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D o L −ドール-  作者: 雨月 そら
14/20

step.14 アリスの知らないSEKAI 1 screen

 真っ暗闇の中、にや~ぁと、道化のように目が逆三日月に細く、裂けんばかりに口角を上げ、不気味に笑う青年がいる。

 なぜか、その青年の顔の表情と、金ピカのレトロな海賊望遠鏡は、くっきりと見える。

 後はぼんやりとしか見えないが、その青年は、胡座をかいていて、片方だけ足を立てて、立てた膝の上に腕を乗せて、その手はなぜか、Vサインみたいで、もう片方は金ピカのレトロチックな海賊望遠鏡を握って、どこかを見ている。

 どこを覗いているか、といえば、〈ここ〉、ではない、どこかを覗いていたが、誰か、に見つかったらしく、海賊望遠鏡を、左目から手早くパッと外し、その青年の手からも離れ、宙を舞うシャボン玉のように消えた。


 「...んっ...やぁっぱり、せっっま!!」


 青年は、胡座をかいていた方の左足を立てると、乱暴に何かを蹴り飛ばした。

 金属の鈍く凹む音と共に、パカっと小さな扉が前へ開いた。というより、吹っ飛んだ。

 青年は、右肩に左手を置いて、首を軽く回しながら、そこら出てきた。


 「あぁーーーー!!!外は、Eーねぇ」


 さっきとは対象的に、前面、真っ白い部屋。

 青年は手を組んで腕を、真っ直ぐ上に伸ばしてから、手を離し、ぐるぐる両腕を回した後、両手をパアンと鳴らして、合掌する。


 「急、でやんすねぇ。わっち、さっきまでこき使われて、やっと一息、おこーちゃでも頂こうと思ってたんですよぉ?まか、〈ロキ〉様がぁ、お行儀よぉく、現れることは皆無なので、通常運転とぉー、言えば、言えなくないですけれどもぉ。できればぁ、先に連絡頂けるとぉー、わっちが助かるんですわぁー」


 黒光する球体と、破損して転がっている扉以外、何もない部屋に、急に扉が現れ、開いて出てきたのは、〈時計ウサギ〉で、面倒臭そうに、変な言葉を繰り出しながら、ほぼ愚痴るように言った。


 「僕が、来た意味。それはぁ?」


 ロキは腕を組むと、にやぁと、嫌な感じで笑っているが、目が、全然笑っていない。


 「あぁぁぁ、はいはいはいはい!ラダ、ラジャ!嫌、嫌、嫌、その目、ウサギの丸焼きなんて美味しくないんですしぃ、仮にも〈神様〉なんですねんからぁ、〈神使〉を食べぇたーら、アカーン、思うんですぅわぁー」


 「でさぁ?この、○UNTER×H○○○○○のヒ○カの衣装と、髪型を、コスプレしてみたんだけどさぁ?どぉ?」


 「いや、キメポーズされてんもぉ、再現性なんら、まんまできるんです、かーらぁ?どうぉもこぉもないんですケンドォーも?まぁ、似合ってるんじゃぁ、ないんですかぁ?イカれ具合、も」


 二人の間に一瞬の間があったが、時計ウサギが、機敏に、突然現れた扉に、飛び込んで逃げ、バタンと、勢いよく音を立てて扉を閉めたので、何事も起こらなかった。


 時計ウサギは、真っ白で何もない廊下を忙しく飛んで行き、一つの扉の前、檳榔子黒色(びんろうじぐろ)の大蛇の絵が描かれている扉を、ゴンゴンゴンと、勢いよく、五月蝿く叩く。

 ノックに反応して、扉は自然と開き、時計ウサギは中へと入った。

 目の前には、大きな、大きな、向こう岸が見えないほどの大きさの湖が、広がっている。


 「ナリ様!ロキ様がぁ、お呼びぃでぇすよぉ!」


 時計ウサギは、ピンク色の小さめなメガホンを、両手に持って口に付けると、そう怒鳴ったのだが、聞こえてきたのは、可愛らしい声で部屋中に反響していて、あまり迫力がない。


