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あの雨の日に  作者: 月見猫
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入学初日と少女

「あの人、傷だらけだけどどうしたのかな」

「喧嘩でもしてきたんじゃないの?」

「傷さえなければ温厚そうな人だけど」

「人は見かけによらないって言うしねぇ」


 そんな噂の立つ入学式初日、噂通りの傷だらけの少年がクラスに入る。傷だらけということもあり、喧嘩するほどガラの悪い人なのかと怖がる者が多くいた。

しかし殴り合いの喧嘩なんてほとんど起きないこの時代に殴り合い?と興味を持ち話しかける者もいた。


「ねぇ君、その傷どうしたの?」

「噂通り、喧嘩してきただけだ」

「君って喧嘩強いの?」

「知らん。用が済んだなら今後近づかないでくれるか」


 少年は人と絶対に関わらないという意思を持っているのか、近づく者の全てを拒絶した。ただ1人を除いて。


(つむぐ)〜!って怪我どうしたの!?」


 元気そうに少し驚きながら話しかけてきたのは白色で長い髪をし、黒色の目をした少女だった。


莉愛(りな)か、見ての通り喧嘩してきただけだ」

「昔からいっつも喧嘩してるよね、そろそろ控えようよ」

「相手が吹っかけてくるんだから仕方ないだろ」


 少年、紬は莉愛という少女には表情を変えながら拒絶せずに話していた。それを見ていたクラスメイト達がざわつき始めた。最初の拒絶からして、それを咎めるものと思う者も多かったが特に何も言われなかった。


「初日からあらぬ噂が立つなんて、大変なもんだな」

「誰のせいか分かってるの?」

「誰のせいだろうな」

「その顔、絶対分かってるでしょ!」


 その仲のいい会話に微笑ましさを覚える者や異質感を覚え恐怖を感じる者も多かった。



 放課後、紬が莉愛と一緒に帰ろうとすると廊下で莉愛が話をかけられた。


「有川さん、少しよろしいでしょうか」


 声のした方を見てみると、そこには茶色で短い髪をし、黒の目をした少女がいた。

 ちなみに有川は莉愛、時雨は紬のことである。他クラスにも名前が伝わるほど噂が広がっていたことに驚きながらも紬は莉愛と目で意思疎通を交わし、紬が去る。莉愛は不服そうな顔をしながらも話すための表情に切り替えて茶髪の少女と話を始めた。




