隊が好んで使ったナイフだ。犯人は一撃で殺す。他の傷は、その特徴的な殺人技術を隠すためのカモフラージュに過ぎない。同じ方法と同じ凶器で別の殺人も犯してる。10年前だ」
タブレットの画像の中で視線を落とすルイナ。
「10年前?何…」
「ラギィ、ホントにごめんなさい」
タブレットからの謝罪と共にフラン博士の所見。
「ラギィ警部。ジッコと警部の御母堂を殺めたのは、ほぼ確実に同一の犯人だ」
ラギィの手から、樹脂製のナイフがポトリと落ちる。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
秋葉原D.A.大統領府の首席補佐官をののしる声w
「この事件の担当警部は私よ!ルイナ、貴女が私に事件の証拠を隠すなんて許されないわ」
「だって、言えないわ。テリィたんがラギィのお母さんの件に触れた時、貴女はマジでブチ切れちゃったじゃないの」
「お願いょルイナ!」
ラギィの剣幕にルイナはタジタジだw
「傷が類似してるコトに気づいたの。フラン博士に聞いて確証が得られたら、話そうと思ってた。だから、わかった直後に博士にソッチに行ってもらったのょ!」
「ラギィ…話せるか?」
僕は、ラギィをギャレーに引っ張り込む。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「痛み止めだ」
ミユリさんがブランデーを入れてくれたスキットルを渡す。ラギィは遠慮なく受け取り、口をつけクイっとひと口飲む。
「ラギィは、殺されたお母さんの件で警官になったんだょな。で、その件に没頭し過ぎて精神をヤラれた。いずれまた挑戦スル時が来ると思ってた。だが、ソレが今とはね。良く聞くんだ。ラギィほど優秀な警官はいない。前任地の新橋で"新橋鮫"と呼ばれた君だ。出来れば事件の捜査を続けてほしい。だが、合同捜査のパートナーとして、コレは聞かざるを得ない…続けられるか?」
唇を噛むラギィ。
「ごめん、テリィたん。無理みたい」
スキットルを返す。オフィスから出て逝く。呼びとめる僕を完全に無視して、上着を肩に担いで大股で歩く。僕は呼ぶ。
「ラギィ!」
うつむいたママ、本部を横切る。エレベーターに消える。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
"マチガイダ・サンドウィッチズ"は僕達の居場所だ。
僕達は、楽しい時も、悲しい時も"マチガイダ"のホットドッグを食べルンだ。だって、どんな時でも腹は減るからね。
で、今宵は貸切w
「ラギィ。何がわかった?」
「何も。何もわからないのょパパ」
「そうか。では、何を怖がってルンだ?」
パパは、ラギィの唯一の肉親だ。
「お前が刑事になった時、私は眠れなかった。夜中にサイレンが聞こえる度に夢を見た。お前が暗闇に飲まれる夢だ」
「パパ。私、犯人を逃したくない」
「母さんの口癖を覚えてるか?"手に負えない試練はナイ"だっけ?ジョアの普遍の法則とか言って心情としてた。ところが、彼女の死が手に負えなくて、その法則が間違いかと思ってた。でも、今は違う。母さんの声が聞こえてくるょ。"ほら、言ったでしょ"ってさ」
クスリと笑うラギィ。少女のようだ。
「ソレ、ママの口癖だったわ」
「母さんは"事実"しか信じない人だった。なぜなら"事実"は人を傷つけない、と。コレは、きっと母さんからのメッセージだ。"事実"は、きっとお前の味方になってくれる。犯人の味方では決してナイ」
「パパ…」
微笑むラギィ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
御屋敷のバックヤードをスチームパンク風に改装したら居心地良くて常連が沈殿。メイド長のミユリさんはオカンムリw
今宵"潜り酒場"に御帰宅したのは…メイド服のラギィw
「や、や、やぁ(萌えw)」