 「えぇーーーーーーー。しぇからしか」


 「え?なんですんかぁ?聞き取りぃ、辛いんですんわぁ!」


 「ちっ、しぇからしかね」


 パチンと、指を鳴らす音がして、時計ウサギは、大きな湖の、ど真ん中に移動。

 そこには、三メールのモビルスーツが水を両手ですくうようなポーズをとって、仁王立ちし、その掌の上に、小さな青年と、横並びになって座っていた。


 「まず、そん変な喋り直しんしゃい。時計ウサギん役目ん時は、まともに喋れとーばい」


 「急に、博多弁なるん人に、言われたぁないですんし」


 「七人でゲーム中と。方言縛り、最高コスは誰やゲーム。で、気狂い(きちがい)が来たっちゃ?欠席じゃ、つまらん?やなんばいね」


 「私、しにとぉないんで。強制連行、しますんよ?」


 「うぅーん......じゃ、勝っとったら、行っちゃるばい」


 「ほい、釣竿」


 投げて寄越した釣竿は、いかにもオンボロそうな竹竿の釣竿。それに対して、ナリの釣竿は、カーボンファイバー製で、グリップがぐるぐる巻きにされ、先端には赤い球と、ルワーが付いている。明らかな、不正、ハンディキャップ。


 「でぇ、何ぉを釣るんでぇ?馬鹿でかぁい、もんは折れるんでぇ、無効ぉですんよぉ」


 時計ウサギは、長い長い釣り糸を手際よく湖に落とす。

 よく見なくても、湖には数多に獲物が、ゴロゴロ転がっている。

 紫の巨大な汎用人型決戦兵器が、犬神家の一族みたいに両足だけ出てたり、どうやって浮いてるのか、青の猫型ロボットは顔半分だけ出て、その頭の上には、赤い小さい星が一つ付いた、黄色の垂れたウサミミみたいな帽子を被った、丸っこく、小さな、緑色のよく分からない生き物がいたり、ボディが真っ赤な口の横に二対の金の髭があり、背ビレと腹ビレも金色のでっかいコイがジャンピングして、その頭の上には、黄色い体に、茶色い模様が背中に二本入った、耳と尻尾が長く、尻尾が雷みたいなネズミと、橙色のまんまるの小さいチェーンソーと言っても、目と口が付いて、短い足が四つ、短い尻尾まである変な生き物が、キャキャと楽しそうに飛び跳ねているし、肌が真っ白な、巨大なペンギンのような、違うような生き物は、丸みを帯びたクチバシで魚を咥えているし、そのペンギンもどきの掌の上には、目玉にスッポンポンの小さな体が生えた生き物や、黄色いメス小ライオンに、背中に羽が生えた愛嬌がある小さな瞳の生き物や、太々しい顔のまんまる三毛猫のようで違うような生き物が乗っているし、まんまるの水色に真ん中ピンクで、白バツデザインの大きな帽子を被った巨大な茶色の雄鹿の頭の上に、大きな魚を抱えてご満悦な、水色で尻尾の先端だけが白い猫と、つぶらな瞳のピンクの子豚と、ゴマフアザラシの真っ白な子供が乗っかっているし、巨大な猫のようで、違う耳が短く変な形で、ボディは灰色でお腹周りはふわふわな毛色のアイボリーな、結局なんだか分からない、口のデカい生き物の上に、黄金色の毛の、シックな落ち着いたスーツに、シルクハットを被った紳士的な猫が乗ってたり、さまざまな、通常とは異なる生き物達が、そこに、生息している。


 「そうやなあ。こん広大な、琵琶湖ん生き物ば、いくつ釣り上げるかっていうけん、張り合うたっちゃ、キャッチしたもんば側に置いとけんし、大きかとは、時計ウサギが吊り上げられんけん、可哀想だしね。あは!じゃ、あん○ロンの帽子ば、取った方が勝ちってどうよ?」


 「......取ればぁ、いいんですよねぇ」


 にやりと小さく笑う、時計ウサギ。


 「ところでしゃ、僕ん、格好どげん?イケとー?」


 「え?ゲェム...急なフリはぁ、いつものことぉね。この家族はぁ...えーぇと、なんでそんなチグハグスタイルなんですかぁ?アニメキャラが、ごちゃ混ぜですんよ?」


 「え?よかとこ取りやて思わん?」


 そう言ったナリの格好といえば、マッシュショートの緑頭で、癖毛なのか、寝癖なのかという髪型で、剥き出しの右腕はオートメイル。黒のタンクトップに、茶のベルト、黒の革パンに、黒の底上げブーツで、赤くてボロい丈の長いパーカーを、肩に掛けている。


