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D o L −ドール-  作者: 雨月 そら
13/20

step.13 最強の防御は攻撃?!

 気球は富士山を通り過ぎ、万里の長城へと降りていく。

 クネクネと蛇のような、長い長い石垣の上を、気球はなぞるように飛んでいる。

 本来、中国の万里の長城は、西の嘉峪関(かよくかん)から、東の山海関の長さにして、線に例えるなら、北海道から沖縄まで、引けてしまうほどの距離だと、どこかで見たような気がする。

 だが、この世界では、全てが悪戯にMIXされて入り組み、日本がベースになってはいるものの、〈歪んでいる世界〉。

 だから、点在する各場所もバラバラで、規則性がない、〈ランダム〉で選ばれたような、感じすらする。

 だから、僕が知っていた日本という、世界という、地球という、ものの知識は、無意味ではないが、常識という観点では、全く無意味だと、ここまで旅を続けて、学んだことだ。

 今までもそうだが、この万里の長城は、日本には無いし、日本に仮にできたとしても、こんな、北海道の地形を囲うだけの長さではない。

 そう、富士山の頂上から見下ろした時、万里の長城は、北海道をぐるっと囲った防御壁になっていたのだ。

 そして、ド真ん中は、ドーナツのように、ぽっかり穴が空いている。

 北海道は、四面に分かれ、春、夏、秋、冬の四季に、別れていた。

 春は、生き生きとした芝生の絨毯のような牧草地が広がり、道には綺麗な青葉が茂った、背が高い、白樺並木が並ぶ。牧草地は、広大で、透明で綺麗な河川が二本通り、沢山の道産馬、羊、牛が、優雅に生息している。

 夏は、ヨーロッパ式庭園、日本庭園、風景式森林庭園、ドワーフ庭園、KIDSガーデンと様々なテーマの庭園が配置された、回遊式大型庭園が広がる。

 夏に咲く花は、力強く咲き誇る向日葵以外にも、凉そのものが楽しめる紫陽花、色とりどりに、華やかである。

 秋は、連峰が続き、夏の終わりから、

秋を渡り、冬の入り口を、結ぶ大橋が掛かっている。大樹海は、美しい高級なペルシャ絨毯のような紅葉が広がっている。ただ、そこを一望できる展望台が、ぽつんとあるだけで、特段、何かがあるわけではない。

 冬は、白樺並木は、霧氷で輝き、その先に、あるナイアガラの滝のような広大な滝は、湧水から凍り、青い氷の滝となり、幻想的で美しい。風の無い時は、ダイヤモンドダストが舞い降りて、更なる美しさを演出している。

 穴が空いている中央周辺は、四季とは関係なく、畑がぐるっと覆っている。じゃがいも、ビート、小麦、豆類、スイートコーンなど、様々な、生き生きして美味しそうな作物が、ふんだんに、実っている。

 そこには、無数の犬のロボット、目がくりくり大きく丸顔の雪だるま風のフォルムに、ペンギンみたいな手と、足は車輪というユニークなロボット、二十センチくらいの、こちらも目がくりっとして可愛らしい、二足歩行のロボット達が、畑仕事をしている。

 そこから北に位置した場所に、司馬台長城と文字が刻まれた、少し小高い山の上に、ロボットを監視するかのように、下からライトアップされた、満開の桜と、色取り取りの紅葉に囲まれた、五重塔が建っている。

 それが僕が、見た〈不可思議〉な、北海道。

 そういえば、司馬いう字を見ると、歴史小説で有名な、あの文豪を思い出す。新撰組の話が大好きで、よく読み返したと。

 それにしても、嘉峪関から入って、石垣の上をなぞって、飛んでいるだけで、一向に、中へ入ろうとしない。

 不思議に思って、横の、マッド・ハッターを見た。


 「あぁ...TOKACHI、着ちゃったわねぇ。......そ・ん・な・目・で、見ないで、欲しいわぁ~。私だって、どーしようか、考えてるんだからぁ~」


 「そう...鉄壁。本人自体はアレ、だけど...レクスの盾、右腕と、言われるだけは、まぁ、あるわね、実際」


 隣にいたハートの女王が、マッド・ハッターと僕の間に、無理やり入ってきて、僕の腕に猫のように擦り寄って、掴む。

 ただ、ハートの女王の背が小さいから、アンバランスで、とても恋人同士とは見えず、小さい子が、戯れてるようにしか見えない。

 僕からしたら、ちょうど、結の小さい頃と重なって、妹が構って欲しいアピールしてるとしか、見えない。

 とりあえず、空いている方の手で、頭を優しく、撫でてあげた。


 「ちょ、こんな、ちんちくりんのお子ちゃま、相手にしなくていいのよ、アリス!全く、礼儀も、へったくれもないわね!無能なくせに、色気だけは一丁前の、メス餓鬼が!離れなさいよ、迷惑でしょお!!」


