ゴスロリ少女とヒキニートとどこぞの王子様と
人と人外が契約をすれば、人は超人並みの力を得られる。そんな世界線があるなら、君はどうするだろうか。
喜んで契約するだろうか。遠慮するだろうか。まぁ、人それぞれって言うから、契約しようがしまいが誰も咎めはしないさ。メリットデメリットをよく見てから判断してもらっても構わないよ。
ただ、契約の代償はとても大きくて___。
「あ…。」
目が覚めると、そんな声を漏らしながら天井を見つめる。
また、だ。
また泣いてる。だが、毎回どんな夢だったのか思い出せない。まぁ、あまり気にしてはいないが……。
「もう今年で社会人だろ……。」
鏡に映る自分に向かって話しかける。アルバイトをいくつもかけ持ちしてる生活なんてもうゴメンだ。いい会社に就職して今よりいい暮らしをする、夢なんかで泣いてる暇は無いのだ。
「どっか良いとこ無いかなぁ……」
ため息混じりに呟くと、手元に置いてあるエナドリの残りを一気に飲み干す。
「ぷはぁー!やっぱりデギハンのエナドリは美味いな!」
言いながら後ろを振り返ると、あることに気づいた。
「あ、もうストックねぇじゃん……」
「あっつ……なんでストックが切れるまで気づかなかったんだよ」
そう呟きながら手に持っているビニール袋に目をやる。ビニール袋の中には、キンキンに冷えたエナドリとカップラーメンがゴトゴトと音を立てながら揺れていた。
その時、目の前に女子中学生ぐらいの女の子が真っ直ぐ歩いてきた。今の俺の顔は、たぶん凄い驚いてる顔だとおもう。なぜって__。
その女の子の格好が、ゴスロリ系だったから。
全体的に、赤と黒のゴスロリ系のミニドレスで、高めのツインテールをしている。しかも、黒のレース素材の布で両目が塞がれている。こんなヤバいやつ初めて見たかもしれない…いや、もしかしたらコスプレイヤーとかそこら辺かもしれないからな。偏見は良くないよな、うん。
そう思いながらも避けようと右に行くと、女の子が急に立ち止まり、こちらを睨んでくる。
え?え?え、なに!?俺なんかしましたかねぇ!?
少しというかかなり引いたが、無視して進もうとした__ら、急に、袖が引っ張られた。
驚いて振り向くと、先程睨んできた女子中学生が訳ありな表情を浮かべてオレの袖を掴んでいる。
「え…っと、俺、何かしました?」
「……あ……」
「あ?」
「え……た☆@※」
「!?!?こ、後半何言ってるのか全く分からん…」
こいつ、、、何言ってるのか分からん……海外の観光客が道に迷ったのか?いやでも最初日本語喋ってなかったか?…………
もしや見た目とは裏腹に、かなりの、いや、極度の人見知りじゃないか??後半全く聞き取れんかったぞ……!!
「「…………」」
これは……俺から先に話すべきなのか!?いや、でも話しかけてきたのは向こうだし……実際には話しかけられたんじゃなくて袖を掴まれただけなんだけど……
そのまま数分間の時が流れる。流石に暑い…こんな炎天下でじっとしてるのは無理だ!!!
「あの…近くに涼しいカフェがあるんですけど、話があるならそこに移動して話します?流石に暑いんですが…」
最後の言葉を少し大きくして言うと、少女の体がビクリと震え─。
「……ん…」
カクンと首を上下に振る。
周りから見ると完全にナンパだよなぁ…今どきポロッと口に出したものがセクハラとかパワハラ扱いされるなんてことよくあるから気をつけて話さないと…こんな所で通報されたら就職探しなんてしてる場合じゃないからな。
「じゃあ、『季節の詰め合わせティー』1つで…あ、えと…君は?」
女の子相手に君とか完全にナンパだろこれ…!!!
あの後近くのカフェまで歩いて行った。行く途中めちゃくちゃ注目されてたな…まぁゴスロリ系の服を着た少女が歩いてたら誰だって注目するだろうが…別にそれはいいんだ。いいんだが…
何故俺を見た!?俺が女の子に自分の趣味を押し付けてるみたいな感じで見られてたぞ!?やっぱりあの時無言で立ち去るべきだったのか?いやでも…あそこに残しておくのも悪い気がするし…もうわからん。ここまで来たならもう後戻りはできん、腹を括るだけだっ!
「同じもので…」
少女が呟く。店員が「分かりました!」と少女をガン見しながら言う。まぁ、確かにコスプレイヤーがカフェに来ることなんてそうそうないよなぁ。そう考えてると少女の口が動いた。
「あの…えと…さ、三之マリナと申します!!!」
急な自己紹介。
え今?
「あ、えと、式旗詠月と申します」
「「……」」
話題が、無い。初対面の人に向かって話す事なんて…やっぱ趣味の話なのか?
