step.11 繋がるトビラ、2つは一つ
「ぼおっとしてたら、やられるわよ!」
聞き覚えのある、幼い女の子の声が聞こえ、僕は、我に返る。
目の前には、真紅、ハートの女王が、三日月rabbitから僕を助けるために、僕が手にしていた大釜を、ハートの女王が持ち、振り下ろされた大剣を、その大釜で防いでいたのだ。
そこから、ハートの女王は、力任せに、三日月rabbit諸共、横に大きく薙ぎ払う。
このパワー、やはり、クイーンの称号を持っているだけのことはある。
三日月rabbitは、身が軽いせいか、吹っ飛ばされ、地面に叩きつけられそうになるも、うまく大剣を利用して、回避。
そのままの勢いで、後ろ手に下がり、距離を取る。
ただ、やはり身の丈に、合っていないのだろう。
大剣が地面に向くと、重みで身体が、引っ張られている。それでも、大剣を砲丸投げみたいに振り上げ、両手を使い、ぐるりと大きく頭の上で回してから、少し腰を下ろすと、片方の肩に大剣を背負うような構えをする。
一連の動作は流れるように手慣れて、戦い慣れしているのが分かる。
だが、疲労してきたのか、肩で、息をしている。形相はどんどん険しく、鬼のように、見えなくもない。
「何故だ、なぜだ、なぜだ、何故だ!何故、私が押されているのだ!私の何が悪い!この身に着けた武装で、私は強くなったはず!私が、〈弱い〉?そんなはずない!〈弱くない〉!この武装の時は、私は誰よりも、強い!私こそが、後継者だ!そうだ、そうだ、そうだ、そうだ!」
急に錯乱した三日月rabbitは、段々と、ものすごい早口で、捲し立てた。
動揺しているのか、目がギョロギョロと忙しなく定まらない。
そんな状態を、ハートの女王が、逃すわけもなく、一気に、三日月rabbitとの距離を縮め、大釜を大きく振り被ると、三日月rabbitに切り掛かった。
ハートの女王は、背中しか見えないが、すごい殺気、流石の三日月rabbitも我に返って、大剣で、大釜の一撃を防ぐ。
だが、大釜の一撃は凄まじく、大剣を、箸でも割るかのように、いとも簡単に、真っ二つに折った。
三日月rabbitは、一瞬にして戦意を失って、そのまま、ドサっとしゃがみ込んだ。
電池が切れた人形のように、目は虚で、色褪せ、体制のバランスが悪かったのか、地面へ倒れ込んでしまう。
その時だ、三日月rabbitの胸ポケットから、キラリと光る、何かが、落ちるのを、見た。
「さぁ、アリス、妾の仕留めたウサギ、美味しく頂いて?」
優雅にドレスを靡かせて、くるっと回り、勝利の余韻を残した満面の笑みで、ハートの女王は、僕の方へ振り向いた。
その手にはまだ、大釜が握られている。彼女はその大釜を持っていたとしても、びくともしない。
これが、クイーンの力を持つハートの女王と、三日月rabbitとの力の差のだろう。
そんなことを考えながら、僕はゆっくりと、近づいた。
まずは、ハートの女王が片手を僕へ差し出したので、手を取ると、その手の甲に、そっと一度、軽く口付けた。
ハートの女王は、初恋をした少女のような笑みで頬を赤らめると、キラキラ、キラキラと赤光る粒子を纏い、深紅の竜へと、姿を変えた。
僕は、顔を近づけてきた深紅の竜の頭を、そっと撫でた。
気持ち良さそうに、目を細めた深紅の竜に、僕の左胸から取り出したナイトの透明なピースを咥えさせ、頬辺りをそっと触れたが、合図、深紅の竜は、大剣もろとも三日月rabbitを、飲み込んだ。
ぐるっと八の字を描いて、戻ってきた深紅の竜の口には、〈三日月の上にウサギ〉の黒いピースが咥えられていた。黒いピースを受け取り胸に仕舞うと、視線の先に、三日月rabbitがうつ伏せになっているのが、見えた。
