道化師とゴスロリ少女と契約と
長いです
………………。
説明が終わった部屋には数秒間の沈黙が流れる。
「ノートリアス……たしか英語で悪名高い、とかそういう意味よね?」
「あぁ、」
「PM4時25分、赤、橋、将葉……全く分かんないわ……」
マリナはベッドに倒れ込む。そう、今はあの謎の電話から2時間が経った朝の6時だ。あの後マリナを起こそうとしたがまだ4時台。流石の俺でも眠くなり、そのまま倒れ込むようにリビングできっちり2時間睡眠をした。気付いたら朝の6時で、睡魔と必死に戦いながらベッドを占領しているマリナを起こし、今に至る。
寝起きのマリナマジで怖かったなぁ……。『力を使い果たしたから今凄く眠いの!?分かる!?』とか言ってなだめるのに30分も掛かるなんて。
そもそもの問題、
「なんで俺に話したんだ?」
そう、『何故一般人である俺に電話したのか。』だ。
「そりゃあ、詠月が普通じゃないからよ。」
「普通じゃない?あぁ、今はお前が一緒にいるもんな。忘れてたけどお前ヴァンパイアなんだよな?」
「私からヴァンパイアを取ったらただのヤバいコスプレ女になるじゃないですか!!忘れないでくだいますぅ!?」
ただのヤバいコスプレ女……『ヤバい』が付いてる時点で『ただの』じゃないんだよなぁ。本人が気付いてないから別にいいか。
「…………」
「…………」
「…………」
「なぁマリナ、俺こういう時どうすればいいの?」
「え?」
「いや、小説とかなら捜査とか色々するんだろうけどさ、リアルじゃ一般人はそんな事ほとんど出来ないんだよな。かといって何もしないで過ごして4時25分に何かあった場合知ってたのに何もしなかったっていう重みが来るし……。」
最悪の場合も考えて今から言い訳を考え始める詠月を横にマリナは薄っぺらい胸を張る。
「任せなさい!!今こそ三之家の権力を最大限に活用する時だわ!!!」
「結局金と権力の力かよぉぉ。」
□□□
更に3時間後の午前9時、近くのチェーン店で2人で朝食を食べている時だった。
『ぴろぴろぴろぴろぴろぴろ…………』
「ん?」
「あ、私のスマホですわ」
「どんな着信音だよ。」
まぁ、人それぞれだしな。
、
、
、
それより、
「このクリームパスタうめーな…。」
そんな独り言を呟いてると急にマリナが小さく、だが力強くガッツポーズをする。
「…ど、どうしたんだよ……なんか分かったのか!?」
「えぇ!えぇ確かに分かったわ!流石爺ね!!」
「じ、爺?」
すると急に立ち上がり「私の分はこれね」と金をテーブルに置いてスタスタと入口へ行く。
「ちょ、…ちょっと待てぇい!!何か言ってよ!?何が分かったんだよ」
「えぇ、大体は分かったわ。でも確かめたいことがあるの。だから12時、昼食も兼ねてまた此処に再集合しましょう!」
「え、、フラグなんだけど。」
「そんなこと言わないでくださいます!?」
そう言って店から出ていった。どんどん遠くなり小さくなるマリナの背を俺は眺めることしか出来なくて。
□□□
マリナとの別行動なのだが。
「何すれば……。」
やっぱり俺も何かしないといけないのか…!?でもそんな捜査とか初心者(?)だしなぁ。
ちょっと調べてみるか……
◇◇◇
検索:将葉
検索キーワード:将葉
将葉。○○県に行くから将葉のラーメンは外せない!……
将葉。すみません『将葉』の呼び方を教えてください。…
将葉。将葉さんって珍しいんですか?友達にいたよう…
将葉。将葉って橋があるんですけど、昔そこで女の子が…
将葉。下の名前で将葉ってどうなんでしょう?格好いい…
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・将ってどんな意味があるの?…………
・あそこの中華料理店の名前が『イタリアン』なんです…
・女の子の霊は会えたらラッキーって本当ですか?…………
・恋愛成就が有名な神社を教えてくださ………………。
・先輩が先輩の義妹の姉の夫の娘の家に押し掛けてる……
◇◇◇
「……ん?」
とあるサイト名にスクロールしていた指が止まる。
『将葉って橋があるんですけど、昔そこで女の子が……』
「将葉……橋……これか?」
◇◇◇
○○県○○市。中学生が橋から飛び降り自殺か?