 「...まぁ、それがぁ、コスプレとぉして、認知されればぁ、ええんでないんですかぁ?」


 面倒くさそうな目で、時計ウサギはナリを見て、実に面倒臭そうに、呟くように言った。

 それを、ちゃんと聞いていたナリは、少し怖い笑みを浮かべて、時計ウサギの頭をむんずっと掴んで、勢いよく投げ飛ばした。

 だが、時計ウサギは落ち着いていて、優雅に、紫の機体の足裏に、着地した。


 「いつもげぇがない...はぁ!!!逃げちゃダメだ逃げちゃ駄目だ!!!」


 急に何かが乗り移ったように、時計ウサギはブルブル震えながら、そう呟いた後、コホンと恥ずかしそうに、わざとらしい咳をする。


 「ほんと、面白かね、時計ウサギって。ま、それに免じて、そこからゲームスタートでよかばい。じゃ、よーい、スタート!」


 急に、スタートし出したナリ対して、時計ウサギは全く動じず、釣竿を大きくしならせて、釣り糸を、ナリの勢いよく飛んでいく釣り糸へ引っ掛け、絡ませると、ポイッと手早く釣竿を、湖に投げ捨てた。

 そして、時計ウサギが直接、シルクハットを取って、頭に被ると、軽やかなステップで、元の位置へと戻った。


 「でぇ、いつもぉ、こんな、同じようぉなこと繰り返してぇ、楽しいんですかぁ?」


 「勿論、楽しかばい。モノマネが!しゃぁーて、気狂いにはらかかれなかうちに先、行くね。時計ウサギは、残り六人、ちゃんと連れてきんしゃい?」


 ナリは、丹精な美し顔で、にこっと笑みを浮かべ、手を数回振ったら、そこから、あっという間に消えて、居なくなった。


 「あぁ、疲れるんやよ...ご主人ズはぁ...わっちが、彼らぁの神使だけに、運命は残酷だぁーーー!」


 と一人寂しく叫んでから、シルクハットを被ったまま、その部屋から、時計ウサギは去っていった。


 二番目の扉の前、金色の聖杯に、下部に複雑な模様と、正面に雷が走ったような模様が、二本刻まれているのだが、それが、赤いバツの字にも見える。

 時計ウサギは、相変わらず、ゴンゴンゴンと、勢いよく、五月蝿く叩く。


 「なんかぁ?」


 扉を開いて、中から出てきたのは、真っ白で、背中まで伸びた長い髪に、真っ赤な水干を着て、首には数珠と、勾玉をして、寒々しい裸足の、猫背気味な大きな男が、ぬっと出てきた。

 長い前髪が、目を覆っていて、何を考えているか、分からない。


 「どうもぉです!ビューレイスト様!一緒にぃ、来てもらえますんかぁ?」


 「んー......気狂い(キチガイ)が、来とーんやろ?やぐらしかねぇ...」


 ビューレイストがゆっくり喋るのは、癖で、見上げながら聞いている時計ウサギは、くるくる指をを回して、早く早く巻いてとサインしてるが、ビューレイストは全く気にせずに、頭をボリボリ掻いて、大欠伸を漏らしている。


 「そぉいわぁと、お願いしますんよぉ」


 「んぅーん......とりあえず、一緒にお茶でもどーぉ?シギュンに、京都ん宇治茶貰うたけんさーぁ。コタツで、愛媛のみかんもあるし、ちょうど、ナイトゲーム中継やっとーけん見ながら、話しよーばい」


 時計ウサギは、ビューレイストをじっと見つめた後、顎に手を添え、小首を傾げること数秒、腕組みをする。


 「仕方なぁいんですねぇ、ちょっとだけですんよぉ」


 そう言って、二人は中に入って行った。

 部屋の中、段が沢山ある棚が沢山あり、そこには沢山のマスコットキャラが、綺麗に並べられている。

 どのマスコットも、ユニフォームを着ている。

 青いコアラ、黒の燕、茶の顔の周りが白い、星模様のハムスター、白いオスライオン、黄色と黒模様の虎、白いカモメ、緑色の辰の落とし子のようなもの、赤髪の雄牛とピンク髪のメス牛、オレンジのウサギ、黄色い鷹、立髪が赤の茶キタキツネ、茶のイヌワシのぬいぐるみ。