「こ、こんなメイド服なんて、着たく無いンだからね!」
「お約束のセリフだな。まぁ良いから黙って入れょ」
招き入れる…その、メイドのラギィをw
「ありがとう。あ、ミユリ姉様」
「おかえりなさいませ、御嬢様…がんばって。バーのドリンクはご自由にね。私達はバックヤードにいるわ」
「え、え、何で?姉様!」
常連のスピアを引っ張りバックヤードに消えるミユリさん。
「さ!必要なコトがあれば、何でも協力スル。"何もするな"なら、何もしない」
「テリィたん。母を殺した犯人を見つけたい」
「ROG。じゃボングの口を割らないとな」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋の留置所の扉を開けて入って逝く僕とラギィ。
「すみません、ボングさん。うっかり自己負罪拒否特権に基づく権利告知をスルのを忘れてたわ。釈放ょ」
「え。何ソレ?美味しいの?ってか、ミランダ警告みたいな奴か?君は伝えたよ。その上で、僕は全てを放棄した…ってか何で警部はメイド服ナンだ?まさか、警部もスーパーヒロインでヲタッキーズのメンバーなのか?」
「そうょ(全然違うけどw)!」
ソレを聞いたジョニは、泡を吹いて慌て出す。何でだ?笑
「ま、待ってくれ、スーパーヒロイン!今、釈放されたら、俺は警察に協力したと思われ、裏切者として殺されちまう!」
「でしょうね。でも、アンタが誰の下で働いてたかを話せば"覚醒"した私が保護してあげるわ」
「ディコ・カナン!彼女がボスだょスーパーヒロイン!」
今度はラギィが慌てる番だ。何しろニセヒロインだからなw
「ジッコ・カナンの妹が"覚醒剤"の密売を?」
「慈善事業家のディコは、出資者を募るため、北朝鮮に学校を建てたりして善人ぶるが、実は、儲けのほとんどをケシ畑に注ぎ込んでる」
「ところが"覚醒剤"は大量にアルのに秋葉原への密輸手段がなかった?」
ジョニは、フランス人みたいに肩をスボめてみせる。
「3.11以降"黄金の三角地帯"からは頭痛薬も送れない。だから、上海の僕の工場を経由して秋葉原にいるディコに届けてた。"覚醒剤"のサプライチェーンさ」
「そして、秋葉原で"覚醒剤"を売るのは、昭和通りを仕切るストリートギャングの"ルンバキングス"ね?」
「YES、スーパーヒロイン。完璧な計画だったが、ルチョの馬鹿が"ウェハーズ"の縄張りで密売を始めたせいで、おかしくなった」
合いの手を挟む"スーパーヒロイン"。
「そして、ジッコに知られて脅されたの?」
「YES。止めないとSATOに言うと脅された」
「じゃディコが実の姉のジッコを殺したの?」
ひとたび歌い出すと止まらないジョニ。
「惜しいな、スーパーヒロイン。ジッコは、長い間マフィアの用心棒をやってて手強い。頭の後ろに目ん玉がついてる。ソコでディコは、プロの暗殺クノイチを雇った」
「暗殺クノイチのコードネームは?」
「…ルゴ13」
思わズ口を挟む僕w
「えええっ?!ゴルゴって女だったのか?!」
「"ゴ"じゃなくて"ラ"だ。"ラルゴ13"!」
「クラシックだとLargoは"幅広くゆるやかに"だね。ヘンデルが有名だ。hallelujah!」
閑話休題!ラギィ、いや、スーパーヒロインが咳払いw
「で、何処にいるのかしら、その…"ラルゴ13"は?」
「ソレは、さすがにディコに聞いてくれナイか?スーパーヒロイン」
第4章 暗殺クノイチ、その名は
慈善事業NGOのヘッドオフィス。
「警部さん、どうですか?姉を殺した犯人はわかりましたか?」
「も少しです。お姉さんの場合、誰かを探していて殺されたモノと見られています」
「"ウェハーズ"は"覚醒剤"には反対だった。しかも、容赦ない。縄張りで密売する奴は、必ず見つけ出して殺す。ところが、お姉さんは"誰か"は見つけ出したけど、どーゆーワケか殺せなかった」
僕がラギィに補足スルとディコは穏やかな笑みを浮かべる。
