step.10 チャカイのメンツの次は大将?
目が覚めて、一番最初、目に飛び込んできたのは、スノードロップと、キティの二人。
あまりにも顔が近かったので、互いにおでこをぶつけ合い、痛みで、現実に、戻ったのかと認識したくらいだ。
まだ少し痛むおでこを撫でながら、仰向けになっていた身体を、ゆっくり上半身だけ起こした。
両側から、それぞれ覗き込んでいた二人は、僕が起きたことを確認すると、何事もなかったように、にっと、笑って、近くの派手派手な店へと走って行ってしまった。
「あら、子猫ちゃん達は、自分の主人より、食なのねぇ。まぁ、私の街の店は、どこも一級品だから、惹かれるのは当たり前といえば、当たり前だけれど。それより、いつまで、そうしているつもり?」
急に、頭上に影ができたと思えば、そう言って立ったまま、僕の顔を覗いているのは、マッド・ハッターだ。
ただ、あのどこか嫌味な感じの雰囲気は、微塵もなく、以前は付けていなかった、キラキラ輝くアイシャドウに、真っ赤なルージュ、深緑のふわふわパーマの髪は肩まで伸び、主張激しい若草色の洋服、ピカピカに磨き上げられたエメラルドに光るブーツではなく、ヒールの高い丸っこい形のパンプス、以前より、大きな手触り良さそうな、ふわふわの星が散りばめられた白いリボン、と、これぞ、イカれ帽子屋、と呼ぶに相応しい格好になっていた。
それだけでなく、言葉遣いや、立ち振る舞いが、なよっとしており、お兄さんというかオネェと呼ばれる、それである。
似合ってない訳ではないが、余りの変わりように、驚きは少なからずあって、言葉がすんなり出てこない。
「大丈夫?まだ夢心地、なのかしら?」
「あ...いや、そういう訳じゃないけど、随分、変わったなぁ、と思って」
「だぁって、アリスが、〈ありのまま〉でいいって言ったんでしょ?」
「あ......うん。そう、だね」
「私は、単に意地になっていただけなのよね。確かに小さい方が可愛らしい、けど、それだと成長した自分は不必要か、といえば、そうじゃない。ただ、私は、可愛いものを身につけて、可愛く見られたい。この姿でも、愛されたかっただけなのよ。だから、今は、自分で掛けた呪縛から解放されて、晴れ晴れよ。これもアリスのお陰ね。だから、アリスも、〈解放〉されると、いいわね」
「え?」
「そうそう!見せたいものが、あるのよ!私、全部、呪縛を取っ払っちゃおと思ってね。さっき、綺麗さっぱり、ゴージャス!に、変えてやったわ!ア・リ・スの、お陰よ!一緒に、見て頂戴!」
マッド・ハッターは、半ば強引に、僕の手を引っ張って、子供みたいにはしゃいで、どこかへ連れて行こうと走り出し、僕も一緒にというか、強制的な形で、走り出した。
「見て!」
マッド・ハッターが指差す先、フランス宮殿のような美術館が、今は、高級感漂うアラブの宮殿のようになっていた。
その宮殿には、なぜか、真っ直ぐ行くことは出来ず、真正面は大きなプール、ど真ん中には、上半身はライオンで、下半身はマーメードのような魚の形で、コンクリートでできた、真っ白な像が、波の形の台座乗って、口からプールに向けて、水を吐き出している。
その両サイドには、電飾で飾られた大きなヤシの木が並列され、プールの左前には、束ねられたチューブ構造で、6本の放射状に伸びる花びらを持つヒメノカリスをイメージしたデザインの、ものすごい高層ビルが建っている。
まさに、豪華絢爛。
「凄いね」
僕は、ただただ、圧倒されるだけで、陳腐な言葉しか出てこないが、それでも、それで良かったらしく、マッド・ハッターは上機嫌。
「中もね、凝ったのよ、見て、見て!」
パチンと、マッド・ハッターが指を鳴らせば、室内。