 どのマスコットも、デフォルメされて独特な味を出して入るが、ちょこんと座ってるポーズが可愛いらしい。

 壁には沢山のペナントが飾られて、数字の17が入った、赤ベースのペナントだけ特別なのか、淡く光って見える。

 部屋を見渡せば、なんの主張なのかNIPPONプロ野球と、殴り書き看板が壁には貼ってある。

 他にもその野球の関連グッツが、山のように棚やら壁やらにあって、ごちゃごちゃした部屋のど真ん中に、コタツと、その上に網籠に入った山盛りみかんと、レトロな可愛らしいブラウン管テレビが、置かれてる。

 コタツの掛け布団と、テレビの外枠は、ライオンの手が、野球ボールを握ってるマークが、入っている。

 兎に角、ごちゃっとなっているのに、部屋の主は図体がでかく、アンバランス。

 コタツも、ビューレイストの前では、小さく見えるが、時計ウサギには、丁度良い。

 二人は、テレビを見ながら、みかんを器用に剥いて、黙々と食べている。

 真剣に、二人が観ているのは、野球。

 さっきのマスコットキャラの、ユニフォームはバラバラだが、背番号代わりに、パかセの字が書かれている。

 ただ、マスコットは一二体、半分に分かれると、八体で、一枠空く。

 その一枠はピッチャーで、マスコットの代わりに、黒髪ツインテールのムキムキのメイドロボットらしいのが立っている。

 大の字に手を広げ、左足を高々に上げて投げる投球は、凄まじいトルネードを起こしながら、キャッチャーミットへ収まる。

 途中、バッターボックスで消える魔球、直球一筋、豪球で、キャッチャーと審判は、毎度、吹っ飛ばされているのだが、淡々とゲームを続けている。


 「やぁー、○ボ子は、無敵だやなあぇー」


 「そぉですんねぇ...ていうんか、ずっと思ってるんですんけど、どうして、○で伏字してるんですぅ?仮にぃも、神様じゃぁないんですかぁー」


 「え?だってさぁー、ここって著作権とかあるらしいしぃー、やぐらしかやなか?神やけん、そこは関係なかといえば、そうなんやけどぉー、伏字ん方が、面白かしぃ?クイズみたいじゃなぁーい?」


 「確実んに、面白がってぇんなぁ...」


 「お!チェンジ、チェンジぃー!キタキタ!マツ○!行け!捻じ伏せれ!」


 「...ところで、いつにぃなったらぁ、行くんですん?そろそろぉ...ダメかぁ...奥のてぇじゃぁ!!!」


 時計ウサギは、パチンと、指を鳴らすと、ゆるい顔のカエルが付いたヘアピンと、銀色のフレームの、瓶ぞこ眼鏡を手にして、手早くこたつから出ると、ビューレイストの長い前髪をヘアピンで留め、端正な顔立ちには、不釣り合いな眼鏡を掛けさせた。


 「○ツ子もDXカーブがキレキレやけんな、おっと、締めん、あがりが、まだやったな」


 ビューレイストは、パチンと、指を鳴らす。

 すると、コタツの上には、白ベースの青字で鮨と書かれた、暖かそうな湯気が上がり、鮮やかな緑色のお茶が入った、湯呑みがふたつ現れた。

 二人は、静かにお茶を啜り、中身が無くなった時には、ビューレイストの眼鏡は、怪しく曇っていた。


 「じゃ、行くか」


 ビューレイストがもう一度、パチンと、指を鳴らすと、二人の姿はそこにはなかった。


 一人、時計ウサギは、全体が真っ黒だが、生き物のように立ち昇るオレンジ色の炎が、描かれた扉の前にいた。

 落書きなのか、斜め上気味に、Hexennachtと、赤で殴り書きされていて、その斜め上に小さく、Dangerous!と、金文字で殴り書きされている。

 この扉の前だと、先程までとは違い、いつもよりも背筋伸ばし、緊張感がある時計ウサギは、小さく咳払いして、コン、コン、コンとスマートに、優しくノックした。

 不気味に、キィーと自動で扉が開いて、ゴクリと一つ、唾を飲み込んでから、中へ入った。


 「あ、狛ウサギ、ヤッホー」


 初めに会ったのは、人並みに大きな二本足で立っている、左耳と左下腹部が茶の猫。時計ウサギは、その猫を見れば、ちょこっと、シルクハットを上げ、挨拶した。


 「ヘル様?ですんかね?コスプレいうんか、着ぐるみ、ですんかぁ?」


 「まっさかぁー、あ、これだと、うちの顔見えにゃーのか、じゃ、これならどうよ?」


 パチンと、指を鳴らしたヘルは、一瞬にして、頭にツノが生えた、綺麗な青グラデーションが掛かった背中まである長い髪と、紺セーラー、黄色の三角スカーフに、アンバランスな虎柄のシューズを身に付けている。