 家に帰ると紬は引っ越し荷物の整理をしていた。

 紬と莉愛は昨日この家に引っ越してきたばかりで、荷物の整理が全く終わってなく、ダンボールで埋め尽くされた部屋があるからだ。


「しっかしこれ何日かかるんだよ…ばあちゃんが言ってた同居人2人目も昨日は居なかったしよ。まあいいか、さっさと片付けるに超したことはないな」


 荷物の整理をすること30分、いきなりスマホが鳴った。確認するとそれは莉愛からのメールだった。


「紬、なんで先帰っちゃうのさ」


 そんなことでメールしてきたのか、と思いながらも適当に返す。


「なんでって言われても。女子同士の話な気がしたのと、長くなりそうだったからだな」

「実際そうだったけどさ、学校前でも待ってくれれば良かったのに」

「めんどくさい」


 最後に怒ったような顔文字が送られてきたと思えば今度はインターホンが鳴った。押した人物を見てみると、廊下で莉愛と話していた少女がいた。


「何の用だ」

「有川さんから時雨さん本人に聞いた方が早いとの事でしたので質問を3つほどいいですか?」

「答えるかは知らんがそれが終わったら帰るなら。」

「それはもちろんです」


 意図も何も分からない少女を訝しむように見ながら質問を聞く。


「1つ目ですが、あなたは私を知っていますか?」


 意味深な質問をしてくる少女に、紬は首を傾げて否定する。


「知らん。お前のことはさっき知ったばかりだ」

「そうですか。そしたら2つ目の質問です、あなたは有川さんをどう思っていますか?」


 少し悲しそうな顔で2つ目の問いを投げる少女を横目に普通の質問か、と安堵しながらも言葉を返す。


「9年前からの友達。それ以上でもそれ以下でもない」

「それでは最後の質問です。あなたは元々ここに住んでいましたか」


 何故それを聞くのかと思いつつもとりあえず言葉を返す。


「ノーコメント。これで質問は終わりだったよな?帰れ」

「ありがとうございました」


 そういう少女は満足した表情を浮かばせて帰って行った。だがそれはどこか懐かしさを感じさせた。


 帰ったのを見て紬はすぐに莉愛にメールをした。


「莉愛、あの茶髪に俺の住所教えたのか?」

「え、教えてないよ。なんで?」

「俺の家に茶髪が来た」

「なんであの子は紬の住所を知ってたんだろうね…」


 そんなことを考えていたが、紬の住所が知られていることはそう珍しくない。荷物の整理を再開する前に一息、そう思って振り返るとそこには茶髪の少女が立っている。


「帰れと言ったはずだが」

「ここが私の家なので」

「何言ってんだお前」

「保護者の方から聞いていませんか?」

「なるほど、お前が同居人の2人目か」

「察しが良いようで、その通りです」

「だったらさっき最後の質問要らなかっただろ」

「気分です」

「あとなんで莉愛は同居人だということを知らないんだ?」


 そう言ってさっき送られてきたメッセージ画面を見せる。


「そういえば私が同居人だとお伝えするのを忘れてましたね、というより前もって顔写真を貰っていませんでしたか?」

「貰って次の日にはゴミ箱の中にあったな」

「そこまで興味無いのですか、一応同居人ですよ?」

「ただ同じ家に住む程度で大袈裟だ」

「しかし学校と比べて雰囲気が少し柔らかいですね」


 紬はその言葉と今の自分の態度に驚きと疑問を持ちながらも平静を装い同居人だからじゃねぇの。と返す。


「先程ただ同じ家に住む程度と言ってましたが」

「細かいことはいいんだよ」

「ふふ」


 心の底からその会話を楽しんでいるように見える少女に疑問を持たない紬ではなかったが、この場で、しかも今日会ったばかりの少女にその質問を投げかけることは無かった。




 それから30分ほど経ち莉愛が帰ってきたため3人で昼食を取りながら自己紹介等を済ませていた。

 茶髪の少女の名前は佐藤彩月というらしい。


「ねね、色々聞いていい?」

「1回話しただけで大分距離近くなったな」

「女子は1回話したら仲悪くなるか仲良くなるかだよ」

「大体の人間そうな気がするが」

「質問に関しては答えられる範囲であれば大丈夫です」

「そしたら…彩月ちゃんはどこに住んでたの?」

「孤児院です」

「ごめんね、不用意だった」

「いえ、そこまで気にしてませんので」


 その言葉を聞いた俺は嘘のような気がしてならなく、気づけば小さく呟いていた。


「…嘘だな」


 そういうと彩月は驚いた顔をしていた。それも無理は無い、初対面、さらに表情を1度笑った時以外は表情を変えずに何に関しても見抜かれないように徹して話していたのに嘘を見抜かれたからだ。

 嘘を見抜かれた彩月は動揺を隠しきれない様子で質問を投げかけてくる。


「なぜ、そうおもったんですか?」

「人を見るのは得意だとだけ言っておこう、その中でも分かりやすかったが」

「一言余計ですがある程度理解しました」

「この話はここで終わりだ」

「嘘って言うのは気になるけど…彩月ちゃん、今日から一緒に暮らすんだよね」

「そうですね」

「だったら敬語やめてタメで話そうよ!」

「これは小さい頃からの癖ですので、直すのは少々時間がかかると思います」

「それでもいいからさ、いつかタメで話せるようになって欲しいな」

「分かりました」


 これが女子の距離の縮め方かと思いながらも昼食が終わり、紬達は各々決めた部屋で荷物を整える。

 この家は二階建てであり、紬の部屋は2階の一番奥、莉愛の部屋は1回の1番奥、彩月の部屋は莉愛の部屋の隣となっていた。


「彩月ちゃん、一緒に寝よ?」

「お帰りください」

「別にいいじゃん、寝ようよ」

「…本当に寝るだけですか?」

「お話しようと思って」

「分かりました、話して眠くなったら寝ましょうか」


 そんな大声でもないのにうっすらと声が聞こえてくる。この家の防音性低すぎだろ、と思いつつも紬は寝ることにした。

 

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