 マッド・ハッターはそう言って、ハートの女王を引き剥がそうと、ハートの女王の腕を掴んで引っ張る。


 「痛いわよ、この、カマブス!」


 「はぁあ!!!あんたに、ブス言われる言われはないわよ、この、ブスチビ!!」


 二人は言い争いになって、勢い余って僕をドンっと、突き飛ばしたハートの女王は、僕には目もくれず、マッド・ハッターと向かい合って、罵声の嵐。

 火に油とは、こういうことなのだろう。

 よろけついでに、少し、その場所から避難し、離れた。

 そうすると、スノーホワイトと、キティに近くなったのだが、二人は、この場に飽きたのか、向かい合って座り込み、烏賊(イカ)(タコ)とか言って、烏賊と言った時は、頭の上に三角、蛸と言った時は、片手を口の前で筒状を作り、それを不規則に、言い合って、同じシーフードが揃ったら、負けた、勝ったと、キャッキャ楽しんで、遊んでいる。

 興奮気味に、その遊びをしているので、僕のことは、目もくれない。

 三日月rabbitは、キャップを、顔の上に乗せて、仰向けに寝ている。気持ちよさそうに、スヨスヨ息が小さく漏れながら、羽織った上着がずり落ちて、子供みたいな可愛いお腹が上下しているのが、見える。

 この状況で、よく寝れるなと、感心しながら視線を外し、どうしたらいいのか分からず、頭を抱え、しゃがみ込んだ。


 「おぉんや~ぁ?お、こ、ま、り、かなぁ~?」


 背後から、間の抜けた、聞き覚えのある声がして、僕は驚いて、身体がビクッと反応し、慌てて立ち上がり、振り向く。

 そこには、バスケットに寄りかかり、両足を伸ばした、変な格好の茶系のチェシャ猫が、あのニヤニヤ顔で目を細め、こっちを見ていた。

 その顔を見て、ホッとするわけもなく、僕は、厄介な奴がきたなと、思ってしまった。


 「おやおや~?黙り、かぁい?」


 「いや...そういう、訳じゃないけど...」


 「ふぅ~ん。ま、いいけどねぇ~」


 「それで、チェシャ猫は、何しに来たの?」


 「いけずだねぇ。これでもオレぁ、アリスが困ってそうだったから、現れた、っていうのにさぁ。オレぁ、優しい、んだろう?」


 「「何言ってんのさ!!どうせ、どっかで隠れて、監視して、面白そうだから、現れただけでしょ!!」」


 さっきまで夢中で、〈変な遊び〉をしていたのに、駆け寄ってきた二人は、敵意、剥き出しでそう言った。


 「オレぁ、そんなことはぁ...」


 悪い顔して、ニヤニヤニヤと、歯を剥き出して笑うチェシャ猫を、二人は、ムッとした顔で両腕を組むと、ジトッとした、疑った目で見ている。


 「「嘘ばっか!お前に、用なんか、ない!!シッシッ!!」」


 両手で、追い払うような動作をしている二人に、チェシャ猫は、お手上げのポーズを小さくして、チラリと、上の方を見てから、やれやれと、軽く頭を振ってから、パチンと、指を鳴らして姿を消した。

 それに対して、あっかんべぇと、下瞼を引き下げ、ベロベロBOOOOOっと、舌を出して最後は、ぺぺっと、小さく唾を吐く、動作をした。

 行儀はあるいが、余程、嫌いらしいのは、伝わる。


 「いい!アリス!!ボケッと、してたら、今回の戦いは、〈負け〉、なんだからね!」


 頬をプクッと、少し、膨らませたスノードロップが、僕の方を向くと、ビシッと、指刺して言った。


 「そうそう、アリスは、すぐ、気が緩むのは、良くないよ!僕達が、必ず側にいるとも限らないし、いたとしても、僕達は、この〈世界のルール〉の前では、〈何もできない〉こともあるんだからね!そしたら、アリスが、自分で乗り切らないといけないんだよ!分かってる?もっと、もっと、よぉ~~~く、考えて、行動しないと、いつまで経っても、〈終わらない〉よ、この〈GAME〉は!」