 確かに、アンバランスなのだが、端正な顔付きと、バランスの良い体型が、絶妙にマッチしている。


 「ラムだっちゃ♪」


 「...あぁ、うる○やつらですんか。声真似まで...にしてんも、虎柄のブーツだけぇ、変ですんよ?セーラーでなくんて、ラ○ちゃぁんコスチュームの、虎柄ビキニ?にすればぁ、可愛いいんじゃないんですぅ?」


 「うち、TPOは弁えてるのよ、お年頃なんで」


 「......へ、へぇ...で、私が来たんはぁ」


 「気狂い(キグルイ)が来たんだら?ねぇーちょっと、追い払ってきてよ、面倒だで」


 時計ウサギの話している最中、ヘルは食い気味に喋り出すと、見上げている時計ウサギを、両手を腰に添え、神妙な顔で、見下ろす。


 「...そう、言わずぅ。怒られますんよ?」


 「キチガイを歓迎するものはおれへん。暴君は、〈その時〉、以外は、私達には、不要やねんさかい」


 「そやけど、アルグルボサ、不要とちがうんどす。この天鎖○月を、試し斬りしたい衝動、満たしてくれるのんは、あの人くらいどすさかい。...狛ウサギはんでも、構しまへん、そやけど。うふふ」


 ヘルの背後から、更なる圧を掛けるように現れたのは、長い黒髪の巫女装束で、語弊を持った、背の高い端正な顔付きの女性。

 もう一人、黒髪に両サイドが薔薇のヘアバンドをして、サイドの髪を下ろした、シニヨンスタイル。黒い肩出しボディコンシャス風で、前は膝上と、短いドレスに、ちらちら見える裏地はワインレッドの、黒革のロングブーツのハイヒールの身に付け、腰にぶら下げた、少し長めの鞘に入った日本刀の柄を、うっとり撫でるように、触っている女性。

 その女性は、語弊を持った女性よりも、少し背が低いが、端正な顔付きだ。

 時計ウサギは、耳が垂れ下がって、お尻を両手で隠し、蛇に睨まれた蛙のように、怯え、その場に縮こまっている。


 「い、い、いんやぁ、私みたいなの切っても、面白くないんと、思うんですよねぇ...シギュン様みたいぃな凄腕ぇなら、ロキぃ様とぉ手合わせぇの方が、やりがいぃがあるんと思うんですぅぅぅ...」


 「いけますえ。試し斬りどすさかい、狛ウサギはんでも充分どす。それに、狛ウサギはんは、〈主、死なへん限り、切られても、死なへん〉やん?」


 「そ、そうですんが、私は、〈この地の精霊〉ぃんだからぁ、そうんですけどぉぉぉ、痛いんでぇ、勘弁してほしぃんですぅぅ!」


 「そうどすか...なら、こっちの、超○○ブレードでも、ええどすえ」


 シギュンが柄を撫でると、刀の形状が変わって、日本刀からブレード式の剣へと変わり、柄も拳銃のような、面白い形へと変化した。


 「まぁまぁ、シギュンさん、それぐらいにしてけだらどうだが?好ぎだがらとあまり虐めるど、逃げですまいますよ。それに、そろそろ、イカれ野郎も、痺れ切らす頃、癇癪起ごされでも迷惑なんで、仕方ねぁーども、行ってあげっぺよ」


 シギュンの肩をトントンと叩いて、制したのは、綿菓子みたいにふわふわのピンクの髪で、桜色のワンピースに、白いフリフリの付いたエプロン、白タイツと、赤い靴を身に付け、端正な顔に、黒のビックフレームでレンズなしの、伊達眼鏡を掛け、緑の虫みたいなロボットのマークが入った、A5サイズのタブレットを持った女性だ。


