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あの雨の日に  作者: 月見猫
2/2

日常

 入学初日から1週間がたった。

 入学初日以降は傷だらけで紬登校してくることも無く、クラスではある程度グループが固まり、紬自身はどこのグループにも入らず、必要な話以外はしなかった。一方莉愛は、特定の女子グループに入りある程度仲良く接しているようだった。ただしそれでもクラス内で話すことがあるのは変わりなく紬と莉愛は適当に話していた。


「にしてもお前いいのか?」

「いいって?」

「グループ入ったのに誰も話しかけてこない俺のところにいて」

「話しかけてこないのは紬のせいでしょ、それにあくまでクラス付き合いだよ」

「表面上だけってことか、そんな付き合い意味あるのか?」

「女子の中では色々な情報が回るからね、嫌われないように立ち回るためにも一番情報集めがしやすいんだよ」


 それをクラス内で言うか、と思いつつも紬にのみ聞こえる声で言ったため何も言えない。とはいえずっと小声で話しているとそれはそれで怪しまれると言って莉愛は紬の元を離れグループに戻って行った。


「嫌われる、か」


 その言葉を思い出しながら紬はなぜ嫌われることがダメなのかと考えていた。

 考えを深めているといつの間にかチャイムが鳴り担任の声が響く。


SHR(ショートホームルーム)だ、席に着け〜」


 そう言われると立っているクラスメイトは慌てて席に戻る。


「今日は役員決めをするぞ、めんどくさいから適当に決めておいてくれ」

「先生がそれでいいんですかー!」


 そんないじるような言葉が出るが担任は無視して本を読んでいた。


 生徒陣で話し合いをし、前期の役員が決まった。

 意外なことに紬は図書委員に立候補し、他に候補者が1人しかいなかったためそのまま決まった。もう1人の方は渋い顔をしていた。

 莉愛はルーム長を推薦されたがそれを断り生活委員になった。相方の男子は嬉しそうな顔をしていたらしい。


「にしても意外だね、紬が役員立候補するなんて」

「成績をまともに取れると思ってないからな、役員ぐらいやっておいた方がいいだろ。あと噂で楽って聞いたしな」

「まともな理由じゃないね」

「そんなもんだろ、それを言ったら莉愛も莉愛だろ」

「私立候補するのそんなに意外だった?」

「お前もお前でめんどくさいの嫌いだろ」

「確かにそうだけどやっておいた方が先生からの印象も良くなるだろうしね」

「ならルーム長やればよかったんじゃないか?」

「それはさすがにめんどくさかった」

「お前のめんどくさいの基準がよくわからん」


 そんなことを話していると隣のクラスから彩月がやってきた。


「あ、彩月ちゃん!生活委員なった?」

「なりましたが…なぜ生活委員なんですか?」

「特に理由はないよ、ただそこまでめんどくさくなさそうなやつ選んだだけ」

「お前、立候補した理由の中に佐藤とやりたいからって言うのも大きかっただろ」

「バレた?」

「そりゃな。にしても佐藤はそれで良かったのか?」

「私も特に入りたいと思う役員もありませんでしたし大丈夫です」


 全員ある程度目的があって役員に入れたことに安心しながら残りの授業を受けた。


 放課後、いつものように雑談しながら帰っていると彩月が疑問を口にする。


「そういえば紬さんは家に帰ったら3、4時間ほど部屋にこもりますよね、何かしているんですか?」

「特に特別なことはしてない、ちょっとした情報収集だな」

「情報収集って何のー?」

「何のだろうな、そこは頑張って考えればでてくるんじゃないか?」

「教えてはくれないんだね」


 そんな会話をしていると家に着く、紬はさっき言われたのと同様に部屋にこもり、莉愛と彩月は引越し荷物を片付けるのを少し放置していたため雑談しながら残りを終わらせる。


 夜ご飯の時間になり、紬が降りてきて料理を始める。


「今日は何〜?」

「作り終えれば分かるだろ、というかいつも聞くよな、それ」

「美味しいし気になるんだもん」

「それは同感ですね」

「お前らも料理ぐらいできた方が便利だぞ」

「私に料理が出来ると思ってるの?」

「ドヤ顔して言うことじゃないからな」

「それでも紬さんの料理技術は凄いですよね」

「小さい頃から料理してたからな」


 紬の料理はそこら辺の店とは比べ物にならないぐらい美味な料理であり、彩月は料理が一般的な家庭のこの歳の子供というのだけをみればできる方であり、紬からしたらできない方と言うだけである。ちなみにドヤ顔していた莉愛は紬が付いていてどれだけ料理の手順や材料のグラムがあっていようと見せられないような食べ物が誕生する。