 スノードロップに続いて、キティは、軽やかにくるっと、僕の方を向いて腕を組み、脚を大きく開くと、ちょっと偉そうに胸を張って、真剣な顔で言った。


 「う、うん。ごめん」


 僕は、二人に、勢い押されて、萎縮して謝った。


 「ちょっ...ちょ、か、かわ、かわいそ、そう、よぉ!」


 マッド・ハッターが、ハートの女王に、逆海老固めの技をかけられながら、苦しそうに言った。


 「そ、そうよ。妾だって、アイツには、手を焼くわ。あ、アイツ、手加減ってものを、知らないの。見た目と違って、脳筋なの。キレたら、手に負えないわね。アイツが、持ってるのが凄すぎて...レクスも、なんで、アイツに、あんな〈武力〉、兵器?与え、たのかしら?兎に角、間違うと、地獄、行きよ、慎重に行かないとぉ!」


 ハートの女王は、マッド・ハッターを、ギリギリ締め付けながら、顔を真っ赤にして言った。

 体格差がだいぶあるのに、やはり、ハートの女王の力は、すごいと思ったのと同時に、何かあったら痛い目に合いそうで、大人しくしておこうと思った。


 「うぅーーーん、確かに、一理あるかも」


 スノードロップが、顎に手を添え、うんうん小さく頷いて、そう言った。


 「イカれ具合は、一番だからね。何せ、〈嫉妬〉の塊。今は、アサドが側近で、近くにいるからね...〈否応ナシ〉で、対抗意識メラメラなのかも。レクスからの使者だから、無下にもできないし。やり合ってもきっと、勝てないだろうし。アサドは、この世界で、盾最強。矛、攻撃型と組めば、最強タッグ...厄介だよねぇ。そうだよねぇ...アサドが、ここにいる時点で、難解不落...うぅーん」


 キティは悩ましげにそう言って、顎に手を添えると、うんうんと、小さく頷いている。


 「はぁ、はぁ、はぁ。な、な、何はともあれ、じ、実際に体験、してもらいましょ」


 海老反りから解放されたのか、逃げてこれたのか、マッド・ハッターは、息切れしながら話に加わると、ピタッと、僕の横に立つ。


 「ちょっと!どさくさに紛れて、何、隣に擦り寄ってるのよ!」


 先程まで地味だが、激しいプロレスごっこをしていた二人とは思えないほど、マッド・ハッターと、ハートの女王は、何事も無かったかのような、平然とした態度。


 「早い者勝ちなの。当然でしょ?へっぽこ鈍間な、おチビちゃん。それに、今、あそこに行ってやりあえるのは、アンタくらいなんだから、〈アリスのため〉に、キリキリ働きなさい!」

 

 マッド・ハッターは、そう言い終えると、ビシッと、ハートの女王を指差した。


 「なっ!!変態オカマ!!後で、覚えておきなさいよ!!」


 べぇっーと、小さく舌を出したハートの女王は、パンパンと、手を叩いた後に、パチンと指を鳴らし、武装状態になる。

 あの物々しい儀式的な、竜の召喚はなく、大鎌に、ドレスの上に、胸から下、腰辺りを覆う甲冑、肘から手を覆う甲冑、膝上から足先まで覆う甲冑と、どの甲冑も、鮮やかなメタリック深紅。そこに、艶やかな深紅の、大きなマントを身に纏っている。

 大釜の長い柄には、大きな先が二つにわかれた金縁の深紅で、ハートの女王のティアラが美しく、金糸で刺繍された旗が、取り付けられていた。

 くるっと、一回転させてから構えて、軽くバスケットを飛び越えて行き、塀に一直線、真っ逆さまに落下していく。

 途中、方向転換するために、壁を軽く蹴って、弾丸の如く、中央部へ飛んでいく。


 「いい?アリス。よく、見ておきなさい。あなたが、どんな奴と、戦うのか。よく、観察するのよ。私達は、アリスの〈武器〉であることは、変わりないわ。でも、〈ただの武器〉としてしか、アリスに、加勢できない時もあるの。〈分かってる〉とは、思うけど。でも、〈よく考えれば〉、アリス、いつでもあなたが〈有利〉、ということを、忘れないで。いつだって、私達は、あなたの〈味方〉なのよ」


 マッド・ハッターの言葉が、じわり、じわりと心に染み込んで、水絵の具を溶かしたような、そんな侵食で、身体が優しい温もりで、満ちた気がして、僕は、照れ隠しもあって、ただ、小さく、一度だけ頷いた。


 「...あ、そういえば、ハートの女王は、いつもと、違ってたね。あれは?」


 「あぁ。boost(ブースト)よ。力を極限まで高めた状態、かしらね。一撃必殺とか、ここぞ、って時があるじゃない?私達は、エクスカリバーぁとか、必殺技の名前を呼ぶことはないけど、長期戦が不利な時に、使うのよね。まぁ、消耗が激しいから、よっぽどのことがない限り、使わないけど」