カジノフロアは、ステンドグラスで彩られ、絵画などの美しい美術品が惜しげもなく置かれ、旧式のスロットマシンの展示もされている。
ただ、肝心のルーレット台や、スロットマシーンがないなと、辺りをキョロキョロキョロ見回していれば、パチンっと、また、指が鳴る音。
空中に少し湾曲した大きなディスプレイが表示され、何もなかった所に立体映像で、リアルなルーレット台や、スロットマシンが映し出される。
その映像の端には、赤、緑、黄、青の、四つの、窓、のロゴマークが、主張する感じで、光って、入っていた。
「接触式だから、スロットなら、ボタンの所を押せば、ちゃんと動くのよ!オンラインで繋がってるから 、持ち手のコインの数も、上のモニターでリアルタイムで見れるの!あ、そうそう、可愛い仲間も、増やしたのよ!」
パンパンパンと、手を叩くと、出入口からトテトテと、ピンクのフーセンに手足が付いた、大きな目と小さな口が可愛らしい、生物が入ってくる。
その少し後から、ピンクと似ているが、サルのような模様で、オレンジ色の生物が続く。
最後に、フォルムは他と似ているが、鉄仮面に、肩当て、マントで、ギザギザの金の剣を持った青紫の生物が、優雅にゆっくり、こちらに歩いてきた。
ピンクの生き物が、スロットにコインを入れ、バーを引けば、ルーレットが回り、三回ボタンを押せば、スターが三つ並んで、吐き出し口から、ジャラジャラとコインが出てくる。
マッド・ハッターの話では、デジタル映像と聞いていたが、ピンクの生物は、なぜか、出てきたコインを片っ端から、吸い込んで食べている。
とりあえず、仕組みは、よく分からないが、すごい、というのは、分かった。
「あら~?これだけじゃないのよ、あのオレンジ色のウァィルディは、持ってるスマホを通して、通訳も、できちゃうんだから!」
僕は、そう言われて、ウァィルディを、見る。
手に持っているスマホの画面が、ちらりと見え、赤、黄、緑、青配色で、G、のロゴマークが、主張するように、煌々と光り、浮かび上がっている。
あれが、翻訳機なのだろうかと思って、聞いてみたい気もしたが、何か忘れている、気もする。
「あらやだ!私ったら!自慢したいばっかりで、こんなに時間が過ぎてるじゃない!次の相手は、短気な、野ウサギだから、ゆっくりしてる場合じゃないわね!ていうか、子猫ちゃん達は、どこ行ったのかしら?まったく!仕方ないから、こっちから行きましょうか。どうせ、呼んでも、あの二人だと、来ないでしょうし」
マッド・ハッターが、パチンと、指を鳴らした瞬間、大きなサーカステントの中に、僕達はいて、観客席で、両手を上げ、キャッキャ言って、興奮しながら観ている、二人の隣にすとんっと、座った。
目の前では、体を自在に曲げている軽業、ジャグリング、力業、道化、空中ブランコをふんだんに取り入れた、芸術的な演出の、演目が行われていた。
LAST!と電子掲示板に文字が光り、白くて耳が黒い可愛いビーグル犬達が、元気に、素晴らしい、パフォーマンスを始めた。
「なるほど、ここ、ね。確かに、ここは、サイコーーーーーに、楽しいわね。でもね、行くわよ!」
パンパンパンと、マッド・ハッターが軽快に手を叩くと、二人は黄色い物体、Lilに、店から放り出された。
僕達は勿論、普通に歩いて、出たのだけれど。
二人共、ポップコーンの入った、ビーグル犬の絵柄の箱を抱え、口の中の物を、もきゅもきゅ咀嚼しながら、少し不満げな顔で、渋々といった感じで、こっちに戻ってきた。
「ちょっと、子猫ちゃん達、仕事、忘れないの。...ん?あら、Lil、そんな悲しい顔しないで。少しいなくなるだけなんだから、またすぐに、戻ってくるわ」
Lilが、マッド・ハッターの裾をぐいぐい引っ張っていたのに気づいたマッド・ハッターは、しゃがみ込むと、優しい笑顔でLilをあやすように撫で、言い聞かせていた。