「姉らしいです。スポーツ精神みたいな公正さを見せる時があります」
「茶番はヤメて。"覚醒剤"の経路について知ってるのょ。黄金の三角地帯から上海を経由して秋葉原に。そして、貴女はラルゴ13と言う殺し屋に姉を殺させた。SATOに密告されるのを防ぐために」
溜め息をつくディコ。ゆっくりデスクから立ち上がる。
「証拠は?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
取調室のディコをマジックミラー越しに見る。
「ラギィ、大丈夫か?」
「10年ょ。刑事が家に来た。あの日から10年が経ったわ。10年経っても警察の黄色いテープを見る度に、あの時に起きたコトを思い出すの」
「だから、ラギィは優秀な警官なのさ」
ところが、ラギィは視線を落とす。
「もし母を失望させたら?私、ソレが怖いの」
「何でラギィを"宇宙女刑事ギャバ子"のモデルにしたかわかるかい?」
「さぁ知らないわ。なぜ?」
僕は、おどけて種明かし。
「背が高いからさ。さぁ早く逝って1発カマして来い!」
にっこり笑って頷き、唇を固く結ぶ。
彼女は、もうメイド服を着ていない。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋の取調室。
「今、財務捜査官が貴女のNGOを調査してる。"覚醒剤"を密輸してれば、直ぐバレるわ。白状スルなら今しかナイ。でも、1番の問題はソコじゃない。ラルゴのような殺し屋を雇い、計画的に殺人を行なうのは刑法上の"特殊な事情"に相当スルわ。つまり、貴女は死刑になる可能性がアル。でも、貴女次第で、そのような事情を無視出来るわ。ラルゴの正体を貴女が話すなら、ソレと引き換えにスル用意がアル」
「今の1番の問題を言いましょうか?貴女には、私を犯人と断定出来る証拠が一切ナイと言うコトょ」
「ジョニーが全て吐いたわ」
愉快そうな笑顔を見せるディコ。
「わざとらしいアクセントで、イカサマ商売をスルあの人?そっか。貴女には、あの人しかいなかったのね?」
「貴女こそ、自分の命がかかってるのに、まだジョニが話さないと信じてるの?ねぇ殺し屋が誰かを言えば、減刑スルよう、私が検事を説得してあげるけど」
「最初に会った時、貴女は、自分も似た経験をしたと言ったわね。覚えてる?ラルゴを必死に追いかけているのは、そのせいもあるのかしら?私の勘だけど、貴女の大切な人の殺人事件に、ラルゴが関わっているとか?…あら?どうも勘ではなかったようね。貴女の顔にそう描いてアルわ」
マズい。ラギィは負け始めてるw
「貴女が殺人の容疑者だってコトは変わらないわ」
「そうね。だけど、今回の件を全面的な刑事免責にすれば、貴女を長年の苦しみから解放出来るって思ったの。ラルゴと引き換えに私を釈放しなさい。コレが私からの最後の申し出ょ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
最高検察庁ミクス次長検事のオフィス。
「…刑事免責を許可して欲しいの。ラルゴは、わかってるだけで5人殺してる。私のヲタ友の母親も含めてね…ねぇ私達は仲間ょね?秋葉原はヲタ友を大切にスル街なの」
ミクスは、何も逝わズにスマホを切る。立ち上がる僕達。
「ミクス、どうだった?」
「承諾したわ。良い元カノを持って幸せでしょ?」
「あぁアキバ1の果報者さ」
ミクスは、学生時代の同棲相手だw
「担当刑事も検事も刑事免責でOKょ。でも、ホントに作戦はあるんでしょうね?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
取調室ではディコが歌い出す。
「ラルゴの背丈は私ぐらい。外見は普通過ぎて、ホントに目立たないわ」
「出会いは?」
