ゴスロリ少女と研究所内と弾丸登山と
「亜久良研究所崩壊事件……?」
紅とかいう男と出会ってから1日経ったある日、詠月は自室でくつろいでいるマリナの言った言葉を復唱した。
「ええ、知ってるでしょ?」
「え、あ、ああ。そりゃまあ大きく新聞に載ってたからね。2年前くらいか?」
「3年前よ。」
ピシャリと訂正させられた。
亜久良研究所と言ったら3年前の崩壊事件が印象的だ。元々大学の保有する土地に建てたれた研究所で、様々な教授や生徒が居たらしい。しかし3年前のある日、突然崩壊した。原因は未だに不明で、未だに見つかっていない行方不明も数人いる。発見された人は全員死亡しており、あの日何があったのかは分からないままだと言っていて、警察も単なる事故だと言っていた様な気もするが……どうやら最新技術を駆使して研究していたところ新たな進展があったらしい。しかしそれが何者かによる犯行だとは予想外だったな……。
「しかしなんでまた前の事件を?」
「…………………………行けって言われた。」
マリナは小さくボソッと呟いた。
「は?」
「しょうがないじゃん。私これでも三之家の長女よ?」
「それがどうしたって言うんだよ…。」
「私の家は代々ヴァンパイアを取り締まってる名家のうちの1つなんですの。お父様は最近忙しくて動けないから私が行けと……めんどくさい。」
心の底から面倒くさそうにマリナは言う。朝スマホを見てから機嫌が悪かったのはきっとこの話を受けたせいだろう。
「でもマリナが行くってことは……」
「ええ、間違いなくヴァンパイア絡みでしょうね。」
「そっか、なんか、頑張れよ。」
「え?」
「え?」
「何言ってるんですの。詠月も一緒に行くに決まっているじゃないですか。」
「…………は?」
マリナは一緒に行かない方がおかしいと言うような視線を向ける。
「いや俺絶賛就活中よ!?そろそろ本格的にやらないとヤバいんだって俺!!!」
「それなら大丈夫ですわ!!!」
平たい胸を張り自信満々に答えた。
「私の任務が無事終わればそれなりの報酬は入ってきますの。その8割りを詠月に差し上げますわ!」
「えぇ……ちなみに大体いくらぐらいなんだよ。」
「ちょっとお耳を貸してくださいませ。」
言われるがままにすると近づいてきてその金額を答える。すると詠月の目に光が宿った。
「よし。やろう!」
「ふっチョロイですわ。」
□□□
気付けば愛車を運転していた。
「俺は……こんな事してる場合じゃないのに……。」
「安心なさい詠月。成功率は大体93%と言っていましたの、ほとんどの確率で何も起こらずに終わるということですわ!!行って見て帰るだけで報酬が貰えるのよ!」
「なんか怪しいバイトに思えてきたぞ……。」
助手席で喋ってるまりなを横に詠月は小さくため息をついた。
本当に大丈夫これ………。
こんな状態のマリナを電車に乗せたらどうなってた事やら、免許を取ろうと思って行動した大学生時代の自分に感謝せねば。
□□□
「ん〜!!はぁ、何時間かかったでんですの?」
「しょうがないだろ、今日高速混んでたんだから。それにしてもなんだこの不気味な場所は。早く帰りてぇ。」
「それもそうね、さっさと見回りして帰りましょう」
「そういえばお前、アイマスクみたいなやつ付けなくていいのか?」
「あぁ、言っていませんでしたか?あれは人目がつくような所しか付けないんですの。今は人っ子一人居ないから大丈夫ですわ」
「ふーん。」
「そうね…でも一応付けておこうかしら。」
今俺たちの間の前にあるのは、大きな山だった。この山の頂上辺りに崩壊した元研究所があるらしいが、、今はもう夜の8時。しかも秋が終わり、冬が始まるこの時期、寒暖差が激しく車内の温かさに慣れていた俺は人一倍外が寒く感じるのだ。こんな暗闇の山をろくな装備もせず懐中電灯1本で行く馬鹿がどこにいるのか。
、、いや、今まさにここに居るな。
まさに弾丸登山の俺達は寒さに凍えながら山へと向かっていった。
□□□
「なぁマリナ、登るんじゃねぇの?」
車をあとにして数十分経った今の俺はマリナの後に着いて山を登っているのではなく、何故か山の周りをウロウロしていた。
「バカね、こんなろくな装備もせずに懐中電灯1本で行く馬鹿が何処にいるのよ。」
「……。」
「確かこの辺りに…あ、あった!!」
するとマリナは山の根元に生えていた草木の中にある中くらいの石を押した。
ゴ、ゴゴゴゴゴゴゴォォォォ
と重たい扉を開けるような音が聞こえ、近くを見ると、山の側面に付いている巨大な岩が開いていた。
「……SFか何かかよ…こんな近未来的な扉本当にあったのか……」
「流石にこんな急な斜面の山を登るのは危険だからって造られたらしいわよ。」
「それなら納得がいくけど…でもよ……明らかに違法建築だろこれ…今にも壊れそうな扉だぜ?」
驚いているとマリナが「何してるの早く行くわよ」と岩の間へ入っていった。
□□□
岩の中に入ってみるとそこは真っ白な壁のThe・研究所の様な通路に出た。辺り1面真っ白で、もう3年前に崩壊したというのに明かりもついていた。
「明かりはついてるんだな…というかここ、本当に崩壊したのか?」
今立っている通路は、外から見た時の山とは裏腹に、近代的な場所だった。塵一つ無い真っ白な通路。ここで巨大な崩壊事件があったなどは誰も信じないだろう。
「えぇ、確かにあったわ。表だけね。」
「表だけ…?」
マリナは天井を指さす。
「えぇ、崩壊したのは外から見えた頂上に立ってる建物だけ。この山の中に建てられた本当の亜久良研究所は傷一つ付いちゃいないって言われてるわよ。そしてその話が本当なら…」
しばらく歩きながら話してたマリナがある扉の前で止まった。そして、ゆっくりとその扉を開ける。
中に居たのは、今まで行方不明となっていた研究者達だった。全員白衣を着てこちらなど気にすることなく忙しなく動いている。
「な、なんなんだよここ……というかこの人達って…」
「ここが真の亜久良研究所よ。」
マリナは怪しそうに笑いながら振り返り俺を見つめた。
読んで下さりありがとうございます。