そういえば、〈解放〉されたのに、黄色い物体は、あちこちに見る。
そう、大人の姿は、全く見えず、不思議に思い、辺りを何気なく見ていた。
「あら、不思議そうな、顔、してるわね。何か、聞きたいことがあるなら、遠慮なく、どうぞ?」
「あ...うん。どうして、大人は、いないのかな?って思って」
マッド・ハッターは、僕を見上げながら、急に高らかに笑い出した。
ひとしきり笑った後、意味深な笑みを浮かべて立ち上がり、僕に近寄ると、腰に両手を置き、顔を近づけてくる。
毎度、距離感が近く、可笑しい。
「不要、だからよ。私にとって、価値がないの。可愛い方が気分が上がるし、楽しいし、いい目の保養で、癒しにもなるでしょ?それに、私は、〈傲慢〉なのよ。私の街なのだから、私の好きにするわ。そうでしょ?〈私の〉なのだから」
「「そうそう、マッド・ハッターの強みは、〈傲慢〉、さ。アリスも、見習った方がいいよ!アリスは、怯みやすい。マッド・ハッターとまでは言わないけど、〈傲慢〉さは、時として、必要なんだよ!何事も、〈優位性〉!逆境でも、〈優位に立つ〉ことが、この世界で、勝てる必勝法!」」
二人は片手を腰に、片手は僕の方へ腕を伸ばすと、人差し指を向け、どこかのアニメキャラのようなポーズに、得意げな顔で、実に楽しそうに、そう言った。
因みに、どこのアニメなのかは、思い出せない。
ただ、二人が言っている事は、理解でき、そうかと、納得がいって、口元が、にやっと、釣り上がった。
それに気づくと、咄嗟に、口元を左手で覆って隠した。
自分自身に、ゾクっと、してしまう。
何かが、僕の中で、〈変化〉しているのを、感じた。
「あら、悪い顔ね、アリス」
ポンと肩を叩かれて、僕はびくっと、小さく肩を上げる。マッド・ハッター顔が、真正面、ぎりぎりまで、近づいていたからだ。
「でも、いい顔になってきたわ。〈そうで、なくちゃ〉」
マッド・ハッターは、顎に手を置くと、一人納得したように、うんうん頷いてから、距離を取るように、少し離れる。
「え?」
「ふふ、なんでもないわ。さぁ!行きましょう!短気な、〈三日月rabbit〉が、待ってるわ!」
そう言って、マッド・ハッターは、ウキウキ浮かれ、僕の腕に手を通すと腕組みし、めいいっぱい引っ張る。
僕は、少し足がもつれ、よろけ流れるまま、歩み出した。のだが、逆方向に、強く引っ張られる。
何かと思えば、Lilが、いつのまにか、僕の裾を、掴んで引っ張っていた。小さいのに意外にも、力は強いらしい。
Lilに、マッド・ハッターも気づいたらしく、歩みをやめ、Lilを、見下ろす。
「あら?Lil、どうしたの?何、用、かしら?」
マッド・ハッターは、微笑んでいるが、目は笑っておらず、叱りつける親みたいな、そんな雰囲気だ。ただ、声音は優しい。
Lilは、そんなマッド・ハッターに、怯えたように僕の後ろ手に隠れ、僕の太もも辺りをぎゅっと抱きしめ、隠れたいのか、顔を押し当てている。
ただ、右手は何かを差し出すように、上に出している。
気になって、その掌を見た。
キラリ、何かが、光った。
もう一度、よく見てみると、ハートの半分のモチーフ型の銀の〈鍵〉が、掌の上に、あった。あの時の、〈鍵〉だ。
「あら、これのため、だったのね」
近づいて来たマッド・ハッターは、〈鍵〉をひょいっと取り上げると、申し訳なさそうに眉を少し下げ、優しく微笑むと、少し屈んで、Lilの頭を優しく撫でた。
「ごめんなさいね」
そう言われたLilは、顔を上げて、ニコッと、可愛らしく笑う。
マッド・ハッターは、パチンと、指を鳴らして、赤い上着を着た黄色いクマのぬいぐるみを、Lilへ渡す。