 「ん?...エクスカリバー?」


 「え?知らない?一時期、流行らなかった、かしら?」


 「さぁ??」


 「そう...ま、いいわ。今回は、それぐらい、本気出していかないと、負けちゃう、あ・い・て、って、ことよ」


 「なるほど」


 僕は、バスケットに寄ると両手で掴んで、じぃっと、ことの成り行きを見届けようと、目を凝らした。

 ハートの女王の、スピードは衰えず、弾丸のまま、五重塔へ飛んで行く。

 遠からず近からず、キラっと、何か光った。

 その瞬間、地面から無数の巡航ミサイルが、打ち上がり、ハートの女王を狙って、追いかけてくる。

 巡航ミサイルなので、どこまでも、どこまでも追ってくる。

 だが、ハートの女王は、戦い慣れしていて、空中戦も得意らしく、マントを翻し、上手く使いこなし、身体を捻ったり、回転させたり、ミサイルの先で、絶妙な接触をして方向転換し、ミサイル同士を上手く誘導すれば、ぶつけ合わせ、潰している。

 そういえば、ミサイルはどこからと、煙幕で見えなかった広大な畑が、晴れて見えてくると、答えは直ぐに分かった。

 畑仕事をしていたロボットから、ミサイルが発射されている。

 発射装置搭載車両に、トランスフォームして、迎撃していたみたいだ。

 空中戦が繰り広げられ、爆破するロケットから煙幕が、そこら中に広がる頃、ロケットの上がる音も、聞こえなくなる。

 弾切れだろうか、と思っていた矢先、空を切る波動で、煙幕が一掃され、視界良好。

 遠いはずのハートの女王も、くっきり見え、息遣いさえも、聞こえてきそうな感じだ。

 それほど、僕は、目の前の光景に、釘付けになっていた。

 もはや、ハートの女王を通して、疑似体験している、不思議な感覚に襲われている。


 「...げっ、厄介な奴が、出てきたわね...あんまり、手合わせしたくないんだけど...まぁ、想定内、想定内...あぁ、面、倒」


 ハートの女王が、ぼそぼそっと言って、地面へとマントを上手く風に翻せながら、ハングライダーみたいに下降し、地面近くなると、片手で大釜を持ち、片方の手を握りしめて、地面に叩きつけるような状態で、腰を落とし、片足を立て、もう片方は膝をついた状態で、着地した。

 案外衝撃はあったようで、地面は、凹んでいる。

 それが、どこかのアメコミヒーローみたいに映って、場違いだが、かっこよくて、興奮した。

 そのハートの女王の正面には、見た目爽やかで、真面目そうな顔付き、清潔感のある短髪と屈強な体、そう、僕の義理の父を四十歳くらい老けさせたら、こんな顔だろうかと思うのは、その人が、背が高い性もあるかもしれないが、闇に溶け込むような黒い髪と、切長な目が、余計ダブって、見えるのかもしれない。

 違うといえば、金眼と顎髭があり、光沢のある手触りの良さそうな漆黒の燕尾服に、灰色のベスト、清潔そうな真っ白なカッターウェイシャツ、キュッと締まった燕尾服と同じ、漆黒のネクタイを見ると、どこかのバトラーのようでもある。

 ただ、腰にぶら下げた鞘と、右手に握られた大刀 銘 宮入昭平(たち めい みやいりあきひら)は、バトラーとしては、不釣り合いではある。


 「何用、でしょうか?我が君からも、空寝ヤマネ殿からも、本日、面会があると、報告は受けておりません。急用だとしても、不作法です。正規ルートを通らない不届き者は、教育という鉄槌を下さなければなりません。覚悟は、充分...のようですね。語らずとも、貴方を見れば。...いざ!」


 「...あぁ~、面倒ぉ」


 ため息混じりに、そう呟いたハートの女王は、手早く大釜の刃先に、上からスッーとなぞるように触れば、大釜が大身槍へと変化し、右前半身構えで、迎え撃つ。

 間合いを詰めていた、バドラー風な男は、剣を逆手に持って、体制を前のめり気味に腰を低く落とすと、前に出した片足で、強く地面を踏み締めれば、地面が、力に耐えられずにボコッと沈み、バドラー風な男は、魂が燃えるように、全身が、青白い炎に包まれる。


 「ちょ、アリス!!ハートの女王、戻して!!直ぐよ!!!」


 急に、片方の肩を、マッド・ハッターに力強く掴まれた。

 マッド・ハッターの、輝いて見えるマニュキュアが塗られた爪は、丁寧に研ぎ澄まされいて、肩にめり込むと、それは凶器のようで、激しく痛く、僕の意識がはっと、戻り、血相を変え、急かすマッド・ハッターに、僕は慌てて、パンと、手を叩いた。