三日月rabbitは、何も身につけていない、本来の兎の姿だった。
ぴくりとも動かない三日月rabbitが、心配になって近づけば、三日月rabbitの右手の下に、何か、光るものが見えた。先ほど、光っていたものかと、僕はしゃがみ、そのものを引っ張り出した。
ハートの半分のモチーフの、金の〈鍵〉だ。
はっと気づけば一面が、反転、白一色。
マッド・ハッターと〈全く同じ扉〉が、目の前に現れた。
僕は、〈違和感〉を感じながらも、手に持った〈鍵〉で、扉を開くと、中に入った。
いつも通り、〈世界は変化〉する。
空は憂いているように、曇天。
今にも雨が降りそうな、そんな嫌な天気だ。
紺色に輝く司令部ビルの真下、そこには、今よりも一回り小さく、何も身につけていない、三日月rabbitがいた。
不満顔、という表現が一番しっくりくる、そんな顔で、司令塔ビルを見上げている。
「そんな所で、何してんだ!邪魔だ、邪魔!どけどけ」
「全く、女の癖して、毎回毎回。俺らの仕事場は、遊び場じゃねーんだよ。女は家で、皿でも洗ってな!」
一回りも二回りも大きい茶色いウサギ達が、軍服の上着を着て、三日月rabbitを下げずんだ目で見下ろし、囲んだ。
三日月rabbitは、眉間の皺を更に深め、負けじと、茶色いウサギ達を睨みつける。
暫く、睨み合いが続く。
「何を、しているんだ?」
通りの良い透明感のある、男の声。
三日月rabbitを囲んでいた、茶色いウサギ達は、声の主を見るや否や一斉に、三日月rabbitから離れて、一列に並んだ。
「ニ月ウサギ中将に、敬礼!お疲れ様です!」
そう言って、茶色いウサギの、一番デカいウサギが、声を張り上げた。その声で一斉に、茶色いウサギ達は、敬礼する。
「お前達、下がりなさい」
茶色いウサギ達は、敬礼を一斉に止めると、小走りで、建物の中に入っていく。
ただ、一人のいかにも悪そうな、茶色いウサギは、ニ月ウサギに見えないように、唾を吐き捨て、中に入っていった。
そして、二人のウサギ。
真っ白な軍服姿のウサギと、銀色ウサギだけが残った。
ただニ月ウサギは、三日月rabbitより、背が高いのだが、やけに痩せて、見えた。
「三月ウサギ、家へ帰りなさい。ここは、あなたが来ていい場所ではない。何度繰り返しても、〈女〉は軍人にはなれない、〈ルール〉、なんだ」
三日月rabbitは、ムッとしてた顔から、徐々に悲しげな顔になって、何かを堪えるように口を窄める。
「三月ウサギ、あなたの気持ちは充分に理解している。私が不甲斐ないばかりに、いつも心配をかけて、すまない」
「ニ月兄さんは、何も悪くない!悪いのは、影でコソコソ、陰口を立てる奴らだ!ニ月兄さんは、ただ、生まれ付き病弱だった、それだけだ!何も悪くない!それでも上に立つ者として、立派に今も努めてる!なのに、父さんも、アイツらも兄さんを、馬鹿にしすぎだ!」
急に、カッとなって怒り出した三日月rabbitは、その怒りに任せた勢いで、ものすごい早口で捲し立てた。それをニ月ウサギはそっと抱きしめて、背中をポンポンと優しく叩いた。
「私の代わりに、いつも怒ってくれて、ありがとう。それだけで、私は、充分だ。だから、私のことは心配せずに、家に帰りなさい」
三日月rabbitは、ニ月ウサギの儚げで優しい笑顔を見ると、腕の中で、初めて優しい笑顔を見せた。
秋風が噴き上げて、たくさんの茶色い木の葉が舞い上がり、僕の視界を遮った。
遮るものがなくなると、季節が移り変わっていた。
相変わらず、空は憂いているのか、曇天。
辺りはどこか物悲しい、褪せた色をしているようにも見える。
ぽつ、ぽつ、と空から雨。