 紬の料理事情について話していると、美味しそうな匂いをした料理が運ばれてくる。内容はご飯、ハンバーグ、豚汁だった。


「…」

「どうかしたか?」

「量の調整も完璧ですよね」


 彩月がそう思うのも当然で、一人ひとりお皿を見ると量が違く、その量もその人に適した量であった。


「いつものことでしょ〜」


 と莉愛は軽く流すが、たった1週間でこの把握力があることを目の当たりにし、彩月は敬意を通り越して恐怖を覚えた。


「何かあったか?」


 違和感に気づいた紬が彩月に問いかけるがそれに答えることができるはずもなく沈黙を返した。しかし彩月は沈黙を返しても何を考えてるかが理解されてるような気がしていた。


 その後何とか持ち直しご飯を食べ終わったが、その日は紬だけでなく莉愛まで自室にこもり出した。やることのなくなった彩月は莉愛にメッセージを送り会話をしだす。


「何かしているんですか?」

「特別なことはしてないけど…強いて言うなら紬が何してるか気になったから見つけられないかなって」

「あの人は何者なんですか?」


 そのメッセージを見た莉愛からの返事は10分程度来ることは無かった。

 10分後、来たメッセージにはこう書いてある。


「ただの人間、何者でもないよ」


 彩月はメッセージに対して不信感を持つ。ただの人間、何者でもないと言うなら別に10分も既読をつけて考え込むことは無い。しかしそれを深く問うことは躊躇われたので何も聞くことは無かった。



 翌朝、なにかの前兆かと思うほど雲ひとつ見えない晴れの日が続く。


「にしても本当に暑いな」

「仕方ないでしょ、雨が降って蒸し蒸しするよりはいいと思うけど?」

「それはそうだが、暑いのに変わりは無い」

「…」


 会話の最中も彩月は昨日のメッセージ会話について考えていた、よくその人をみればその人が少し隠そうとしたところである程度の本性は見える。しかし紬はいくら見ても何も見えることは無かった。

 考えていると目の前に紬と莉愛の顔があった。


「どうかした?」「どうかしたか?」

「いえ、少し考え事をしていただけです」

「そう?何かあったら相談してね〜」

「ありがとうございます」


 普段は優しいと思える言葉ですら特定の人物が言うだけで恐怖の言葉ともなり得る。

 会話を聴きながらも考えているとすぐに学校に着く。


「別クラスだからここで一旦お別れかな?」

「そうですね、また放課後お願いします」

「固すぎない…?」

「あと半年ぐらいはこの調子と思った方がいいかもな」

「そっか…」


 莉愛は少し残念そうな顔をしながら彩月に手を振り教室へ向かった、教室に向かうと既に紬が座っていた。


「ねえおかしくない?」

「何がだ?」

「さっきまで隣にいたはずだよね?」

「何か落ち込んでる間に来ただけだが」


 これも特別珍しいことはなく、紬は1秒でも目を離すとまあまあ離れた位置にいる。それだけ聞くと危なっかしい子供のようにも聞こえるが紬の場合は少し話が違う。莉愛も人の気配にはかなり敏感な方であり、普通なら半径10mにでも入れば誰であろうと気づく。しかし紬は莉愛がどれだけ気を張り巡らせている状況であろうとそれをくぐり抜けて近づいたり離れたりする。まるで忍者のようだ。


「その隠密行動やめない?」

「別に隠密してる気は無いんだけどな」

「私だって人の気配には結構敏感なんだよ?」

「俺に気づけないのにか?」

「紬がおかしいの!」


 そんなことを話してると周りが笑っているのに気づく。


「なんか話してると笑われること多くなったな」

「それネタにされてるだけだから」

「別にいいんじゃないか?」


 そう言われると彩月は少しむっとしながらもSHRが近いため席に着く。本当に表情豊かだな、と思いながらも紬は前に向く。

 前を向くと担任が教室に入ってきた。


「ほらSHR始めるぞ〜、まだ席に座ってないやつ早く席に着け〜」


 その言葉と共に騒がしかった教室は静かになり担任の方を向く。


「お前ら1週間経ってるのに本当に変わらないな…」

「先生にとって1週間は1日じゃないんですかー?」

「やかましい!」


 じゃれあいを終え担任がごほん、と咳払いをし今日の日程の話をし終わるかと思ったが最後に、と先生が付け足し連絡をした。


「最近ここの隣の都市、まあみんな知ってる通りスラムを越して政府が手をつけられなくなった都市『狂徒市』で死者が増えたりそこから出てくるのもいるみたいだ、帰りとか外行く時間襲われないよう注意するように」


 以上、と切り上げて担任は教室を出る。それと共に教室が再び騒がしくなる。


「狂徒市ってどんなところなんだろうね」


 狂徒市、それは担任の説明の通り政府すら諦めたスラムの成れの果て、しかし狂徒市の情報はほとんどなく、調査に行った隊が必ず戻ってこないため諦めた都市である。


「でも行ったら最後、二度とは戻って来れないっていうのは聞いたことあるよ」

「国の精鋭部隊が入って誰一人として帰ってこなかったんだもんね」

「あの地で帰ってきたり出てきた人いるなら会ってみたいよね〜」

「「ね〜」」


 冗談交じりに話すが生還した者がいればテレビや新聞にでも乗ることだろう。

 そんな話が盛り上がっている中1時間目の授業の先生が入ってき、話をさえぎり授業を始めることによっていつも通りの時間が始まった。

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