死体は何処へ、今も尚続く捜索活動。
2020年6月23日。近所の中学生の女子児童がとある橋から自殺をはかった。警視庁は女子児童がクラスメイトから虐めを受けていたのを公表し、自殺として処理した。
しかし、肝心な死体が見つかっていないのである。ではどうして自殺という話が入ってきたのだろか。
事の始まりは、娘が塾が終わっていつまで経っても帰ってこないという両親からの通報で始まった。その後数日間帰ってこなかったが、そこから数キロ離れた地点で目撃情報があったという。目撃者によると、
『朝の8時台に、近くの橋まで散歩をしていたところ偶然中学生ぐらいの女の子が飛び降りるところを目撃してしまった。』
との事、
『その後ニュースで見た行方不明の女の子が先日見た女の子と特徴が似ていた為通報した。』
と言っており、警視庁は
『6月23日の夜、塾の帰りに自殺を決意し、ここから一番近くの橋へ足を運び自殺を測った』
という線が非常に高いと示している。
しかし彼女の両親は警視庁の意見と反しており、
『あの子は殺された。これは他殺だ。』
と今日も警視庁に訴えかけている。
果たして自殺なのか、はたまた両親の言う他殺なのか。今日も彼女の体を探し出すために橋の下の川へと捜索隊が足を運ぶ。
◇◇◇
「全然関係ないように見えるけどなぁ……でも電話で聞いたキーワードが2つも入ってたら…確かめるしかないよな。」
そうして俺は早速最寄りの駅へと向かったのである。
□□□
とある高層ビルの屋上に座りながら2人は駅へと急いでいる詠月を眺める。
〖???〗「あははっ。面白いね、詠月くんて。」
〖???〗「バカ言わないでちょうだい。マリナが選ぶパートナーよ?最新の注意を払いなさい。」
〖???〗「分かってるよぉ。でもさ、あいつ弱いよ?」
〖???〗「まだ契約してないからでしょ。でももうすぐ契約するわ。だってマリナは狙った獲物は逃がさない性格だから。」
〖???〗「あははっ!良いね、やっぱ僕君がいい。」
ニコニコしながら話している男は白髪の髪をしており、肩より少し長い髪を1つで低く結んでいる。普通の人より肌白く、目は赤い。
そしてその隣に座っている女は同じく白髪で、その長く癖毛のある髪をツインテールで高く結んでいる。青い瞳の目元には青い雫のペイントが施されていた。まるで道化師のようだ。
〖???〗「僕もそろそろ行かなきゃ。」
〖???〗「じゃあまた午後の4時20分に此処集合よ。」
〖???〗「どうしよっかなぁ。遅れたらごめんね!」
〖???〗「あら、面白い冗談を言うのね。遅れたら殺すから。」
〖???〗「えぇ…!?また殺されるの!?それは勘弁だなぁ……それじゃ、時間内に帰って来れるように早く行かなきゃだね。」
高層ビルの屋上から飛び降りる。しかし地面に着く寸前に男の姿はまるで煙ように消えていった。
〖???〗「……。私もそろそろ仕事しないと。人身事故くらいでいいかしら。」
男が消えたのを見届けた後。そう言って女もまた、煙のように消えていった。
つい先程まで賑やかだった屋上には、まるで神隠しにあったかのような静けさが残っている。
□□□
「人身事故……?」
ホームのアナウンスを聴き詠月はとある単語を復唱する。
つい先程。そう、詠月がホームに入ったその時に人身事故が起こったらしい。その影響で運転は2時間見合わせでもう最悪だ。せっかくやる気を出して最寄りの駅まで歩いたのに人身事故。今日は厄日かぁ?と首を捻っている。
(これじゃあ4時25分に間に合わねぇ!?)
急いでどうにかしないと。
そんなことを考えていると再びアナウンスが鳴る。
『つい先程起こった人身事故に関してなのですが、予定が早まり10分程で駅に到着いたしますのでしょうしょうお待ちください。』
いやいやいや、人身事故ってどう考えても1、2時間目は掛かるでしょ。どうなってやがる。
□□□
検索:○○駅 人身事故
検索キーワード:○○駅・人身事故
○○駅。○○駅の周辺に美味しい中華料理店があって……
○○駅。この前○○駅の駅員さんが地面に倒れてた……
人身事故。人身事故を題材にした映画の名前教え……
人身事故。そういや、○○駅の人身事故奇妙な事が……
質問
Q,○○駅に住んでる友達の話なんですが、最近人身事故が多いらしいです。どうして増えたのでしょうか?
A,駅に住んでる……?