「ウクライダで一緒だった。去年、製鉄所の籠城戦で戦死したと聞いてたの。ところが、先月、バーに彼女がいて幽霊かと思ったわ。死んだのではなくて、別の任務に引き抜かれていたんだって。任務は、いわゆる政府が否認するような裏のお仕事ょ」
溜め息をつくラギィ。
「どうやってオーダーを通すの?」
「渡された番号に伝言を残す。その後でメアドと匿名口座の番号を送って来る。殺す相手をメールして、お金を払ったら後は待つだけ」
「じゃこうして。コレからラルゴに殺人を依頼スルの。ジョニを殺せってね。警察が彼を検事局に移送スル時を狙えと伝えて」
フランス人みたいに肩をスボめるディコ。
「あらあら。そう簡単には行かないわ。先ず前払いで1000万円。交渉はソレからょ」
「1000万円?そんな大金、警察が出すとでも?」
「お母さんの仇を討つんでしょ?用意してょソレぐらい」
涼しい顔で惚けたコトを逝うディコ。
「戻らないリスクもあるのに、そんな大金は払えナイわ」
「確かに警察には無理だ。僕が払うょ」
「テリィたん!」
色々ウルサいラギィを制し取調室の隅に控える男に尋ねる。
「ソレで良いか?」
「結構だ。ラルゴが依頼を引き受け、殺人契約が成立した瞬間、依頼人は自由の身だ」
彼は、NGOの弁護士…にしては目つきが悪過ぎるだろw
「ラルゴと契約出来れば任務は終わり」
「確認スル。釈放か?」
「自由の身だ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋の捜査本部。
「ラルゴが依頼を受け、暗殺契約が成立した。ジョニの身代わりは、クレイ・トンリ捜査官にお願いスルわ!」
「ラギィ警部、御紹介ありがとう。皆さんの健闘を祈るょ」
ジョニと同じアジアンなトンリ捜査官は、防弾チョッキを着ながら顔の前で手を振る。
笑顔が弾けるが、もしかしたら、彼の笑顔を見るのはコレが最後カモなとフト考えるw
「トンリ捜査官を移送するのは、ヲタッキーズのエアリとマリレ。決められたルートで彼を移送。通りの全ての角とブロックの中間に私服警官を配置し、監視のヘリを飛ばす。念のためだけど一応、上空3万6000kmの静止衛星軌道には、SATOのコンピューター衛星シドレも待機してるわ」
「そんなの気休めだ。そもそも、誰もラルゴの顔を知らないンだぞ」
「おっと、逆に分かりやすいと思うぞ。何しろ僕を殺しに来る奴だからな」
トンリ捜査官のジョークに乾いた笑い声が湧く。
「みんな、行くぞ!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
捜査本部。ラギィが作戦の指揮を執る。
「…バードアイ6J90から全ユニット。現在、ターゲットはラファイエット通りを南下中だ。レーザービーム、イモビライザー発動許可をリクエスト」
「許可する。交差点を過ぎたら教えて。デルタブラボーは?」
「通過した。ワース通りに入ってる。6J90、オーバー」
僕は、ラギィの目を見て告げる。
「完璧な計画だ」
うなずくラギィ。無線報告がかぶる。
「ターゲットは今、駐車場に入る」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
最高検察庁の地下駐車場。ライトをビームにして車が進入。
「気を付けて。クノイチは接近戦が得意らしいわ」
落ち着き払っているトンリ捜査官。カーブを切って車を止めヲタッキーズの2人が降車。全周警戒。
後部座席を開け、後ろ手に縛られているトンリ捜査官を降ろす。肩に手を置きエアリが先導し歩く。
マリレはメイド服の袖口に向かって話す。
「降車した。エレベーターに向かう」
コート姿の人影が近づく。先導のエアリが音波銃を構える。
「ラルゴが動いた!」
コートの人影が懐に手を伸ばす。その手を銃尻で叩き、人影を投げ捨てる!金属製の何かが床に落ちてクルクルと回転w
「動くな!」
「銃を置くんだ!」
「イタタタっ!一体何事ですか?」
床に落ちているのは…スマホ?