本降りではない様子。
灰色の黒の割合が濃くなって、これから本降りなりそうな気配。
そこに現れた三日月rabbitは、今の大きさに成長していた。
相変わらず、何も身についていない。
焦った顔をして、司令塔ビルへと乗り込んでいく。
エレベーターボタンを、イライラしながら連打し、チーンと音がして開いたエレベーターに、素早く乗り込む。
上に行くボタンは、このエレベーター以外は、存在しない。
乗り込めば、自動的に最上階へ行く仕組みだからだ。
最上階に君臨する者が、使うエレベーター。
腕を組み、イライラで貧乏揺すりが止まらない三日月rabbit。いや、どこか雰囲気がおかしい。
チーン、とまたエレベーターが鳴った。あっ、という間に到着。
ガーと、扉が開いた瞬間、居ても立っても居られない三日月rabbitは、すぐ、部屋へ飛び出した。
そこは、あの時見た部屋と同じ作りなのに、全体的に、黒い部屋というイメージ。
あの目立つ執務デスクは安っぽい量産品のような茶色いデスクだ。
そのデスクに、両肘を付き、顔の前で手を組み、ティアドロップ型サングラスをかけ、ここで一番大きい、真っ白なウサギが、肩に軍服を引っ掛け、椅子にどっしりと座っている。
チラリと見えた口髭と顎髭は、全く似合っておらず、真っ白なふさふさな髭だけを見ると、サンタクロースで、ある。
デスクを挟んで右側には、地面に唾を吐きかけた茶色いウサギが、後に手を組んで、姿勢正しく直立し、顔は青ざめ、恐怖の色がちらついている。
その二人を点で結んだら、丁度、真ん中にあたる床に、頭を抱え、ぴくりとも動かない二月ウサギが横たわっていた。
その二月ウサギに近づいた瞬間、三日月rabbitは驚愕し、ガクッと膝をついて、呆然と見つめた後に、ぼろぼろと、大粒の涙を流して二月ウサギを抱き上げ、二月ウサギの胸に顔を埋め、強く抱きしめた。
シーンとした部屋に、三日月rabbitの押し殺した嗚咽が、時折、響いた。
「三月ウサギ、もう、二月ウサギは死んだのだ。死んだ者に、いつまでもすがるものではない。みっともないぞ」
どこか可愛さが変に際立ち、威厳のない、一番大きな真っ白ウサギは、想像できないほど、重低音な声で、静かに、そう言った。
三日月rabbitは、それを聞くや否や、ぴくっと、体が小さく反応した。
「父さんは、悲しくないの!二月兄さんが、死んだんだよ!!!!!!」
そう怒鳴り散らし、顔を上げた三日月rabbitは、鬼のような顔付きで、父親ウサギを睨みつけた。
「悲しくないわけではない。だが、死んだ、事実は変えようがない。それより......」
あくまでも冷静に、話を進める父親ウサギは、顔を茶色いウサギの方へ向ける。
「お前、どうするつもりだ?私の息子を、お前が殺した。大前が突き飛ばして、殺したのだろう?この場で、私の、剣の錆にでもなるか?」
ガタガタ震え出した茶色いウサギは、急にしゃがんで、頭を床に付けると、土下座した。
「どうか、どうか、どうか、一月ウサギ大将、御慈悲下さい!オレは、オレは悪くない。ただ、軟弱だと、ただただ、気合いを入れてやろうと、背中を叩いただけ。まさか、まさか、叩いたくらいで、倒れるほど具合が悪いとは、思いもしなかった。そう、事故、事故です。たまたま頭の打ちどころが悪かった。そう、こいつの運が、悪かっただけですよ!」
その様子を、サングラス越しでどう見ているのかは分からないが、ひやっと冷たい視線を感じる。
暫くじっと茶色いウサギを見ていたが、悪くないと一点張りの茶色いウサギに、うんざりするようにため息を深くついてから、顔を背けて元の位置に戻してから、サングラスを外すと、テーブルに静かに置いた。
