プロローグ 「暗闇に消えた叫び声」
西南 北です! 新作です! よろしくお願いします!
20××年、某所。俺は車に轢かれて命を落とす。それが偶然だったか故意だったかどうかは分からない。ただ、これだけは言える。
――俺は確実に死んだのだ。
「……よっし、コンビニでコーヒーも買ったし、これで思う存分受験勉強に集中できるな」
明楽夏樹、受験生。ずっと憧れてきた大学の受験に合格するために日々勉強に励んでいる。今は切れていたコーヒーを購入して、帰路についたところだ。
「やっぱこの時間帯だともう結構暗いんだな……お気に入りのやつなかったからもう一軒行こうと思ってたけど帰った方がいいか……」
時刻は午後の八時。人通りが少なく、開いているお店も少ないここ一帯はなんだか妙に静かで、不気味な印象を感じさせる。
「まあいいや。勉強の気休めにちょっとそこらへん散歩でもしていこうかな」
俺は疲れていたので、散歩を始めることにした。運動なんかは嫌いだが、この夜の独特な雰囲気は個人的に好きだ。自然と安心感を感じる。
「あーやっぱ落ち着くわぁ……いつまでもやってたい」
疲れ切っていた俺は、自分の足に任せるようにのらりくらりと散歩を続けていた。すると近所の大通りに差し掛かった。
「おっと、ちょっと危ないけど、どうせここらへん車なんかもこないし行っちゃおっかな」
安易な気持ちで大通りに足を踏み入れた俺は、後にこの選択を後悔することになるということを知らなかった。
「夜のここ新鮮でいいなー……ってうわッ!」
「痛っ……なんだよこれ……」
暗闇に隠れてよく見えないが俺は石のようなものに足を引っかけて盛大に転んだみたいだ。膝から血が出てきているのが分かる。
「うわ結構血出てんなー……最悪――」
――そのとき、大通りに一人の男の悲鳴と、強烈なブレーキ音が鳴り響いた。
*
「…………ぁ」
ぼんやりと俺の体に五感が戻り始める。目の前に何か黒い物体があることが分かった。
「――ん! 東さん! 東 奏斗さん! 起きてください!」
「……ん? えっと」
意識がもうろうとしているなか目を凝らす。俺は今、椅子のようなものに座っていて、隣では十代後半くらいの少女が俺の肩を一生懸命揺らしていた。
「ようやく起きたんですね、東さん。早くやんないと仕事終わりませんよ! まったく……子供じゃないんですから自分の仕事ぐらい自分で管理してくださいよ」
少女が飽きれたような顔つきでこちらを見つめている。首には名札のようなものをかけていて、そこには、涼風 伊織と記されていた。この少女の名前だろうか。となると俺も名札をかけているのではないか、そう思い俺は自分の首に手を伸ばした。
「あ、東 奏斗?」
俺の名前は、明楽夏樹だ。この事実は絶対に変わらない。なのになぜ――
「はい。あなたの名前は東 奏斗ですよ。それがどうしたんですか? 大丈夫ですか?」
これはいったい……たしか俺は、夜に町を散歩しててそして……車に轢かれたんだ。ということはここは病院? いやそんなわけがない。俺の名前が当たり前のように変わっているのもおかしい。
「えと涼風さん? 俺は何をすれば……」
「涼風さん……? まあいいや。東さんは次のゲームの参加者の情報をまとめればいいんですよ」
「ゲーム? それはなんだ?」
「そりゃあまあデスゲームですよ。これなんですか? 私をからかってるんですか?」
"デスゲーム" 漫画や小説などでよくその言葉を耳にするが、現実世界でそういったゲームが開催される、なんていったことは聞いたことがない。
しかもこの少女の言い方だと、まるで俺が"デスゲームの管理をしている"みたいに聞こえるじゃないか。俺は正真正銘ただの受験生だ。もちろんデスゲームなんかに関わったことはない。
「ほらそんなんだとクビにされちゃいますよ。この前言ってたじゃないですか。この仕事に就くためにずっと努力してきた。だから入れたときはとても嬉しかった、って。クビになったらその努力も全部意味なくなっちゃいますよー。ふふっ」
その言葉を俺をなんとも言えない気持ちにさせた。
普段は「拳で繋がる僕と姉」という小説を書いてるのでそちらも読んでいただけると嬉しいです!