Lilは、マッド・ハッターに、ひとしきり撫でてもらうと、僕から離れ、陽気な歌を口ずさみなが、店へと帰っていった。
僕達は、手を振って、それを見送る。
「はい、アリス。〈大切なキー〉なんだから、無くさないように、ね」
そう言って、マッド・ハッターは、僕の左手に〈鍵〉を握らせると、その上から力強く握った。
「う、うん。ポケットに仕舞って、今度は無くさないようにするよ」
「そう、だね」
マッド・ハッターが手を離すと同時に、僕はすぐさま、ポケットに、〈鍵〉を仕舞った。
これで、二本目と思いつつ、ポケットの上から〈鍵〉の存在を、確かめた。
「さ、急ぎましょ!相手はなんて言っても、短気中の、短気、なんだから!」
今度こそ、マッド・ハッターに、引き摺られ、〈三日月ウサギ〉所へと、今度は、歩き出した。
僕等は、マッド・ハッターに案内されるまま、連なる小さな四つの島を、海の上に掛かった大きな橋を渡り、大きな島へと辿り着いた。
そこは、海沿いに広がる、大きな米軍基地がある場所。
キラキラと水面が光り、真っ青な綺麗な海とは対照的に、通り抜けてきた門は、大きなフェンスの上に刺鉄線が、ぐるぐると巻かれて、物々しい。
中は、司令部ビルと、娯楽施設と、宿舎のある本部区域。コミュニティー施設のあるREX地区。9階建ての住宅群がある、南部区域でできている。
マッド・ハッターから、軽く説明を受けながら、僕達は尖ったビルみたいな、綺麗な紺色に輝く、司令部ビルへと、入って行った。
ビルの最上階へ行く、ガラス張りのエレベーター。僕の姿が、ガラスに映る。
いつのまにか、武装は解けいて、元通りの白と、水色仕様。やはり、これが落ち着く。
そう思いながら、下の景色を眺めていると、城跡が見えた。
なぜか目を引いて、じっと見つめてしまう。
トントンと、マッド・ハッターに肩を叩かれて、はっと、意識が戻りると、エレベーターを降りた。
そんな僕に、マッド・ハッターは、大昔に、どこかの、お偉いさんが建てた城が、朽ち果てた残骸だけど、ここの人達は、特に興味がなく、放ったらかしなのだと、教えてくれた。
忘れられた存在は、こんな、物悲しい状態で、放置されるのかと思い、インクの墨汁が、一滴垂れ落ちるように、じわりと、やるせない気持ちが、少し胸の中に広がった。
エレベーターから降りた部屋は、大きなホールのような部屋で、床はここの海のように真っ青で、中央には燃え上がるような大きく、真っ赤な鳥居が描かれている。
中央には、ポツンと、真っ黄色の執務デスクだけが置かれていた。
〈主張が激しい〉が、どこか寂しい感じもする、部屋だ。
「やぁ!アリス!やっと、来たんだね!待ち侘びたよ!」
少し興奮気味に、早口で捲し立てた三日月rabbitは、真っ黄色の少し低い執務デスクとは、全く釣り合わない。
なぜかといえば、毛がもふもふで、つぶらな漆黒の瞳がまた、可愛らしい、小さなウサギだからだ。
座っていた物々しく、脚が高い椅子から、威勢良く、それでいて軽快に、デスクを飛び越え、そのままの勢いで、僕達の目の前まで飛んできた。
お茶会で会った時の服装はしておらず、ウサギ、本来の姿のままだ。
軍服とマントは椅子に掛け、キャップとサングラスは、デスクの上に置いてある。
常に身に付けている、という訳ではないみたいだ。
ただ、咥えていたパイプだけがなく、妙に気になって、キョロキョロと視線を巡らせた。
「おんや~?何を、お探しかな?」
ウサギらしく、ピョンピョンと上下に跳ねながら、僕の視界を、度々遮ってくる。
「あ、いや...パイプ、ないなっと思って」
跳ねるのを、やめた三日月rabbitは、僕を見上げて、可愛らしく、口を、かぱっと開ける。
「食べたよ!」
三日月rabbitを見下ろしたまま、僕はギョッと驚いた顔で、マジマジと、変なものを見るように見る。
