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第7話 旅立ち

 次の日、部屋で目覚めたら、シンシアが隣で寝ていた。寝ぼけながらシンシアと一緒に朝食に行ったら、両親からお小言をもらった。いつもなら怒られていただろう。朝食はやっぱりあっさりめの味付けだった。


 「アルス、シンシアちゃんも丁度いいかもしれない。アルス、お前には教会の幻術師育成コースと礼儀マナーも一緒に学んでもらう。つまり、教会で2年くらい寮暮らしをしてもらう。いいか?」


 お父様がいきなり俺の進路を宣言した。でも俺にとっても丁度いいかもしれない。シンシアを、勇者を救う術を調べるならそういうところに行くべきだろう。


「わかりました。教会で二年間、たくさんの事を学んできます」


「いいのか?二年間も村を離れるんだぞ?」


 あまりの即答にお父様の方がたじろいでいた。


「はい、目標が出来ました。だから、教会で幻術師として修行します」


 俺は幻術師だ。何をするにしてもその才能を磨かないと何も始まらない。


「あらあら、そういうことね。母親としてはあまり賛成できないけど、楽しみなさい」


 お母さまは何かを察したようだ。ちょっと怖い。


「まあ、目標があるのはいいことだ。まあ、幻術師でも『英雄』や成功しているものもいるからな」


「お父様、その幻術師の『英雄』や成功した人について詳しく!!」


「まあ、やっぱり興味あるよな」


 お父様の目がキラキラしだした。お父様自身も魔導士の『英雄』と呼ばれるからか英雄譚が大好きだ。


「幻術師の『英雄』幻神様、幻術師として最も成功した商人であるファントム劇団のユーリッヒ=ファントムだ。まずは幻神様から話そう」


 「幻神様の逸話は数が多い。ただ一番有名なのは一万の兵をたった一人で撤退に追い込んだという話だろう。他にも、何体ものドラゴンを一人で倒した話や数々の戦争での武勲とまさしく武によって国を何度も救った『英雄』だ」


 おお、幻神様すごいなあ。ホントに幻術師なのか。というかそんな『英雄』がいるのに最弱認定されるって幻術師ってどんだけなんだよ。幻神様、カッコいいな~。


「次にユーリッヒ=ファントム。この方は幻劇の手法を体系化した。幻劇っていうのは幻術師が幻影を使って行う劇だ。人にはできないようなことでも劇でみられるっていうのはすごいぞ。私も従軍の折に見たが凄かった。ユーリッヒ殿が体系化するまでは幻術師の幻術はレベルが低かったが彼が体系化したおかげで本物だと信じてしまうほどの幻が見られるようになった。ちなみに、アルスが通う幻術師育成コースの出資者は彼だ。もしかしたら会うことができるかもしれないな」


 幻劇。幻術を使った劇か。確かに似たようなことはできるかもしれないけど、本物だと信じるほどってすごいなあ。勇者の諸々を知るために都会に出る口実にちょうどいいとか思ってたけど、幻劇も面白そうだ。


「シンシアちゃんが騎士団に預けられるという話は聞いたか?」

 

 シンシアの身体が不意に自分の名前が呼ばれたからかびくっとした。俺からしたら、ここで釘をさしてくるよなという感じだ。伊達に貴族の子弟をしていない。


「はい、シンシアから聞きました」


「そうか、シンシアちゃんの騎士団での保護者が決まった。私の友人で騎士団長、『英雄』でもあるセルシウム=パルームだ」


 肩書の多い人だな。でも『英雄』ということは何か国難を武によって解決した人ってことか。強いんだろうな。


「えっと、どんな人なんですか?」


 ずっと黙っていたシンシアが尋ねる。


「優しい奴だよ。自分ひとりなら助かる時でも仲間のために身体を張る。なかなかできないことを当然のように行う。すごい奴だ」


 もしかしたら、かばわれた仲間はお父様だったのかもしれない。それほど、重く深い言葉だった。


「優しい人なら良かったです。頑張ります」


 シンシアが笑顔で答える。その笑顔にお父様もお母さまも驚く。シンシアが勇者の真実を知って、まだ落ち込んでいると思ったんだろう。さらに、騎士団での保護者といえば聞こえはいいが、実際は勇者の監視人。いざとなったら勇者を世界に無理やり捧げる人。シンシアを殺すかもしれない人を紹介したわけだから気まずかったんだろう。


 お母さまが俺の方を向く。


「アルスはいいのですか?」


 何がいいのだろうか。シンシアが騎士団に行ってしまうこと?シンシアと離れ離れになること?シンシアが20歳までに死んでしまうこと?


「今の自分ではどうしようもないことだと思ってます。勇者はいつ捧げられるのですか?」


 お父様とお母さまの顔がゆがむ。


「正確には分からないが、18歳頃だろう。早くて16歳。古の地を統括する貴族次第だ」


 お父様の声は若干震えていた。だから話題を変える。


「俺の出発はいつですか?」


「3日後だ。目的の教会まで馬車で一日、旅支度を整えておきなさい。また確認する」


 朝食は終わった。そこからの日々は忙しかった。旅支度といっても貴族の旅支度だ。ずっと汚い服を着まわすわけにはいかない。ある程度の格式の服も用意しないといけないし、教会近くの地理と貴族の勉強などをしないといけない。


 ◇◇◇◇


 3日後


 「気を付けるんだぞ」


 馬車に乗る俺にお父様が言う。お母さまは旅支度の最後のチェックをしてくれている。シンシアと他の子供たちとの別れは昨日済ませた。


 荷物の積み込みとチェックも終わったようだ。お母さまが顔を出した。


「気を付けるのよ。教会には貴族の子弟も学びに来てるから喧嘩しないようにね。楽しんでらっしゃい」


「はい、行ってきます」


 馬車が動き出す。生まれ故郷を旅立つ。感慨はある、けどそんなことより前を向くべき目標がある。昨日、明るい星の下でもう一度シンシアと約束したんだ。


「シンシア、カッコいい勇者になってね」


「アルスこそ私を大往生させてね。期待せずに待ってるね」


 お互いに笑顔で約束する。なけなしの虚勢で嘘を塗り固めて、どうしようもない現実に笑顔で蓋をする。そして、決して開かないように約束を結ぶ。今はそれしかできない。10歳のガキに出来るのはここまでだ。だから、努力する。いつか、どうしようもない現実を変えられるように。そのために幻術師の少年は旅立った。








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