 急かされ、焦りがあって、心臓は小さくだが、ドクドクと、早鐘のように打ちつける。

 額には、薄らと、汗が浮かんでいた。

 その汗を手で拭いながら、ハートの女王がいた方へと、恐る恐る視線を向けた。

 この焦りは、ただ、急かされたからだけでなく、直感的に、ハートの女王が、危険だと思ったからかも、しれない。

 一番に目に入ってきたのは、バドラー風の男が、剣を後ろへ、溜めの姿勢から力強く前へ、弧を描いて、素早く二回、振り出せば、全身の青白い炎が、波動へ集まり、ハートの女王がいた場所へと、大きな三日月のような形の、眩い光が、X状に交差し、轟音と共に、地面を深く抉りながら、一直線に伸びていく。

 その繰り出された後の波動の跡、畑があったはずなのだが、跡形もなく消え去っていた。


 「はぁ、危ないところ、だったわね。でも、なんとか回収できて、良かったわ。アリス、ご苦労様」


 そういう言って、緊張が解れ、柔らかい笑みを漏らしたマッド・ハッターは、爪を立てた場所を、ポンポンと軽く叩いた。

 なぜか、そこがじんわり温かく感じ、食い込んで、痛かったはずなのだが、全く痛みは感じなくなった。


 「ごめなさいね、アリス。ちょっと、私も焦っちゃって。痛かったでしょう?でも、私、治癒的な力、多少持ってるから。もう、痛くないわよね?」


 「...あ、うん。痛くない。......で、ハートの女王は?戻れって、咄嗟だったけど、強く、思ったはずなんだけど。......それに、なんで、盾の役目が、あんな技を繰り出してくるの?防御型というより、完全に攻撃型だよね?」


 少し困った顔で、マッド・ハッターは、そうねと呟きながら、片方は頬に添え、もう片方の手は、その片方の肘の下へ回し、支えるようなポーズをしてから、深いため息を吐いて、空を見上げた。


 「ここからは、〈めちゃくちゃ〉、なのよ。確かに、アサドは、最強の盾。攻撃型。ペアになれば、攻撃する者を、全身全霊で守り抜くから、攻撃よりも100パーセント防御に徹底する。けど、アイツ一人の場合、そうじゃないの。攻撃は、最大の防御、を自でいくような男なのよ。まぁ、簡単に言えば、防御、攻撃、オールマイティーな、イケスカナイ奴って、こと。で、ハートの女王だけど、ちょっと消耗が激しいから、具現化出来ずに、休んでるじゃないかしら?私達には、アリスと契約した時点で、こことは別の空間を、持てるようになるの。こっちに出てない時は、そっちに収納されてるって、思ってくれて、構わないわ」


 僕は、説明を受けて、小さく頷いた。

 その時、ふと、思い出す。

 モンスター同士を戦わせて、弱ったところを、丸いボールを投げて、モンスターを獲得するアニメだったろうか、ゲットだぜ、と急に、セリフが、アニメキャラの声で、頭の中に響いたが、そのアニメ自体は具体的に、思い出せなく、直ぐに意識は、切り替わる。


 「なら、ハートの女王に関しては、一安心だね。けど、アサドって奴も厄介だけど、もう一人、いるんだよね?」


 マッド・ハッターは、また、悩ましげに、ため息を漏らす。


 「そうなのよね。アサドは、頭堅い、チョークソ真面目で、相手が本気なら、本気で相手するような任侠的な奴だから、ガチンコ勝負だと、なかなか手強いけど、工夫次第で、どうにかなりそうな気もするけど、もう一人の、この国を納めている、空寝ヤマネは、ほんと、イカれてるのよ。レクサに、心酔しきってるから、レクサのためなら、命をも簡単に捧げられるくらい、ヤバイ奴なのよ。......実際、言葉に出すと、こっからは、簡単にことは、運べそうにないのよね。困ったわ。」


 言った言葉と同様、困り顔のまま、マッド・ハッターは、何度目かのため息を付いた。

 僕も、手立ては今のところ、何も見えてこず、途方に暮れて、なんとなしに、空を見上げた。

 すると、どこか、は、分からないけれど、強い視線を、感じた。

 その視線を感じた方に、咄嗟に視線を合わせた瞬間、背筋が凍るように、ゾクゾクゾクと、鳥肌が立った。

 だが、それも一瞬。

 その視線はもう、消えたのか、感じ無くなったからだった。

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