「ちょっと、ちょっと!何か、勘違いしてない?私のパイプは、チョコレートでできたお菓子!仄かな甘みと、ほろ苦さに加え、ポリフェノールは、体にいい!!あ、食べたい?」
早口で、捲し立た三日月rabbitは、パチンと、指を鳴らす。
宙から、小さなチョコレート色のパイプが落ちてきて、丁度、三日月rabbitの、可愛らしい掌の上にコロンと、転がった。
それを僕の方、斜め上方向に、差し出す。
だが、僕は、マッド・ハッターの一件があったので、警戒し、首を緩く振って、受け取らなかった。
「......ははぁーん。ハッターに、痛い目に合わされた、そんな所でしょ?私は、ハッターとは違って、そういう卑怯な真似は、しない!正々堂々と、勝負して、勝敗を決める。勝った方が、言うことを聞く。そういう、シンプルなのが、好き!」
早口で捲し立て、三日月rabbitはパイプ咥えると、軽快なステップで、デスクまでピョンピョーンと、跳んで戻った。
すると、サングラス、キャップ、軍服とマントをささっと順番に身につけて、デスクの上で、仁王立ち。
それでも威圧的な感じはせず、可愛いさの方が、勝る。
「さ、アリス!バトルしよう!!!」
そう、勢いよく、高らかに叫んだ三日月rabbitは、左手を上に上げて、パチンと、指を鳴らした。
一気に床が深海のような薄暗い紺色に染まり、一瞬にして部屋全体を飲み込んだ。
暗転。
それも一瞬で、闇がシャボン玉が弾けて割れたように、視界から消えてなくなると、天井だったはずが、夜空へ。
星はないが、大きな、大きな、黄金色に、煌々と輝く歪な三日月が、部屋だったはずのこの空間を、真上から照らしている。
そして、床だった場所が盛り上がり、四十六センチ砲を搭載した超弩級戦艦が、そこから、僕と、三日月rabbitを、デッキに乗せて盛大に水飛沫を上げ、一気に浮上した。
床は、床なのではなく、葛飾北斎という遠い昔の浮世絵のように、荒れ狂う海のように波が立ち始めた。
当然、乗っている戦艦も、揺れる。
それでも、僕も、三日月rabbitも、平然と立っていられるのが、不思議だ。
それに、三日月rabbitは、目が爛々と不気味に、口角が上がり、口が開いて見えた歯は、ウサギ特有の、上あご切歯ではなく、人間のような歯がずらっと並んで、見えた。
そう、ウサギと言うより、その歯が、人間臭くて、余計に不気味に感じ、背中が、ゾクッと寒気を感じた。
僕は、その後、ゾワゾワっと、身震いした。
そして、なぜか、ワクワクして、僕も、口角が、にやっと、釣り上がった。
「さ!ステージは、整った。Ready to fight?」
すっーーと、三日月rabbitの目が細められ、それ以降は、じっと、見つめて黙っている。
三日月rabbitの仕業なのか、僕と、三日月rabbitとしか、この空間には、居なくなってしまった。
普通の感覚なら、仲間が側にいないのだから、恐怖を覚えてもしかないのだが、今の僕には、欠けらもない。
寧ろこの状況を、楽しんでしまっているのだ。
「Yes」
僕が、低めの声でボソッと短く、そう答えた瞬間、互いに、パンパンと、手を叩く。
僕の手からは、白と黒の煙が立ち昇り、白と黒のブロックチェック柄の巨大な竜が、僕を守るようにぐるりと巻き付いて、浮遊している。
三日月rabbitからは、真っ青な綺麗な海色の煙が、ぐるぐると、三日月rabbitの身体に巻き付き、全身を隠す。
すると、海に差す光が漏れ出すような現象が起こり、ふっと、霧のように散って、三日月rabbitから、消えてなくなると、煙の色と同じ、真っ青な綺麗な海色の水溜まりが、三日月rabbitの足元に広がる。