顕になった顔は、眉間に、深い皺が寄っていた。
「非を認めようともしないとは、軍人に有るまじき行為。私の息子も軟弱で、これしきで倒れて死ぬとは、実に情けないが、お前はもっと情けない。私の刀の錆する必要すら、ない。しらけたな、下がれ。二度と私の前に、現れるな。消え失せろ!」
片手を茶色いウサギの方へ向けて、軽蔑した顔で、シッシッと、手を払う。
それをずっと、黙って見ていた三日月rabbitは、ワナワナと、身体を震わせる。
「お前には、お前等には!!!心がないのかぁ!!!!!!!!」
悲痛な、がなりの大きな叫びが、部屋を震わせた。耳が、ビリビリとして痛い。
そして、ここは室内にも関わらず、容赦なく叩きつけるような豪雨の音と、雷の、獲物を狙っているかのようなゴロゴロゴロという音が鳴り、破裂して、バリバリバリと落ちたような凄まじい、音が、する。
部屋も心の闇のように薄暗く、雷が光る度に三人を映し、影を落とす。
「お前風情が、何を言っても、何も響かん!事実を、ただ、言ったまでだ。死体は直々に私が、丁重に埋めてやろう。それくらいは、私の息子に生まれたのだ、してやろう」
「ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
三日月rabbitの怒りが、爆発した、瞬間だった。
三日月rabbitに、感情は無い。
虚無な、死んだような目、金色だった瞳の色は、血の涙のように真っ赤かに染まり、乾いた涙の跡は、血が滲んだように、赤い、二本の線。決意による化粧、のようであった。
無言で、三日月rabbitは、二月ウサギを抱き上げ、大事に抱いたまま、静かにその場を立ち去った。
それを、誰も、咎める者はいなかった。
エレベーターのドアが、閉まる。
部屋は、電気を消したように、真っ暗になった。
ピカっと、光った。
ドス黒い雲が、空を覆う。雨は誰かの憂いを代わるような豪雨で、景色が、黒いのか、雨が黒いのか、分からない。
ピカっと、光のは稲光で、激しく、それは光る龍の如く、雲に中を駆け巡り、鉄槌のような雷を、心臓が飛び出そうなほどの、爆音と共に、ひっきりなしに、落としている。
だから、辺りが明るく見えているのだ。
見慣れてくると、この島を囲う海は荒れ狂っており、今にも島全体を呑み込むのではないかというありさま。
ここはもはや、地獄、という言葉がお似合いの場所であった。
そこに、二人のウサギが、平然と、火花が散るような勢いで見つめ合い、向き合っている。
一人は三日月rabbit、もう一人は三日月rabbitの父親ウサギだ。
両者は剣を構えて、剣先が触れるか、触れないかの、近距離。
父親ウサギは、二刀流。
右手には、織田信長の愛刀、薬研藤四郎という短刀。左手には、こちらも同じく、信長の愛刀、へし切長谷部という打刀。右手を胸元辺り、左手を頭部辺りに掲げ、少し後に引いた状態の構え。
三日月rabbitは、青銀に輝く美しいツヴァイハンダーを、腰を落とし、両手で持って、正面で構えている。
般若のような顔の父親ウサギは、泥まみれで、真っ白だった毛が黒ずみ、黒く長い軍服を肩に掛け、ギロリと蛇のように鋭い眼光が、金色に、ギラギラ光るさまは、魔王、そのものだ。
信長の愛刀を握り締めているからこそ、第六天魔王と名乗った信長に重なり、そう見えるのかもしれない。
そんな恐ろしい、強大な壁に対し、三日月rabbitは、とても冷静。
足元に、あの兄の仇の茶色いウサギの後頭部を、片足で踏みつけながら、感情というものが全て抜け落ちて、ただただ静かに、父親ウサギに、向き合っている。
ドォォォォォォォォン!!!!