コート姿は夜勤明けの警備員w
「ラギィ、間違えたわ!ラルゴじゃなかった!作戦の裏をかかれたわ!ラルゴはいない!」
頭を抱えるラギィ。髪を掻きむしる。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
丘の上から見下ろす電気街は、半分は日が当たり、残り半分には雲の影が落ちている。その影の中の万世橋のギャレー。
「母が悲しむわ」
「ソンなコトはナイさ」
「ラルゴは逃亡。ディコも釈放してしまった」
自分のマグカップを手にしながら、僕に背中を向けらようにシンクに腰掛けているラギィ。
「何処かに見逃しがあった」
「ソレは僕カモ。ちょっち調べれば、直ぐにディコが契約金を払ってナイとわかる。でしゃばルンじゃなかった」
「そうは思わない。優しかったわ。お金は返すから」
いつになく温かみのある視線だ。
「いらない。お母さんの仇打ちの為なら、逆にお釣りを払わなくちゃいけない…あれ。ミユリさんだ」
スマホ嫌いの僕にかけて来るとは、よほど…
「テリィ様、彼女です!」
「何?」
切羽詰まった声だ。とりあえず、スピーカーにスル。
「ディコは"彼女の仇を討ちたいのなら"と逝ったのですね?でも、殺されたのが母親だとは、誰も言ってないのでしょ?」
そっか!
「ディコは"blood type BLUE"です。テリィ様は動かないで。今すぐ私が参ります!」
ところが、ラギィが勝手に飛び出してしまう。
目の前で釈放手続き中のラルゴに突っかかるw
「ラルゴなんて最初からいなかった!ディコ・カナン、貴女がラルゴね!」
「ほぉ。意外に賢い奴がいるモンね」
目にも止まらぬ速さで.釈放手続き中の婦警の喉を突いて悶絶させホルスターの音波銃を奪う!
ちょうど駆けつけた僕の逆手をとってネジ伏せるや、お腹に音波銃を突き立てる。ちくしょう!
「さ。このまま一緒にエレベーターに向かうのょ。静かに。あくまで普通にして」
「そうはさせないわ。絶対に無理よ」
「声をあげたり、合図を出したりしてみなさい。咳払いもダメ。元カレの肝臓をぶち抜くわ。目の前でゆっくりと苦しみながら死ぬのを見れるわょ」
腕をネジ上げられウメく。すっかり人質要員の僕w
「さあ行くのょ」
ラギィ。その後に僕、最後のディコは、音波銃を持った手をコートの下に隠している。
「お調子者も、こーゆー時はさすがに黙るのね。笑えるコメントも浮かばない?」
「警察署の中なのに、ずいぶん自信がアルのね。逮捕前から私が前に殺した女の娘だとわかってた?」
「もちろん。でもね。彼女に恨みはなかった。依頼されてやっただけょ」
うそぶくディコ、いや、ラルゴ13。
「貴女が殺したのは私の母親ょ。誰に依頼されたの?」
「諦めて。知った瞬間に貴女は消される」
「そうかしら」
その時、音もなくムーンライトセレナーダーが現れる。
必殺技"雷キネシス"のポーズをキメて、立ち塞がる。
ところが…
「らめぇ!待って、ムーンライトセレナーダー!彼女は殺せません」
「そうょ。母親殺しの真相を聞かズ終いになるわ。どいてょメイドさん。どかないとアンタのTOが死ぬ」
「ムーンライトセレナーダー、下がってください」
もはや哀願調のラギィ。
「ラギィ警部、ソレは出来ないわ」
「私の母親殺しを誰が依頼したかを、どーしても知りたいの!協力して!」
「テリィ様…」
僕は、ユックリうなずく。構わずに奴を撃て。
「ミユリ、お願いょ」
…ポーズを解くムーンライトセレナーダーw
「よーし上出来ょムーンライト。そうそう。データに依れば貴女が敗北スルのは、いつも腹パンチをキメられた時みたいね。こんな風に」
ムーンライトセレナーダーのコスプレは、セパレートタイプのメイド服(実は僕の好みw)。おヘソにパンチがメリ込む。
彼女が崩れ落ちると同時に、僕は後頭部を思い切りラルゴの鼻頭にぶつける。ハデに鼻血を噴いて、ヨロめくラルゴw
ラギィが神速で音波銃を抜く!