 「...うぅん...そやな、フェンリルの言う通りどすなぁ...残念どすけど」


 わざとらしい、芝居かかった言い方のシギュンは、明らかに面白がっていて、目が不気味に笑っている。


 「じゃ、いづものぐだんも、滞りなぐ終わったがら、えぐべが......あっ、ヨルムンガルドが...いねぁーわね」


 ちらりと、時計ウサギを見る、フェンリル。


 「ハイハイ、いつのどぉりに、連れて行きますんで、ご心配なさらずんに、行ってくださいんなぁぁ」


 「マイペースやさかいな、よろしゅう頼む」


 四人は、時計ウサギに笑顔を振り撒き、ヒラヒラ手を振ると、全く未練なく、一瞬で消えてしまった。


 「はぁぁぁぁぁ、胃なんてぇ存在しないんけどぉ、胃がぁ痛いぃぃぃ...いつもぉの、ことぉだけどもぉ...後、一人だけぇ、一人だけぇ...ファ、ファ、ファイとぉぉぉ~」


 少し疲れが見える時計ウサギは、部屋の主達がいなくなると、途端に寒々しい何もない殺風景な部屋と化したそこを、てくてく歩き、部屋の一番奥の、隅っこにある入口に入った。

 その部屋は、簡素という言葉が似合う。

 黒革の高級そうなソファーに、七十V型の液晶テレビ、お洒落な小さめなテーブルには、ハイボールが注がれた、蔓草模様のエッチングが浮かび上がるクリスタルグラス、九谷焼の招き猫と、富士山が描かれている豆皿に、唐揚げと枝豆、夜桜風の綺麗な絵柄の有田焼に、美味しそうな狐色羽付餃子、氷裂貫入がプレート全面に入った美しい皿に、カードゲームの豚の尻尾のように並べられた餃子と、真ん中にもやしが載っている。

 部屋は簡素だが、テーブルの上は賑やか。

 高級そうな入れ物が並んではいるが、食べ物が、ごちゃごちゃと載っている時点で、アンバランス。

 その部屋の主は、真っ白な着物に、青い帯、真っ白な綺麗な長い髪をポニーテールにし、やはり、端正な顔付きの女性が、ソファーに寝っ転がって、テレビをぼんやり見ている。

 時折、左人差し指を動かし、餃子が空を飛び、女性の口へと運ばれていく。

 大変行儀が悪いが、餃子のタレが付いていても、一滴も、溢していない。器用なのか、ものぐさなのか。


 「ヨルムンガルド様ぁ、ロキ様がぁ、おぉ呼びぃですぅ」


 「えぇぇ~......めんどぉくさぁ~。気狂い(キグルイ)、あんまり~ぃ、好きじゃぁないんじゃよのぉ~」


 間伸びした喋り方のヨルムンガルドは、微動だにせずに、テレビをぼんやり見つめ、斜め前にいる時計ウサギと、目も合わそうとしない。


 「ですんけど、行かないんと、ロキ様ぁ、怒りますんよ?皆さぁん、もう、向かわれましたんよ?」


 「でもぉ~、どうせぇ~、準備にぃ時間掛かるじゃろぉ~?そがいなぁ~焦らんでもぉ、平気じゃなぁい?いまぁ、NIPPONとぉITARIAが対戦しとってぇ、ええ試合しとるんよのぉ~。サッカーEARTHトルネオよ!みなきゃ、つまらんぁじゃなぁ~い?」


 「イヤイヤ、いつんでもぉ観られるでぇしょうがぁ!ただ、行きたくないんだけでしょーにぃ!」


 捲し立てるように言い続ける時計ウサギは、どこか落ち着きがなく、右足を急かすようにタンタン、タンタンタンと鳴らしている。

 時計ウサギは、右の腕を指差して、トントンしている。そこには、何もない。


 「そもそもぉ、クチバシぃデカぁい鴉が、日本代表の青いユニフォぉーム来て、二羽見分けがついても、みぃんな選手がぁ同じ鴉でぇ、誰がぁ誰なんでんかぁ?しかぁも、ITARIAもユニフォーム青って、分かりにくぅ!!お全、鴉で分かりにぅ!適当ぉすぎませんですん?」


 「えぇ?わかるよぉ~。背中にチームマスコットのぉ~バックプリント入っとるんじゃけぇぁ~。上位人気マスコットが、スタメンよ?ぶちなぁ~いぃ?ITARIAだって、名前デカデカ描いてあるんじゃけぇぁ~、間違いようないじゃろぉ~?」


 時計ウサギは、深い深いため息を漏らし、お手上げのポーズを取った。諦めた顔して、ヨルムンガルドにズカズカ近づくと、ぴょんと軽快に飛んで、ヨルムンガルドに乗っかると、肩をガバッとホールドし、強制的に、二人はパッと消えた。


 ソファーの上には、シルクハットだけが、残っていた。

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