水溜りに波紋が一つ、二つと広がれば、それに連鎖して、水溜りも大きく、ひとしきり、大きくなった水溜りから、ぬっと怒りに満ちた竜の顔が出、三日月rabbitを、上に押し上げた。
見えた竜は、生えた二本髭と、左右に四本ずつ生えた角は、雷のように伸び、細長い口から見える牙は、剣山のように鋭利で、その上から覗く濁った、黄金の瞳は、ギラリと輝いて鋭く、メタリックに輝く鱗は、先が刃物のように鋭利で、逆立っていた。
比較的近かった僕と、三日月rabbitとの、目線の高さは、今ではうんと離れて、僕が遥か上を見上げないと、見えない。
それでも、違いの視線が真っ直ぐ感じられ、一瞬きした瞬間、互いに、自分の竜に触れ、武装モードへと、切り替る。
三日月rabbitの竜は、マルチロールファイターという戦闘機になっていた。
真っ青な機体に、小さなマークが三つ入っている。デビルのマークと、戦闘機のマークと、星形マークで、ダークな青、紺色に近い。
シャープで、滑らかな機体に、空対空ミサイルと、二十mmガトリング砲が搭載されている。
ギラギラ光るそれは、獲物を狙っているように見える。
僕は、それが目に入った瞬時に、ブロックチェックの竜に触れ、戦闘服に身を包む。
互いに視線が丁度重なった瞬間、開始のゴングのように、戦艦から砲弾が夜空へ、交互に、二発打ち上がった。
真っ青なマルチロールファイターは、彗星の如く、僕を目掛けて落下、ガトリングから噴出される弾丸、僕は軽やかなステップで、避けていく。
真っ青なマルチロールファイターは、デッキの床、すれすれでVターン、上昇し、綺麗な半円を描いて、Uターンして、また攻撃、ガトリングからの、強烈な弾丸攻撃。
それでも、僕は、怯むことなくワクワクして、楽しさで、顔が緩む。
人ではない動き、それは僕であるが、戦闘機としては、生き物のように動く、まるで竜みたいで、互いに、別なもの、のように動く。
ただ、僕は、回避するだけで、攻め、に転じることができない。
それほど、真っ青なマルチロールファイターは、戦闘機の癖に、機敏。
僕は、逃げる一方で、ついに、船首まで、追い込まれた。
このままでは、荒れ狂う海へ、真っ逆さまだ。その時だ、
『『大丈夫、信じて!アリス!自分を信じて!!』』
二人の声が、はっきりと、聞こえた気がした。
でも、どこにも、いない。
呼び起こせ、というように、目がバチバチっっと、小さくだが、火花が散った気がした。
目の前には、真っ青なマルチロールファイターが、迫る。
足元、少し膝を曲げてグッと力を入れ、船首の床を思い切り蹴飛ばし、バク宙、夜空に浮かぶ月のように、綺麗な弧を描き、頭からゆっくりと、海へと落ちていく。
上手く、真っ青なマルチロールファイターからは、回避。
このままだと、海に攫われて、海の藻屑。
カッと目を見開き、息を小さく手早く吐くと、大きくパンパンと、手を叩く。
ぶわぁっと、手から真紅の煙が一気に立ち昇り、僕を優しく包み込んだ。
一度、瞬きをした後、僕は、深紅の大きな竜の背に、乗っていた。
そっと撫でるように竜に触れれば、深紅の三式戦闘機二型の戦闘機へ変化し、コックピットに、流れるように乗り込んだ。
そこで、ちらりと、メタリックボディに、日本の国旗が、描かれているのが、見えた。
三式戦闘機二型と、マルチロールファイターとでは、雲泥の差、兎と亀、並だ。
だが、轟音と共に、猛スピードの真っ青なマルチロールファイターは、その剛速球のような直球が故に、ダンスを踊っているかのような優雅で、滑らかな動きに、俊敏さを兼ね備える、深紅の三式戦闘機二型に、回避率でいえば、断然、格下。
それも、ハートの女王、スノードロップと、キティの能力が、合わさっているからこその、機能性。
だが、共に、どちらが特化しているわけではない。
攻防戦が、長く続くだけ。
バァン!!