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「お願いょ!」
悲痛な叫び声が響く。必死に人工呼吸を繰り返すラギィ。
口から血の泡を噴き、とっくに絶命してる暗殺クノイチ。
「しっかりして!お願い、死なないで!だめょ!起きて!」
誰もが諦めて、暗殺クノイチの死体を囲む中、ラギィ1人が死体に覆い被さるようにして人工呼吸を繰り返す。
彼女の肩に手を置く。振り向いたラギィを抱き寄せる。大声で泣き出すラギィ。僕は、黙って彼女をハグする。
頬の涙を拭うラギィ。その手は血まみれだ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
朝焼けに染まる爽やかな陽光の中で、頬杖するラギィ。
振り向き、僕が声をかけるより早く顔を上げて微笑む。
「徹夜で報告書を描いてた。読み返したら、テリィたんったら、まるでランボーょ」
「ソレ、褒めてる?馬鹿にしてる?」
「実は両方。テヘペロ」
僕は、彼女の前にコンビニ袋を並べる。
「ラギィが、どんな気分か分からないから色々買ってみた。お鮨か、イタリアン、タイ料理。もちろん、ホットドッグもアル」
「あのね。テリィたんのせいじゃないから」
「いや、余計だった。ソレを謝りたくて来たんだ。そして…もうココには2度と来ない」
怪訝な顔をするラギィ。
「僕は、もうラギィのコトを、自分のSF小説のモデルとしてリサーチ出来ない。今まで、ありがと」
「え。何の話?今回だって、テリィたんナシでは、母親を殺した犯人は見つからなかった。ディコを雇った真犯人は、その内、必ず見つけるわ。だから、その時には、テリィたんにいて欲しい。誰かに話したら殺すけど、今はこう思ってる。テリィたんが、アレコレちょっかい出して来るのに慣れた。辛い仕事だけど、テリィたんがいると、少しだけ楽しくなる」
「…わかった。僕は、誰にも話さない」
ラギィは、ニッコリ微笑んで僕にプラスプーンを差し出す。僕は、右手で受け取って、左手でホットドッグをムシャリ。
ラギィがタイ料理のパックをのぞき込む。
おしまい
今回は、海外ドラマによく登場する"母親殺し"をテーマに、ストリートギャングの女用心棒、その妹の慈善事業家、伝説の女殺し屋、インチキ商法のペテン師、薬の売人、アイリッシュパブのオーナー、高名な法医学者、勇敢な囮捜査官、伝説の殺し屋を追う超天才や相棒のハッカー、ヲタッキーズに敏腕警部などが登場しました。
さらに、10年前に迷宮入りした母親殺しを執念の捜査を続ける敏腕警部の苦悩と励ます主人公との関係などもサイドストーリー的に描いてみました。
海外ドラマでよく舞台となるニューヨークの街並みを、すっかり"普通の"国際観光都市となった秋葉原に当てはめて展開してみました。
秋葉原を訪れる全ての人類が幸せになりますように。