人身事故。そういえば近所に人身事故さんって人が居る…
○○駅。○○駅って評判が良いらしいですよね……
○○駅。○○駅に住んでるものなのですが、最近人……
□□□
「流石ネットは早いな……。」
□□□
Q,そういや、さっき起こった○○駅の人身事故、奇妙な事が起こったんだって?知ってる人いたら具体的に教えてください。
A,私も詳しく分からないのですが、電車とぶつかる前に人の姿が消えたらしいですよ。しかも煙みたいにブワッて!!車掌さんは
『確かにぶつかった。』
って言ってるんですけど見つからないらしいですよ。怖いですね。
□□□
「人が消えた?」
それは確かに奇妙だ。消える?頭を過ぎるのはヴァンパイア。この前会った男も煙みたいに消えていたからな……。ヴァンパイア関連はもう勘弁して欲しいくらいだ。
そんな事を考えていると電車が到着したので人の流れに身を任せて乗り込──
刹那、俺は後ろから引っ張られ電車に乗り込めなかった。
「っ!?」
気付いたら俺と俺を引っ張った後ろのやつ以外には誰も居なかった。もう電車が出発したらしい。
「いっt───」
「動かないでくれます?」
凛とした女性の声、詠月は本能的に振り返るのを怖がっていた。ただ、風になびてる白髪だけは確認できる。
「おかしいな...1時間ぐらい遅延すると思ったのに。」
考え事をしている隙に逃げようと思ったが、腕をがっちりと固められている為体がビクともしない。
「う、動かねぇ……」
「当たり前でしょ?ヴァンパイアの力の凄さは貴方だって知ってるはずよ。」
「やっぱりヴァンパイア関連かよ!!」
ヴァンパイアだったらこの力強さも納得がいく。
(マジで動かねぇ!?)
恐怖心を抑え、ふと後ろに振り返るとそこには白髪のツインテールの美少女が居た。青い瞳の下には青の雫の形のペイントが施されている。まるで道化師のようだ。詠月はあることに気がつく。
「青い……目?」
驚きながら問うと、
「知らないの?魅了を使っている時ヴァンパイアは赤、ヴァンパイアと契約した人は青なのよ?本当に何も知らないのね。」
「だからこんなに力が強いのか……」
半ば逃げるのを諦めているせいか、かえって冷静になる。
「力?力ならヴァンパイアと契約している人間ならこれぐらい普通に出せるわよ?」
「え、じゃあなんで目が青く光ってんだよ……」
「あぁ、これ?これは……内緒よ。いくら弱くたって手の内を見せびらかす様なバカじゃないわ。」
流石に素直には答えないか……。さて、ここからどうしようか。逃げれるもんなら逃げたいのだが先程から尋常じゃないくらいの力で押さえつけられてるからな…。
「そういえば!!今何時だよ!?」
腕時計を見ると午後の2時30分だった。あと約2時間後。
どうすれば…やはりマリナと契約してれば良かったのか。
くそっ
体を強化出来たら……。
「っ!?!?」
そんな事を考えていたら急に体が強化されたような気持ちになる。
「なっ!!」
流石の道化師(今考えた)も驚いてるようだ。今なら…!
力任せに腕を振りほどいてホームを全力ダッシュする。しかし、
「な、なんで目が青いのよ!?」
その言葉で俺は走っていた足を止めてしまった。
「は?ど、どういうことだよ!?」
「私の方が知りたいわよ!!まだ契約していなかったはず…!!していたのに隠してた…?でもそんなにエネルギーを抑え込める人見たことないっ!!今だって…魅了を使ってるのにエネルギーが出てない…。」
あからさまに困惑している道化師を見て詠月自身も困惑し始まる。
「え!?マジでどういう事……???」
すると頭上から声がした。
『私のパートナーになにしてんよ。』
「「っ!!!マリナ!!どういう事だよ!(なの!)」」
「2人してなんなのよ。そもそも詠月には言ったでしょう?」
「言われてねぇよ!!」
「朝言ったじゃない」
朝...?朝の会話を思い出していると急に思考が止まった。
『力を使い果たしたから今凄く眠いの!?分かる!?』
「あぁ!?!?え!?おまっまさか!!」
「ええ、中々契約してくれないから詠月が寝てる間にしたわ!!」
「何やってんだよ!?!?」
「ちょっと!私のこと忘れてんじゃないの!?じゃあなんで詠月は契約してるのにエネルギーを抑え込んでるのよ!!」
「あぁ、それは詠月本人が契約したという事を自覚してないからよ。」
「それでも詠月はまだ魅了を使いこなしてない……さっきだって偶然使えただけ……殺るなら今しかないよね?♪」
先程までの凛とした女性は何処へ、瞳の青色も更に発光し悪戯娘のように声を弾ませて喋り始めた。まるで道化師のように。
「っ!!!!」
道化師が詠月の懐に入り腹に殴りを入れる。反射的に手をクロスにし、痛み・飛ばされる衝撃を軽減させる。軽く飛んだが何とか耐えた。道化師は、間髪入れずにすぐ殴りにかかる。
(こいつっ!!いくら離れても近づいてきやがるっ!!)