コックピットが、乱暴に開く音が、響く。
真っ青なマルチロールファイターから、三日月rabbitが、出てくる。
すごい形相で、歯をギリ、ギリと強く噛み、目が血走ったように見開いて、僕を、ギョロっと、睨みつけてくる。
「なぜ!何故!なぜ!何故!!!!!」
三日月rabbitが、真っ青なマルチロールファイターの機体を、イライラしたように、足でガンガンガンガンと、蹴っている。だが、機体は、びくともしない。
それほど、三日月rabbitの蹴りは、弱い。
一連の流れを、深紅の三式戦闘機二型から、僕は、静観していた。
今は、冷静に、見定めている方が、有利。
じっと、一点、三日月rabbitを、見つめる。視線が合致し、ピタッと、三日月rabbitの動きが、止まる。
その時から、時が止まったように、お互いの距離は一定をキープし、クルクル旋回。
月の光が、スポットライトで、ダンスでも踊っているようだ。
だが、そんなロマンティックな状況なわけもなく、三日月rabbitが、動く。
真っ青なマルチロールファイターを、スッと、指でなぞる。
月に照らされて、キラキラキラと光る星砂と化するが、パチンと、一度、三日月rabbitが指を鳴らすと、真っ青なマルチロールファイターだった星砂は、青銀に輝く、美しいツヴァイハンダーへと、姿を変えた。
船のデッキへ、ガンっと乱暴に、降り立って、三日月rabbitは、右手を天高く上げる。
そこへ、ツヴァイハンダーが落ちてきて、丁度、フィットし、手に収まる。
ブンと、真上から真下に振り下ろすと、一旦、大剣を両手で持ち、大きく真上に振り上げてから、柄を頭部の上にし、斜め下方向に刃を下ろしたスタイルを、とった。
三日月rabbitと、大剣は、なんともアンバランスで、三日月rabbitには、似つかわしくない。
僕は、それを上空からじっと、眺めていたが、刃を向けられた瞬間、機体をそっと、優しく撫で、パチンと、勢いよく、指を鳴らした。
機体は、僕の意思を汲み取って瞬時に、長柄が、真紅の黄金の刃を持つ、大鎌へなって、両手に収まった。
時、少し遅れて、僕は、三日月rabbitと、対面上ではあるが、距離を置いて、デッキへ降り、大釜を振り上げた状態で構える。
再び静寂が訪れる。
無音。
それなのに、時計の針の音が、チ、チ、チと、鳴っている気がした。
心臓はバクバクと、異常警報。
汗が、一つたらりと、顔を伝う。
息苦しさに、唾を飲み込んだ、そう、その瞬間だ。
やはり、三日月rabbitが、軽やかにステップジャンプして、切り掛かってきた。
月に映えた三日月rabbitは、月に影を作り、月の海が見せる兎のようで、それが今、飛び出してきたようでもあり、僕は、戦闘中だというのに、あまりにも、幻想的な光景に見え、見惚れてしまっていた。
そう、致命的、ミス。
ゲーム、オーバーだ。
普通で、あれば。




