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2章 「奴の名はマンティス 2」

 次に鎌足が目を覚ましたのは、どこかの廃ビルの中だった。寂れた部屋の雰囲気と埃の煙たさ。


 彼が起き上がって周りを見ると、そこには紙煙草を吹かす青年がいた。その青年は何か鎌の様なL字型のヘアピンを前髪に付けて、スーツを着崩している。


「ふうー! ははは。煙草は美味いなあ! 全く、人間が退廃するのも分かるよ」

「……君は、誰だ?」


 鎌足は警戒しながら聞く。ここがどのなのかも分からないが、そもそも彼が何者なのかも分からない。全てが不明だ。


 そもそも鎌足自身、何故あんな化け物に変態して、また別の化け物を追い返したのか分からなかった。


 原因は何となくわかっている。意識不明になった時、夢の中で話した内容だ。だがあんな事が本当に……?


「おや? 分からないかい? 俺のこの声を聞いても? ……うーん、そうか。……俺の名はプレイ。プレイマンティスだ」


 その青年は足で煙草を踏み潰すと、そう言った。


「……プレイ……マンティス」


 マンティス。やはりそうだ。夢の中で聞いた事と同じなのだ。


 あの夢は正夢所では無かった。今まさしくその話し相手がここにいる。


「思い出したか? そうだ。俺がお前の救世主。どうだ? 少しは感謝する気も芽生えたかい?」


 プレイは恩着せがましく言う。だがそんな事を言われても今の鎌足はあまり頭が働いていない。


「……あー。……ああ。……で、君は……何故僕を……」

「……お前が無茶するからだよ。全く。……いいか。よく聞けよ真也。今のお前には、俺の細胞が埋め込まれている。マンティス族の細胞だ。お前の気分の高揚で確かに素体には変身できる。だがな……お前はあの時下手し死ぬ所だったんだぞ」

「……え」


 急にとんでもない事を鎌足は言われて焦った。……まさか、こんな事でまた命を危険に晒していたなんて。


 だがそれも、あの時は仕方ないと思っていたのだが。


「これからお前は何回もあんな怪物……ワイヤーワーム族と戦わなくてはいけない。それこそお前は俺達マンティス族の希望なんだ。むざむざ死なれては困る。……だから」


 するとプレイは懐から彼のヘアピンと瓜二つのL字型の鎌の様な道具を取りだし、鎌足に渡した。


「……これは」

「名付けて、『マンティスシックル』。今度からはこれを使って戦え。変身する時、『チェンジ・マンティス』と言え。するとこのシックルが起動する。それを胸にかざせばいい」


 鎌足はそのマンティスシックルをまじまじと見つめる。硬い感触で、何か大きな力を感じる。


「……」

「これを使えば、暴走する事も無いし、体力の無駄な消費も無い。……さあ、立て。行くぞ」


 すると、プレイはまた煙草を箱から取り出して、ライターで火をつけると咥えて歩き出した。鎌足は訳も分からず彼について行く。右手にぐっとシックルを握りながら。



 プレイはずんずん階段を昇っていく。そして重そうな扉を力も入れずに開けた。扉が軋むのを聞きながら。


「……うん。ここなら丁度いい」


 そこはビルの屋上だった。辺りから察するに、大学からさほど離れた所では無さそうだ。


 二人は柵の近くに立って、風の音を聞いた。


「……いいか、真也。お前が相手したワームがまた人を襲っている。……人の悲鳴、そしてワームの鳴き声をよく聞け。今のお前なら出来る筈だ」


 プレイの声に従って、鎌足は耳を澄ます。……先程まで自分は人間だったと思っていたのに、今になって急にその実感が無くなった。


 自分は人間ではなく、人では無い何か。……マンティス族とか言われる謎の化け物共の細胞を埋め込まれ、化け物の仲間になった。


 そして、また化け物と戦わなくてはいけない。

 だが鎌足の中には確かな決意があった。


「……こんな力が何であれ、僕は生かされたんだ。……なら、皆の平和くらいは守らないと」


 すると、鎌足は人の悲鳴を聞いた。眉をひそめる。


「……聞こえたか。……さあ、行け!」


 プレイは鎌足にそう言った。鎌足はそれに従ってシックルを右手に握ると、右腕を正面右に突き出した。


「Change.」


 シックルから声が聞こえた。それに合わせ鎌足はそれを左に向けて流していく。


「……チェンジ、マンティス!」


 そして、シックルを胸にかざした。


「Mantis.」


 その瞬間に鎌足は身体の全細胞が迸っていくのを感じた。心臓が今までにないくらいのスピードで鼓動し、鎌足の身体は完全にマンティス属の何かへと変わっていく。


 シックルをかざした胸辺りから緑色のマンティス細胞による血液が流れ出て、鎌足の身体を刻々とマンティスの硬い骨格へと変化させていく。


 やがて、鎌足の身体は人間の物では無くなった。黒い皮膚に、緑色の硬い赤い傷が付いた筋肉が張り付いて、腕と脚には稲妻模様が走っている。


 そしてその頭は完全に人の物ではなくなっていた。緑色の複眼に、鋭い牙。そして上に二本の触覚が生えている。


「ははは……。その傷も、俺と同じ物……。やはりそうか……。……お前の名は、『インセクターマンティス』だ!!」


 それを聞くとマンティスはばっとビルから飛び降りた。悲鳴の元へと向かうのだ。


「……ははは。人間が纏うマンティスの皮膚。……面白い」


 そう言うと、プレイは煙草の煙をまたふうっと吐いた。強い風が吹いている。

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