全力で走って距離をとっても数秒後には目の前に来て殴りを入れてくる。それを何度か続けていると急に体が浮いた。
「いつまでこのイタチごっこを見てればいいんですの?」
「あれ?マリナじゃん♪鬼ごっこ楽しかったんだけどn───」
ドゴっ
鈍い音がしたと思えば次の瞬間道化師は数メートル先まで飛ばされていた。マリナが足で道化師を蹴り飛ばした。飛ばされた道化師は地面に倒れたままビクともしない。
「お、おい...あいつ一応人間なんだぜ?」
「あら、こんな時まで敵の心配をするとは随分心が優しいのね。ですが、詠月が心配する事ないんじゃないんですの?」
「な、なんでだよ」
「〘第2フォーム〙だからよ。魅惑は人間だろうが動物だろうがヴァンパイア並に…いや、ほとんどヴァンパイアになるの。だから再生速度が尋常じゃないわ。」
次の瞬間、道化師が再び殴りかかってきた。マリナは人差し指をクイっと動かす。すると急に道化師苦しみ始めた。首の周りで手を動かしている。まるで透明の縄が首に巻き付いているみた いだ。
刹那、プツンと意図が切れる音がして道化師は苦しむのを辞めた。
「ダメだよぉ。僕のパートナーを虐めちゃ。」
「っ!!紅!!」
「あはっ!その名前で呼ばれるのは久しぶりだなぁ。」
突然現れた白髪の美少年に戸惑う詠月を置いて話は進んでいく。
「それにしてもダメだよ?ほら、凄く苦しそう。」
「そっちから絡んできたんでしょうが。」
「確かにそうだね、後でよく言っておくよ。じゃあね」
「えぇ、二度としないように言いつけといて頂戴。」
そうしてマリナは詠月を抱え、紅と呼ばれた美少年は道化師を抱え真逆に歩き始めた。
しばらく歩くとマリナは無言で詠月を降ろす。
「そういえば!?お、おい!今から橋行かなくていいのかよ!?」
「あぁ、その事だったらもう大丈夫ですわ!!全て解決いたしましたの。」
「俺の努力は何処へ……。」
「それに俺、なんにも理解出来なかったんだけど。」
「あぁ、紅のこと?彼は……私の弟分よ。」
「はぁ?弟分?なんで姉貴分のマリナを敵視するんだよ。」
「ねぇ、詠月。」
「?」
「正義っていくつあると思う?」
「急になんだよ……でもそうだな…人の数くらいはあるんじゃねぇの?」
「分かってるじゃない。」
「だろ?じゃなくて、それとこれでなんの関係があるんだよ。」
「私の正義と彼《紅》の正義が違った。ただそれだけの話しよ。」
「ただ、それだけの話なのよ……。」
「……マリナ?」
その時の顔は、いつもおちゃらけてるマリナの顔ではなく、真剣な、悲しい表情だった。その時の表情は、詠月の頭にしっかりと残ったのである。
□□□
マリナと詠月が話しながら帰っている時、とあるニュースが流れていた。
『速報です。
警視庁の予告無し記者会見がただいま開かれました。LIVEをご覧下さい。』
『え〜……3年前におきた【亜久良研究所崩壊事件】ので、今まで事故だと断定していたのですが、何者かによる犯行であるということが分かりました。来月の辺りに消防と協力し、事件現場へ再び向かう事が決定いたしました。詳しい説明はまた後日お知らせします。危ないので、捜査を始めるまで一般市民の皆様は亜久良研究所には近付かないようにお願いいたします。』
『以上です。さぁ、【亜久良研究所崩壊事件】というのは3年前におきた巨大事故なのですが、それについて……』
少しでも戦うシーンが欲しくて書いてたら凄く長くなりました……。
1つ前の最初の話これから回収しようかなと思います。
そろそろサブの三之マリナの契約事情を作りたいなと思っています。早いと思いますよね?でも!!お正月書きたいんですよ!!!
なので良かったらそちらも見てください( ˊᵕˋ*)
作ったらお知らせ致します。