今までにない大きな雷が、地面を揺らすほど、大きな爆音を響かせ、落ちた。
それが合図となって、三日月rabbitは、大きく振り上げ、一撃を、喰らわす。
父親ウサギは、手練れで、動作に余裕があり、一撃を軽く打刀で流して逸らし、咄嗟に、短刀を、三日月rabbitの首元に突き出す。
そこを、三日月rabbitは、大剣を上手く利用しながら、身体を捻り、手早く短刀から逃げる。
くるっと回転してから、その勢いで大剣を真横に持て、一回転で、斬りかかる。
ガン!と、剣と剣が、ぶつかり合う、派手な音がするが、決定打にならない。
切り合いは、更に続く。
だが、三日月rabbitの消耗が、激しい。
一撃一撃、斬りかかるたびに、三日月rabbitの力がゆっくりと、外へ流れて出てしまっている、そんな感じだ。
「ははははははは!所詮、お前は、女!いくら、兄の剣を使っても、兄に剣術を教わっていても、男には、なれん!いくら剣術のセンスがあったとしても、女が、男に、そう、ましてや、この私に、勝てる訳が、ない!!愚かな我が娘よ!!いい加減、この遊びも、飽きたわ!!この剣の錆になれることを、誉れと思い、死ね!!!」
父親ウサギは大きな、がなり声を上げ、ダン!と、地面を抉れるほどに蹴り飛ばし、距離を詰め、二刀を左上部へ上げてから、力任せに振り下ろして、三日月rabbitに、斬りかかった。
予測していた三日月rabbitは、大剣を、空高く放り投げ、父親ウサギの、風をも起こす斬撃を寸でで避け、父親ウサギの片足を、素早く、横から思いきり蹴り飛ばし、よろけさせた。
上空から落ちてくる大剣を、地面を蹴ってジャンプ、両手で柄を握り、そのままの勢いで、父親ウサギに斬りかかった。
その時だ、天空から雷が落ちて、降り下ろした大剣を伝い、よろけながら構えた打刀へと移り、父親ウサギの身体へと流れていった。
父親ウサギの大きな身体でさえ、bilibiliと大きく痺れ、バチッと、ショートして、火花が散った。
もとより、汚れて黒くなっていたからなのか、感電して丸焦げで黒くなったのかは、判断がつかないが、電撃により事切れた父親ウサギは、地面に倒れて、ぴくりとも動かなくなった。
丁度、その横には、あの茶色のウサギもうつ伏せで、屍となって、地面にめり込んでいる。
終わったのだ。
荒れ狂う天候も、静かで、穏やかだ。
静寂な闇夜。いや、光はある。
見上げれば、月。
でも、歪な、三日月。
天高く、大剣を両手で振り上げた、三日月rabbit。
「私は、今日で三月ウサギを捨て、新たに、あの三日月ウサギ...いや、rabbit、三日月rabbitとして生きていく。そう、宣言する!」
宣言した瞬間、憂は晴れたとでも言うように、空はガラッと、一変し、秋晴れて、辺りは優しく落ち着きを見せた。
荒れ狂う海も穏やかに、物悲しい景色は、赤や、橙や、黄に染まって、美しく彩られた。
三日月rabbitは、やっと感情が戻ったように、小さく笑った。
でも、その笑顔には、ほんの少し、悲しみの色が滲んでいた。
頬を静かに伝う涙は、陽の光に照らされて、キラキラ輝いて美しく、そこで、三日月rabbitは、女性なんだと改めて感じた。
か弱い、小さな女性なんだと思えば、僕は、三日月rabbitに、近寄って、抱きしめずにはいられなかった。
「ここまでよく、頑張った。これからは、僕が、〈一緒〉にいよう。〈一緒〉に、歩んで行こう」
静かに語りかける僕は、初めて、そこで現実となった。
三日月rabbitは、少し驚いたように目を見開いたが、小さく、頷いた。
「ありがとう、マスター」
僕達は、暖かな陽の光に包まれ、光の粒子となって、その場から消えていった。
目の前には、眠たそうにしながら、迷惑そうな顔のマッド・ハッターと、それを面白がって叱りつけている、元気な三日月rabbit、それを面白がって、地面に座って見ている、スノードロップと、キティがいた。
みんなの所へ行こうとしたら、晴れているはずの空から雨が、ポツンと、一滴、落ちてきた。
何かと、掌に落ちてきたものを見てみれば、〈鍵〉。ハートの半分のモチーフの、金の〈鍵〉だった。
そう、認識した瞬間、急に辺りは、白一色に染まって、大きな扉が現れた。
例の如く、何かの〈記憶〉の扉、なのかもしれない。
〈鍵〉を差し入れたが、合っていないらしく、捻ることも出来ず、開かない。
困ったと思いながら、何気なく、ポケットを触れた。
そういえばと思い、ポケットから、ハートの半分のモチーフの、銀の〈鍵〉を取り出した。
二つの〈鍵〉を合わせると、丁度良くはまって、今度は、ハート型の〈鍵〉となった。
それをもう一度、扉の鍵穴へ、差し入れた。
ガチャっという音と共に、〈鍵〉は、僕の手元に残ったまま、扉が自動に開いた。
無くさないように、〈鍵〉をポケットに大事に仕舞い、開いた扉へ、ゆっくりと、中を見回し、確かめながら、慎重に、入っていった。