「素敵な衣装ですね…だ、誰のコスプレですか?」
「コスプレ…?違うコスプレじゃない…」
「え?」
「?」
自身の顔からみるみる血の気が引いていくのが自分でも分かった。ヤバいやってしまった。コスプレしてない人に向かって誰のコスプレですかとか聞くなんて絶対地雷踏んだだろ…。この後どうすれば…
「大丈夫です…毎回間違えられるので。それに…この服も私が望んで着てるわけじゃないですし。」
「え?望んで着てないんですか…え?そういう家族がいるんですか…あ、だから見ず知らずの人に相談を…!?申し訳ありませんがそういう事なら警察に行ってください。俺はそういうのよく分からないんで!!」
「なんで勘違いするんですか…!?妄想がすぎます!私が生まれた時から着てたんですってば!!」
「いやもう何言ってるか分かりませんって!!あ、中二病の方ですか!?他の人をあたってくれると嬉しいです!」
「それも違います!!」
お互いに叫びあって、お互いにとてつもない体力を消耗しているらしい。はぁはぁと見つめ合いながら呼吸を繰り返す。
「はぁ…言わないと誤解が解けそうにないので言いますね、私は、ヴァンパイアです!」
「え、だから中二病の方は…」
「だ・か・ら!違いますってば!本当です!見せてあげましょうか!?」
「え、あ、はい……?」
そう言うと、マリナは目を覆っている布を取り、目を開けた。思わず目を見開いてしまう。なぜなら___
目が真っ赤に光っていたから。
明らかに発光している、カラコンでもこんな光は出ないだろう。見れば見るほど吸い込まれそうなぐらい綺麗な瞳だ。
……危ない。
ドクンと心臓が鳴り、頭の中に警報が鳴る。今すぐ逸らさなければ、頭では分かっていても離すことが出来ない。
「っ!」
やっと逸らすことが出来た。改めてマリナを見ると、驚いた顔をしている。
「あの…大丈夫ですか?」
「え、あ、あぁ……君の…その、目は?」
やっとの気持ちで出た言葉は途切れ途切れになってしまう。……本当に彼女はヴァンパイア……?
「これは私の『魅了』です。なんとなくわかってると思いますが、この事は内密に……。」
口の前で人差し指を立て「内緒」のポーズをする。
「わ、分かった口外はしない、ところでその、魅了ってなんだよ……」
「『魅了』は、ヴァンパイアには全員持っている能力です。1人につき1つは必ず持っているもので、一人一人能力も違います。ちなみに私の魅了は単純な『強化』です。身体、武器、ありとあらゆるものを強化できます。」
単純な強化。
それはとても強いものであり弱い魅了。
そして俺は、今更な疑問をぶつけてみた。
「んで……」
「?」
「何で俺なんかに話すんだ?そんな事。」
マリナは、しばらくキョトンとした後二ッっと口の端を上げ喋りだした。
「だって、貴方、とてつもないオーラが出てるんですもん。人外と契約する価値がある人間なんて久しぶりに見たわ。だから、、」
楽しそうに話したあと少し間を置いて。
「他に取られる前に貴方と契約したいと思って。」
さっきまでのオドオドとした様子は一切見せず、逆に余裕たっぷりな笑みを浮かべている。
「は?契約……あいにく、俺は今そんな事やってる暇はないんだ」
バカバカしい、内心でそう呟いた。
「そうですか…………ところでその痣、治さなくていいんですか?」
俺の右肩を指して言った。
「っ!!お、お前に関係ないだろ……」
とっさに隠そうとした時に気付いた。右肩は服で隠れている、ならマリナはどうやってこの痣を見たのだろう。
そう、俺の右肩には痣がある。波のような爪痕のような痣だ。そのお陰で、小さい頃から忌み子だ悪魔だと言われ続けたが。いや、今そんな昔話を語っている暇は無い。何故見えるはずのない痣が彼女には見えたのだろうか。
「お、お前……なんで見えた……?」
「簡単なことですよ、単純に目を強化させて千里眼にしただけです。」
マリナは「当たり前」の用に話す。
「っ!!おいおい……強化ってそこまで出来るのかよ……。……ところで、お前さっき言ったよな?治さなくていいんですか?って…この痣はどの病院に行っても治せなかった。治し方を知っているのか?」
先程から笑顔を崩さないマリナが口を開いた。
「はい、私と契約すればいいんですよ。」
「いや、だから契約は__」
「ハッキリ言いますと、治す方法はこれしかありません。そして治せるのは私しか言いません。」
表面では笑顔だが、その裏には微かに苛立ちのような圧もかかっていた。
「……本当に、お前と契約しなきゃ治らないのか?そもそもこの痣はなんなんだよ。」
イラついてるのはこちらだ、という圧もかけながら問いかける。
「それは__!!なっ!?」
「__!!」
「なんでっ!?」
「お、おいマリナ、どうしたんだよ?」
「わかんない!!」
明らかにモヤがかかっている。マリナが「その言葉」を喋ろうとすると声が綺麗に隠れる。
「おいおいマリナ、君は彼になんて事を言おうとしたんだい?」
不意に、後ろから男の声がする。
「!?」
「あんたか、ヴァルス……!!」
「だ、誰だよあんた……」
振り返ると、どこぞの王子様の雰囲気を漂わせる茶髪の男が立っていた。マリナは威嚇するが、俺は全くの初対面だ。本当に誰だよこの優男みたいなやつは……
疑いながら見つめてると、こちらに挨拶してきた。
「初めましてかな詠月君?ところでマリナくん、君は馬鹿かね?」
「っっ!承知の上よ!!あんただって悪趣味なことするわね、私の後をつけるなんて。」
「悪趣味?誤解だよマリナくん、僕はただ詠月君に変な事を告げ口しないか見ていただけさ」
「それが悪趣味だって言ってんのよ!!!」
マリナはそう言ってヴァルスと呼ばれた男に向かって手元にあった紅茶の入ったカップを投げた。横から店員さんの「お客様!?」という半悲鳴の声を無視して。
「いつも気品な君がどうしたんだい?」
紅茶をかけられても動揺せず、変わらず笑顔のまま甘ったるい声で語りかけてくる。ただ、目は一切笑っておらず、逆にメラッと炎が灯ったようにも見えた。マリナに関しては、最大限の殺意をヴァルスに向けている。
ヤバい。
この二人が、今この場で本気の喧嘩を始めたらどうなるだろうか。明らかに店が壊れるだろ……どうすればいいんだよ……
気まぐれに書いて投稿するので、不定期です。
どうぞ三之マリナの契約事情をよろしくお願いします。